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18話 『管理室』

  管理室に入るのは初めてだ。

  普通に学校で生活してたら入ることはない。

  そもそもここは先生の中でもかなりえらい立場でないと入れない。学校の施設を監視するため悪用されると困るからだ。

  本来ならキノ先生でも入れないはずなんだが…。

  

  中は思ったより暗い。部屋の大きさは学校の教室の半分くらいだろうか。明かりが一つしかなく、部屋を色で表すなら黒だろう。それぐらい暗いってことだ。

  前には大きな機械や液晶が何台もある。画面から実際に校舎の様子が見れる。今はどの画面にも誰も映ってはいない。

  画面にはたくさんの数字が羅列している。プログラムが完了したとか、No3ファイルを開封とかよくわからん言葉もあった。

 

  キノ先生は管理室をきょろきょろ見ているナギトを眺めている。

  ナギトはそんなことは知らず前方に広がってる機械に夢中だ。

  液晶があるのはプルテールのみ。液晶はこの世界の技術では本来作ることができない。ナギトが気になっているのも納得がいく。

  

 「さて、ナギト。なんでここに来たか分かる?」

  

  体がビクッ!とした。機械どころではない。すぐにキノ先生のほうを振り返った。

  キノ先生は少し笑みを浮かべている。

 

 (その発言からすると説教か?俺なんもやってない…、いやレイジさんについてとかか?)

  

  ただ明確な理由は分からない。悪いことなんて何もしてないからだ。

  てかふつう誰だって、いきなりそんなこと言われても理由なんかわからないだろう。

  嫌な汗が流れてきた。心拍数も少し上がってきた。

  いやよく考えろ、なんで俺は大ホールではなくてここなのかを。

  

 「えっと…。さっき来るの遅れたから…とか?」

 「半分正解ね。あ!これ別に説教ってわけじゃないからそこは安心して。」

 

  遅れたのも関係してるのか。それは予想外だった。

  実を言うと適当だった。適当な答えが正解するのは少し面白い。

 

 「遅れたらここじゃなきゃダメなの。いやここじゃなくても何とかなるんだけど、一目につかないところって言ったらここしかなくて。この杖渡す儀式は人に見られちゃダメなんだって。」

 「そういうことですか。だから誰も来ない管理室を…。」

 「そーそー。戦術士の杖渡したいんだけど、そ・の・ま・え・に、少し質問に答えてくれない?」

 「あ、はい。分かりました。」

  

  そういえば半分正解だっけ。ならもう半分は何だ?

  流れからしてその質問だろうなー。

  そしてその質問が終わったら杖がもらえる…のか?


 「それで質問なんだけど、さっきまで霧神さんと一緒に闘技場にいなかった?」

 「え…。まぁいましたけど。」

 「やっぱりね。さっき監視装置見たんだけど闘技場に似ている人がいたから、やっぱあれはナギトかー!」

 

  いや見られてたのかよ!てかレイジさんのこと知ってるんだ。正直それのほうが驚いて見られたことはあまりびっくりしなかった。

  昔最強の4人組だったんだし、さすがに知名度はすごいか。あの人自分で有名とか言っていたし。

  有名ってのは本当だろうな。

  それに世界で唯一の吸収魔導士だっけ?なんかそんなことも言ってたような。

 

 「それ俺ですね。いつから俺とレイジさんを見てたんですか?俺が闘技場に着いたくらいとかですか?」

 

  俺がズタボロにされてからか?やめてくれよそっから見たとか。

  『主席合格が相手に全く歯が立たずボロボロ』とか永遠の黒歴史になり学校に歴史でも残したらもう顔向けができない。

  一応殴ったりして少しは相手に傷を負わせることができたから、そこは見といてくれよ…?

 

 「いや、確かナギトが霧神さんを殴ったあたりから?あの左手に電気を纏って霧神さんを吹っ飛ばしたとき!。」

 「あー!そこからですかそうですか。俺のその発想すごいですよね!自分で言っちゃうのもなんかおかしいんですけど。」

  

  そこ見てくれただけでよかった。思わず自画自賛をしてしまった。

  レイジさんも驚いてたし、魔法大図鑑にあんな方法載ってなかった。

  つまり起源は俺だろう。

  いやそれはちょっと言い過ぎたかも。

  

 「すごかったねーあの発想は。あの霧神さんを攻撃できるなんてそれだけでも十分すごいのに。」

 「でもそのあとはすぐに追い詰められて、死ぬかと思ったんですよ。あの人いきなり本気出しちゃって…。」

 「あれ大丈夫だったの!?霧神さんすごい本気出してたし、見てるとき『ナギトが殺される?』って思って急いで闘技場向かったの!」

 「あぁだから俺が大ホールに着いたときいなかったんですね。でも死にそうだったけど大丈夫でしたよ。実はあの後――。」

 

  ナギトは急に言葉が詰まった。何かを思い出した。

  俺は助けてもらった、あの人に。でもあの人は…。

  俺に教えてくれたのも魔法を見せてくれたのもあの人だ。

  それに悪気は感じなかった。本当に俺を零術魔導士として成長してほしかったのだと思う。

  少なくとも教えてくれた時のリューヤさんから悪人感はなかった。

  こんな自分を見守ってくれる、それだけでとてもうれしかった。

  

 (キノ先生ってたしかリューヤさんを尊敬してたはず。国王殺害事件も間違いなく知っているだろう。それなのになぜ…?) 

 

 「そうだナギト!それでどうしてここに来たか、だよね?」

 「え?あっそうですね…。どうしてなんですか?管理室に来るなんて理由がありますもんね。」

 

  キノ先生は液晶のほうに歩いた。そしてなにやら機械をいじっている。

  すると映ってる画面が逆再生した。

  歩いてる人たちが高速で後ろ歩きをしてる。かなり早い逆再生だ。

  少し経って逆再生を止めた。そこには闘技場が映っている。

  中にいるのはナギト、レイジ、そしてリューヤがいた。

  レイジは倒れており、ナギトがリューヤに気が付いたところだ。


 「ナギト。このナギトの前にいる人は…?」

  

  暗い声でナギトに言ってきた。キノ先生の目はハイライトがないくらい感情がない。

  前にリューヤの話をしたときみたいな表情だ。

  どことなく怒り、もしくは悲しみを感じるような。

  緊迫した空気が管理室にできた。


 「えっと、その人はリューヤさんです…。俺が戦ったときちょうどここに来たんです。」

 「そう…。この人が…。やっぱり。」

  

  なんだこの空気は。部屋の明るさ並みに暗いぞ。

  前もこんな空気あったけどこの人本当にリューヤさんのこと好きなのか?  

  声は暗いし目は怖いし、テンションがいきなり変わるし。

  前見せたあの顔。やっぱこの人…。


 「ちなみに助けてもらったのはリューヤさんです。それがどうかしたんですか?」

 「………。」


  先生は黙った。俺は何を話題にすればいい?

  正直この空気は苦手だ。今すぐにでも脱出して明るいところに行きたい。

  

 「いやーいいなー!ナギトはよくリューヤさんに会えて!私も会いたいのに!てかその空間に金切ナギト、リューヤさん、霧神レイジさんって零術魔導士が3人もいるなんてすごい偶然だね!」

  

  いつものキノ先生に戻った。

  確かに先生の言う通り零術魔導士が3人近くに集まるのは偶然というよりかは奇跡に近い。普通そんなに集まることはないだろう。

  先生がそれに感心するのは分かる。

  ただ、それよりも気になることがあった。


 「先生。」

 「ん?何?どうかした?」 

 「先生はリューヤさんについてどう思ってますか?」

 「どうって?すごく強くてかっこいいなーって思うよ!私はとてもあの人が好きだなー。」

 「そうですか。それなら国王殺害についてどう思いますか?」

 

  先生は驚いた表情をした。

  唐突だけど言うしかなかった。さて、先生なら何て答える?

  返ってきた答えはナギトの予想を大きく超えた。


 「国王殺害?どこかの国王が殺されたの?」

 「???え、だって、え?」

 「ちょっとちょっと、どうしたのそれリューヤさん関係あるの?」

 「いや、関係あるっていうか本人っていうか…。」


  リューヤさんが殺したのを知らない?いやまず国王殺害を知らない?

  ならあのリューヤさんの発言は?すべて法螺話になる…?

  

 「プルテールの先代国王って今いませんよね?何かあったんですか?」

 「先代国王?確かに見てないね。いつの間にかクレスさんに変わったし。聞いた話じゃ病死したらしいけど。」

 「病死?病気で亡くなったってことですか?」

 「まあ漢字で見た通り病気で亡くなるってことだよね。まだ若かったのに…。でも本当かわからないけどね。」


  ますます分からない。なら先代国王は病死?

  でもレンが、『しかし小野リューヤ名前の人って確か先代国王をさ…』とか言っていた。

  その発言が引っかかる。先代国王を何だ?あの人は何をした?

  考えても分からない。正解はリューヤさんが知ってるはずだ。

 

 「あっそうだ!杖!忘れてた!」

 「あ、ここで渡すんですか?大ホールじゃなくてもいいんですか?」

 「別に渡す場所は決まってないからね。…ハイ!これが新しい杖ね!新品だしきれいだから大切に使ってよ?」

  

  キノ先生は持っていた箱から杖を出し、ナギトに渡した。

  渡された瞬間ずっしりきてびっくりした。見た目から分かってたが、前回の杖より普通に重い。片手で持つのが精いっぱいなレベルだ。引きずったほうが絶対いいが、傷ついてしまう。

  

 「これ、重くないですか?持ち運ぶの結構大変ですよ。これ持って戦うのはさすがに…。」

 「そこは大丈夫!戦術士になったらすぐ軽量術を学ぶはずだから。それ使うと杖がめっちゃ軽くなるの。だからそれまでは頑張って我慢してね。」

 「あ、分かりました。」

  

  なぜ卒業するまでにその軽量術とやらを教えないのか。そこはよくわからない。

  重くて仕方ないが我慢するか。


 「じゃあもう帰ってもいいんですか?明日早いんでかえって寝たいんで。」

 「もう大丈夫よ。それじゃナギト、戦術士頑張ってね!」

 

  手を振ってキノ先生は見送った。 

  ナギトは手を振り返して管理室を出た。

  やっぱり片手で持つと重い。階段降りるときは慎重にいかないと。



 「いやー!久々にこんな動いたな!そうだろクレス!」

 「そうだね。レイジと戦うのはやっぱり楽しいねー。」


  最初は別々の部屋に入っていたが、レイジはすぐに飽きクレスの部屋に行った。部屋の中は意外と広いらしく、2人でも余裕で特訓できた。

  2人で仲良く特訓…。なんてことはなく、いつの間にか戦いが中で始まった。喧嘩とかではなく、単純に2人とも誰かと戦うのが好きなのだ。特に強い相手がいればなおさら戦いたくなる。それは本能だろう。


 「怪我してるけど大丈夫かい?ここは練習場と違って自動回復がないから怪我が起きちゃうからねぇ。」


  レイジは右足と両腕、背中に傷がついている。結構大きな怪我だ。歩くのもふつうはつらいだろう。

  そんな状態でもレイジは元気そうだ。


 「こんな怪我何も問題ない!それよりクレス!さっきの戦いは本気か?」

  

  レイジにとって怪我よりクレスのほうが重要らしい。

  クレスは少し微笑んで、


 「そうだね、最後のは本気を出しちゃったよ。多分本気じゃなければレイジに殺されるかもしれないからね。」

 「そうか!あれが本気か!やっと俺はクレスに本気を出せるまでなったのか!」


  レイジは『よっしゃー!』と叫んで子供のようにはしゃいだ。

  彼はいつまでも子供のような無邪気な心を持ってるのだろう、とクレスは思った。

  2人は入口に来ると、ガラス越しに見覚えのある人が外を歩いてた。

  フードをかぶっていたが2人はすぐに誰かわかった。

  その人はドアを開け真っ先に2人を見た。


 「お!リューヤじゃないか!2時間ぶりだな!」

 「ん?リューヤかい?どうしたんだい?」

 「魔力探査(クロト二オ)を使ったら、ものすごい強さの人が2人ここにいるので身に来ただけです。」


  魔力探査(クロト二オ)は周辺の魔力の大きさを測る魔法。強ければ強いほど魔力は大きいため、どこに強い人がいるのかこの魔法を使えば瞬時にわかる優れものだ。


 「もしかしてさっきレイジとリューヤは会ってたのかい?」

 「ああ!俺とリューヤとあとナギトもいたさ!零術魔導士3人集結だった!」

 「なんだ、ナギト君もいたのか。彼は主席だってリューヤ。君を思い出すね。」

 「そっすか…。それはどうも…。」

  

  素っ気なくリューヤは返答した。さすがに2人とも違和感を覚えた。

 

 「どうしたリューヤ?いつもより元気がないな!さっきまでは一緒に騒いでたじゃないか!あ、騒いでるのは俺だけか。」

 「いや、元気ないわけじゃないんですけど…。あいつ、ナギトのこと考えたら少し…。」

 「「少し?」」

 「俺、言ったんですよ。先代国王殺したこと。そしたらナギト、俺を軽蔑するような目になって…。多分俺は失望されたんすよ。」

 「言っちゃったのかい?だってナギト君、あの人のこと…。」

 「もちろん知りませんよ。この国の国民と同じ、善良な先代国王だけを見ています。本当の国王を知ってるのは、俺たち4人と、ウォールト学院の精神操る魔法を使うキョウ先生?とかそんな名前の人と、あと先代国王の側近のやつらだけでしたよね?」

 「そうだね。だから本当のあの人を知らないナギト君はリューヤに失望したのか。」

 「でもリューヤ殺した後、ナギトにその記憶をなくすよう、キョウ先生の魔法をかけたじゃないか?言う必要なんてあったのか?」

 「確かに、ナギト君以外にも何人かに魔法をかけたよね。ほかの人には言わず、ナギト君にだけ言ったのはどうしてだい?」

 

  (なぜだ。なぜナギトにだけ言った?そもそもなぜあの時、初めて会ったナギトに魔法をかけた?俺でも分からない。今から5年前、顔も名前も知らない時だ。偶然目が合っただけだった。でもその時見せたあの軽蔑した目、それを見たら考えるよりも体が動いた。それだけだった。)


 「ナギトに嘘をつきたくなかった…のかもしれません。ただそのせいでまた軽蔑する目を見ちゃったんですけどね。」

 「まー嘘をつかないのは良いことだろう!本当の自分を知ってほしいなら猶更な!ん?あれ、でもリューヤ。」

 「どうしたんすか?」

 「実は闘技場でリューヤと別れた後、学校にいるリューヤをあこがれてる先生っぽい人に出会ったんだが。その先生リューヤが殺したこと知らなかったぞ。」

 「え?」


  リューヤは学校の先生に魔法をかけた覚えがない。だからすべての先生はリューヤが殺したことを知っている。

  だからナギトに教えるために学校に入ったのもフードが必要で、とにかく身をひそめながら移動をした。


 「誰ですかその人?マジでしらないんすけど。」

 「確か、キノ?って名前の先生だったな。結構若いしきれいな人だったぞ!」

 「誰だ?知らないなそんな人…。勘違いとかじゃないですか?」

 「キノ先生?なんで彼女がリューヤのを知らないんだ?」 

 「クレスさん知ってるんですか?」

 「ああ、少しいろいろとあってね。今学校にいると思うから行ってみれば?でも、周りにばれたら大変か…。」

 「いや、行ってみますよ。やっぱりその人が気になるんで。何でしたっけ名前?キノ、でしたっけ?」

 「そう、その人さ。教師の中に女性はあまりいないからすぐにわかると思うよ。」


  リューヤは走って外に出た。フードを被るのを忘れていたが、周りに人はいなく見られなかった。外はもう暗くなりかけている。卒業した人たちは明日から活動するため、先生はそれを朝早くから見送る。早くしないと先生たちは帰ってしまうだろう。居るとしても、あと10分ほどと考えたほうがいい。リューヤは急いでウォールト学院に向かった。 

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