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17話 『先代国王』

  風の音があたりに響く。

  今日の風は普段よりおとなしい。スポーツをしてても気にならないくらいだろう。

  

  それすら大きく聞こえるほど闘技場は静かだった。

  闘技場の中にいるのは剣を持った男と制服をきた何も持っていない男。

  身長は剣の男のほうが大きく、あまり差はないように見える。

  両者とも金髪であり傍から見れば兄弟に見えるだろう。

  実際小さいほうは剣の男を兄のように心の中で慕っていた。

  そう、今この時まで。

  

 「え、リューヤさん?嘘ですよね…。だって、先代国王って国民から尊敬されるすごい人ですよ。まさか、あなたが殺すなんて…そんなことあり得ませんよ!」

 「いや、俺は殺した。お前は知らないかもしれないけどな。ほかの人に聞いてみろ。小野リューヤは先代国王を殺した人、と認知されてるだろ。」

  

  リューヤの声は真剣だ。嘘をつくような声ではなかった。

  真実だって思いたくない。嘘であってほしい。

 

 「なんでですか?なんでそんなことを…。とつぜん姿が見えなくなったのはあなたが殺したからですか?ねえ!どうなんですか!!」

 

  ナギトから出てきたのはそんな言葉だった。

  先代国王はクレスよりも若くてかっこいいとは言えない30代くらいの人だった。

  ただ国民のことをよく考えていて、学校にもよく来てみんなにアドバイスしたり応援したり多くの人から尊敬されていた。

  ナギトはまだ小さかったが国王のようになりたい、と密かに思っていた。

  多くの人から尊敬されるような、そんな人に。

  

  ある時から国王は姿を消し、代わりにクレスになった。

  どうして変わったのか、そんな記憶はなぜかなかった。

  長年疑問だったことが、今こんな感じに知ってしまった。


 「お前がどう思ってるかは俺にはわからない。でも殺すしかなかった。」

 「どうして…。理由は?答えてください!」

 

  自分でもびっくりするくらい強気だ。こんな気持ちになったことは一度もない。

  胸の奥が熱く、苦しくなる。


 「…お前は先代国王をどう思ってる?質問に答えるのはそのあとだ。」

 「国王…。あの人はとても国民のことを思って行動する人でした!殺されるような人ではない!」

 「そうか…。そう見えたかもな。昔の俺もそう思ってた。でも――。」

 「でも、何ですか…?あなたはそんなすばらしい人を殺す人なんですか?」

 

  リューヤは下を向いた。

  ナギトの目から涙が垂れた。これは悔し涙か悲し涙か自分にも分からなかった。

  無意識に杖をリューヤのほうに向けていた。

 

 「今のお前に俺はどう見えてる?好きなように言え。」

 「どう見えてる…って。そんなの…。一つ言えるのはあなたを尊敬してた自分が恥ずかしい!俺が憧れて先生のように思っていたリューヤさんはあんたじゃない!」

 

  空気は春にしては冷たく、風により砂埃が舞っていて少しうるさい。土のにおいがあたりに充満し、口の中は少し甘い味が広がった。

  

 「…そうか。…本当にすまない。ただ、あの人を殺さなければ、死んでたのは国民全員だ。」


  そう言ってリューヤは消え去った。風のように一瞬で去っていったためナギトはリューヤの顔が見れなかった。

  でも去るちょっと前の顔は、悲しそうな顔だったのを覚えてる。

  

  その場に残ってるのはナギト一人。リューヤが何でそんなことをしたのか全く理解できない。

  ナギトの中で先代国王は多くの人から支持される人だった。決して悪人ではない。

  

  でも最後の発言は何だ?

  あの人が殺されなければ死んでいたのは俺たち…?

  国王は国民を殺そうとしていた…?

  いや、そんなことあるはずがない。

  

  そんなことを考えてるといきなり電話が鳴った。

  ナギトは『うわっ』とびっくりして思わず声を出した。

  ポケットから通信機器を取り出し電話に出た。

 

 「もしもし…。」

 「どこ行ってたのナギト?クロスに聞いてもわからないし学校中探してもいないから心配しちゃって!」

  

  キノ先生からだ。探してるってそんな重要なことでもあるのか?

 

 「すみません。少し学校中歩いてまして。それで要件は何ですか?」

 「歩いてたの?見なかったけどなー。まぁいいや。ナギト!戦術士になったから特別な杖がもらえるの。今すぐ大ホールに来れる?」

 

  戦術士の杖。さっきレイジさんも言っていたな。

  そんなすぐもらえるのか。普通にありがたいし、慣れる必要もあるから良かった。

 

 「分かりました。大ホールですね…。」

 「どうしたの?元気ないね。もしかして今の杖に愛着湧いちゃってほしくないとか?」

 「いや別にそういうわけじゃないんですけど。ちょっといろいろありまして…。」

 

  多分俺はリューヤさんのことでショックを受けたのだろう。

  今も心の中で『そんなはずない。あのリューヤさんだぞ。』って否定してる自分がいるのも事実だ。

  電話越しからキノ先生の声が聞こえるが全く頭に入ってこない。

  自分の心の問題だからほかの人は不安にさせたくない。


 「すみません。やっぱ何でもないです、すぐ向かいます!」

 「え!?ちょっとナギト…。」


  急いで電話を切ってしまった。

  今の自分はどうかしてるのか?背中は暑くないのに汗で濡れている。

  

 (でも、キノ先生はリューヤさんを尊敬してる。その事件についてしらないのか?)


  思えばなんか引っかかってた。小さいころの出来事だけど、そんな大きな事件知らないなんてあるか?

  それに国王はもちろんそのことを知っているだろう。それなのにリューヤさんのこと特に言っていなかった。

  まずこの世界に生きていること自体おかしい。国王殺しなんて即死刑確定だ。いくら国最強の戦術士といえど、例外にはならない。

  

  ならどっか間違ってる。やはりリューヤさんは――。

  大きく深呼吸して大ホールに向かって走った。


  

  

  プルテールの南東側に戦霊を管理する施設がある。巨大とまでは言えないがテニスコート30個分の広さだ。

  この国でもかなり古い部類であり創設者はウォルター・ブレッドの弟子ともいわれている。

  すべて木造でできており、中は円状の大きな部屋が1つとその円周上にいくつかドアがあり、中は部屋になっている。


  では、具体的にこの施設は何をするのか?

  基本は3つある。

  

  1つ目は学生から戦術士になったときに、その人たちに戦霊を与える。与えるって言っても戦霊が書かれた札を渡すだけ。その札を選ぶのは戦術士自身であり、あまり役割はない。

  2つ目は戦霊の回復。戦霊は魔法でできてるため、基本はその人の杖や剣の中にいる。その中に入れば傷ついても自動で回復する。しかしそれにも限度があり、何回も回復すると戦霊の体が弱くなる。その弱くなるのを回復する役割がある。基本はそれを行っており多くの人は戦霊の弱さを回復する施設と思っている。

  3つ目。これはかなり異例だが、戦霊の特訓。これは戦術士がこの施設に来て行う。基本、特訓は町の外の野原や森の中など人のいないところでする。しかし戦霊が強すぎるあまり外部で練習すると生態系などに影響を与える場合がある。この施設の壁は戦霊の攻撃をすべて無効にする。ゆえに暴れても問題はない。


  3つ目の理由で来る人はほとんどいない。しかし、今日その理由で訪れた人がいた。

  神谷クレスだ。

  彼は頻繁にここに出入りして戦霊の特訓を行っている。国王であっても油断はできないのだ。


 「あれ、またクレスさんかい。一体何回ここに来るんだ?」

 「こんにちはリフロさん。今日もまた特訓だよ。」


  受付のようなところにそのリフロという男がいる。

  年齢は非公開らしいが明らかにクレスよりも上っぽい。

  眼鏡をかけており立派な髭を貯えている。屈強そうな見た目だがあまり身長が高くなく本人も少しそれを気にしているそうだ。


 「あんたはよくここに来るね。国王なら特訓する必要ないんじゃないか?確か法律で決まってただろ、国王は戦闘に参加しないって。」

 「確かにそうだけどね、実は国の平和が危ぶまれるときは大丈夫らしいんだ。最近法律が変わったからね、それで戦う準備はしたほうがいいかなって。」

 「そうかそうか。でもあんた特訓しなくても十分強いだろう?戦霊だってもはや怪物みたいなもんじゃないか。」

 「それもそうなんだけどね…。今の世の中見るともしかして僕より強い人が出てくるかもしれないから、ね?」

 「ハハッ、あんたはやっぱり面白い。それで、今日も特訓か?当たり前だが部屋はがら空きだ。どこでも好きなように使ってくれ。」

 「ありがとう。それじゃお言葉に甘えて…。あっそうだ!」


  クレスは何かを思い出した。そしてポケットから小さな紙を取り出した。

  そこには小さい活字がびっしり詰まっていた。

  新聞の一部を切り取ったようだ。

  

 「リフロさんなら、『これ』についてどう思います?」

 「これってお前…。そんなことがあるのか?」

 「どうやらあり得るようだね。これ見たとき僕は…。」

 「おぉ!そこにいるのまぎれもなく確実に100%クレスだな!!!」


  後ろから何やら騒がしい声が聞こえてきた。

  その人は声とともにやってきて、流れるようにクレスの肩を両手で掴んだ。

  

 「なんだいレイジ?こんな真昼間からずいぶん騒がしいねえ。」

 「それはすまない!しかし聞いてくれ!ほんとに零術魔導士はいたんだ!クレスの虚言ではなかった!」

 「僕は基本嘘はつかない主義だが…。それで、どうだったんだい?」

 「いやー俺としたことが加減を知らずつい殺すところだった!あいつは今はそこまで強くないが潜在能力というやつがかなり高いな!まるで昔のリューヤっぽかったな。」

 

  その話からするとやはり戦ったのか。ただ殺すとこだったってことはレイジでも予測できないことが起きたのかな?それともそれほど追い詰められた…ってことはさすがにないか。

  でもレイジの背中には切られたような傷?がある。ナギト君は魔剣変形(フロムリリック)なんてできたっけ?


 「レイジ、その背中の傷はどうしたんだい?さっきから見て見ぬふりしてたけどさすがに気になって仕方がない。」

 「あぁこれか!こいつはリューヤから切られたんだ!あいついきなり戦いに入ってきて驚いたぞほんと!ただそのおかげで殺さずに済んだんだが…。」

 「リューヤ?彼またここに来たの?」

 「そうだ!なんで来たかはさすがの俺でも分からんがな!」

 「なるほどリューヤね。てっきりナギト君が魔剣変形(フロムリリック)をできるようになったのかと思っちゃったよ。さすがにそんなことはなさそうだけど。」

 

  レイジは黙った。何かに困惑してる。

  ぽかんと小さく口を開けたまま声を出した。


 「フロ…なんたらってなんだ?俺しらんぞ!」

 「え、レイジそれ戦術士になったとき…。それに君もよく使うはず…。まぁ君の記憶力ならそうだろうね。リフロさん。彼に魔剣変形について説明してくれないかい?」

 

  リフロはさっきの紙をずっと眺めていた。どうやらまだ気になっているようだ。

  レイジは『さらっと俺ディスられてね??』って顔でクレスを見た。


 「ん?俺か?えっと…魔剣変形(フロムリリック)についてだったか?」

 「そうそれです!来たことあったけどすぐ忘れちゃいました!」

 「それはお前もよくやっている、魔法を杖全体に流して刃を作り杖を剣のようにするやつだ。」

 「あー!あれか。あれそんな名前あるのか?初耳なんだが。」

 「昔何回も教わったよね。どうやってそんな忘れられるんだい?」

 「うるさい!俺は興味ないことはすぐに忘れる!過去を引きずらないタイプだ!」


  レイジはクレスの体をポカポカ叩いた。ただじゃれ合っている子供のように見えるが一応この2人は歴代最強の4人に入っている。周りからすれば、そんなオーラはまるっきし感じられない。

  リフロも同じことを感じていた。

  

 「それにしてもかつて、四天魔導士(プライスフォース)なんて呼ばれた人のうち2人がこの場所にいるなんてな。昔よりもだいぶ一般人っぽくなってるな。」

 「昔はちょっと…って感じでしたからね。周りから誰も近づいてこないようなオーラでてましたし――。」

 「いや案外あーゆうのがいいのかもな!今はだいぶ温厚になってるし、たまに他国のやつらと戦っても俺だってこと気づかないからな。」

 「てか思い出話に結構時間使ったぞ?そろそろ特訓したらどうだ?」


  2人は一斉に壁にかけてある時計を見た。長針はさっきより20分ほど進んでいる。

  ちょっと話しただけでこんなに時間は進むのか、と実感した。

  時の流れは速く、恐ろしいものだ。


 「それじゃ僕は特訓でもしてくるかな。久しぶりに本気ってのを出したくなったし。こいつも暴れたりないだろうからね。」

 「む!?それなら俺も特訓しようかな!さっきの戦いも動きがあまり良くなかったし。」

 「お姉さんに言わなくていいのかい?今特訓したら夜かなり遅くなるよ。」

 「わが姉はそんな心配はしないだろう!きっと家に帰っても『おかえり。遅いから早く寝な。』しか言わないだろうからな。」

 

  そういって2人は別々の部屋に入っていった。

  この2人の特訓ってだけで見てみたいが、見て巻き込まれるのはごめんだ。

  そうリフロは思った。

  すると前のドアが開く音がした。お客だろうか。

  お客を見てみると、さらに衝撃の人がやってきた。今日は一体どういう日なのだろうか。

 

  

 

 「ナギト遅いぞ!どこ行ってたんだ?」

  

  大ホールに着くとレンがさっそく問い詰めてきた。

  もうほかの戦術士の人たちはそろっていた。

  どうやらナギトが最後のようだ。


 「いや、ごめんごめん。それで例の杖は?」

 「杖ならもうみんなもらってるぞ、ほら見てみろ!」


  レンは見覚えのない杖もナギトに見せた。

  もともと学校の杖は鉄でできたような銀色の見た目をしておりかなり細い。どちらかというとステッキみたいなものだ。

  ただ、レンが持っていたのは黒光りした杖で光沢がある。以前よりも少し太く、先端に水晶のようなのがついている。


 「それが新しい杖か!なかなかかっこいいじゃないか。」

 「だろだろ!前回のは簡素っていうかシンプルでなんか味気なかったもんなー。」

 

  学校からもらえる杖は機能重視であるため見た目が少しみすぼらしい。予算の都合だろうか。

  よく見てみると、みんなもう新しい杖を持っていた。

  多分もらってないのはナギトだけだ。

 

 「それどこで貰えるんだ?見た感じどこにも俺の杖は置かれてないな。」

 「あー、キノ先生からもらえるんだけど…。どっか行っちゃってるなー。少し待ってみるか。」


  その時ドアが開く音がした。

  そっちのほうを見てみると、キノ先生がドアを開けていた。

  走ってきたのか、少し息切れしてるように見える。


 「ナギト…。ナギトはこの中にいる?」


  キノ先生はあたりを見渡した。どうやらナギトの姿に気づいてない。 


 「あ、ここにいます。すみません遅れてしまって。」


  ナギトは大きく手を挙げて手を振った。ドアから遠くにナギトはいたが、さすがにキノ先生は気づいた。


 「あ、別に遅れたのは大丈夫。それよりちょっと廊下に来てくれない?」

  

  そう言ってキノ先生は廊下に出た。

  ちょっと先生のところ行ってくる、とレンに言い走って廊下に出た。

  廊下を見ると奥のほうに先生はいた。早歩きをして突き当りに向かっている。

  

 (廊下に出たけど…。ついていったほうがいいのか?)


  先生は止まることなく歩く。どんどん速くなっている。走らないと追いつけないくらいだ。

  ナギトはとにかく急いでついて行った。

  一体どこまで行くんだ??


  廊下の突き当りを曲がって、階段を降りて、さらに進んで十字の道を左に曲がってようやく止まった。少し経ってようやくナギトも追いついた。キノ先生はとある部屋の前に止まっている。


 (ここって確か管理室、だよな?学校にたくさんある監視装置を見る部屋だっけ。)


  先生はちらっとこっちを振り返って、

 

 「この中に来て。」


  それだけ言って中に入った。

  杖を渡すだけだろうがわざわざここに来る必要はあるのか?

  なんでここなのかは分からない。

  とりあえずナギトは言われるがまま管理室に入った。

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