16話 『リューヤ来る』
何も音がしない。何も聞こえない。そんなの当たり前か、音を発してるのがないから。
透き通るように暖かい風が吹いてきた。今は3月、そろそろ春がやってくるのか。
そんなことどうでもいいな。結局俺は死んだのか?いやあの状況だ、死ぬ以外ルートは存在しないだろう。
なら何故まだ体が痛いんだ?死後も痛覚は残ってるのか?それは理不尽だ。死んだ時くらい優しくしてくれ神様よ。俺は死んでもかわいそうな存在なのかい。
それにしても眩しいな。目をつぶっていてもわかる。この眩しさは俺は嫌いだ。でも不思議と昔ほど嫌いではないけどな。
てかさっきと景色が変わっていない?ここは闘技場か?それとも天国にでもいるのか?
俺の行いはあまりいいとは言えない。つまり地獄に行ったのだろう。
ナギトは恐る恐る目を開けた。頼むから天国であってくれ…。
ナギトはきょとんとした。前には天使でも悪魔でもなく闘技場の壁が見え、上は青空が広がっている。雲一つないとは言えないがほぼ快晴みたいなものだ。たしか卒業式もこんな天気だったは…ず…?
まてまてまて、ここはレイジさんと戦った場所だ!しっかり闘技場だ。それに、前のほうには俺の半分になった杖が落ちてる。確か戦ったときに俺の杖は真っ二つに切られた。つまり場所は変わってない。なら死んでない…?生きてるのか?
それならさっきの戦いは?レイジさんは?俺は殺されなかったのか?
完全に殺される演出だろあれは。生きているのが不思議だ。
横を見るとレイジが倒れてる。背中に切られたような傷がある。何者かに切られたのか?だからとどめを刺されず俺は生きてるのか?それなら一体レイジさんは誰に切られた…。
さらに、眩しくてわからなかったけどナギトの前に誰かいる。前といっても数十メートルは離れている。しかしナギトは一瞬で誰か分かった。
あの髪型、あの服装、あの髪の毛の色、あの剣…
後ろ姿でもわかる風格、こんなの世界中でもあの人しかいない。
「リ、リューヤ、さん…?」
ナギトは今ある力を振り絞って前の人を呼んだ。すると前の人は後ろを振り返った。その顔は間違いなくリューヤだった。
リューヤは驚いた表情を見せた。死んだと思ってたのだろう。そしてナギトに近づき、
「ナギト、生きてたのか…!大丈夫か?けがはないか…って聞かなくてもいいか。すぐに回復させてやるから待ってろ。」
そう言って右手をナギトの体に当てた。リューヤさんは回復も使えるのか。
体はみるみる回復していった。2分くらいで完全回復した。体が動くことにナギトは深く感動した。
「そういえば、リューヤさん。そのレイジって人、」
「あぁこの人か。この人はな…。」
リューヤは倒れてるレイジに向かって歩いた。そしてレイジの目の前で止まり、
「全く、いつまで死んだふりしてるんですか?あんたならこれくらい平気ですよね?」
そう言った。レイジはすぐに膝についてる砂をはらいながら立ち上がった。
「いやー死んだふりではなくて感動の再開っぽいから倒れたふりしてただけなんだがな!どうだ!おれはいい感じに空気になってただろ!!」
「ハイハイ、それは分かりましたから、まずナギトに謝罪と説明と謝罪をしてください!!」
「おい!謝罪は2回もいらないだろ!謝罪は一日一回だ!」
「そうですねそうですね!あんたは黙って謝罪すればいいんです!分かりましたか?」
「謝罪は黙ってだとできないぞ!そこはギャグか?リューヤにしては珍しいな!」
リューヤとレイジはそんな感じに戯れていた。いやこれを戯れというのか…?
多分リューヤさんは敬語を使ってるあたりレイジさんのほうが年上だろう。
ただこの状況をみるとリューヤさんのほうがなぜか年上に見えるのは俺だけだろうか?
「というわけでナギト!今回は本当にすまなかった!別に殺す気なんてなかったんだ!信じてくれ。ただリューヤ以来の零術魔導士だからどんな感じかなー、て戦ったら少し本気を出したくて。」
「まぁ簡単に言うとこの人は負けず嫌いなんだ。それでナギトから攻撃受けたとき、ついムキになって大人げないことをした。そういうことだ。」
「なるほど…?わかったようなわからないような?…てか俺の杖は?直せるんですか?」
ナギトは半分になった杖を指さした。きれいに長さが半分になっていた。あたりには杖の破片も飛んでおり修復するのはかなり難しそうだ。
「あー杖か。確か俺と戦ったとき壊れたっけ。壊すつもりはなかったが本当にすまなかった!ただ、心配無用!戦術士になった記念でそろそろ学校から新品の杖をもらうからな!つまり今壊れても新しい替えがある!!」
「新品…ですか?それもらえるんですか?」
戦術士になるとそんなのがもらえるのか。新品の杖をもらうなんてキノ先生から聞かされてないぞ。
「そうだ!学校でもらう杖より頑丈で性能もいいし、よりより多くの使い道もできる!例えばさっき俺がやったみたいに魔法で刃を作って剣みたいになったりな!!」
たしかにあの剣みたいになるのは今まで見たことない。つまりあれは学校の杖ではできないのか。それにレイジさんの杖は鎌に変形したりした。そんなこともできるのか?変形なんてロマンあるな。臨機応変に戦うこともできるし。
「それに学校の杖ではできないが、それなら戦霊だって呼び出すことができる。ナギトも自分の戦霊ほしいだろ?一緒に戦ってくるからな。」
戦霊、か。あの動物を出せるのは戦術士だけだったっけ。だからその杖が必要なのか。
「そっかまだ戦術士じゃないから戦霊が出せないのか!それならそんなナギトに一つアドバイスだ!」
「アドバイスですか、それは一体…。」
「電気はものすごい種類の戦霊を出すことができる唯一の魔法だ。多分ほぼすべて出すことができる気がするな。戦霊は一度決めると変更できないから気をつけろってことだ。」
戦霊は戦術士になったとき、自分でカードを選びそのカードを杖に読み込ませることでいつでも召喚することができる。カードには動物が書いてありその動物しか召喚できない。レイジが言ったことを簡潔にすると『炎魔法は4足歩行、氷魔法は鳥系しか対応してない。炎魔法の人の杖は、鳥系を読み込ませることができないが電気魔法にはそんな縛りがない』ということだ。
「だから俺の戦霊は普通の魔法では召喚できない『龍』にしている。多くの魔法を使えるからかなり強いし便利だ。ナギトもよく考えたほうがいいぞ。自分の戦霊を。」
前にリューヤさんから戦霊を見せてもらったことがある。剣から魔法陣のようなのが現れ、そこから金色の龍が出てきた。龍は電気を纏っており、触れただけで電気が流れてきそうだった。ちなみに龍は2足歩行ではなく細長く宙に浮いているやつだ。
(リューヤさんはかなり自分の戦霊を気に入っていたな。自分の名前から龍にしたとか言ってたが、すごくなついてるらしい。)
「まだ戦術士にはならないんだっけ?」
「明日にレベアルっていう町に行くから、明日からもう戦術士です。」
「明日!?それはずいぶん早いな!俺たちの時は卒業から数週間は空いたんだが。やはり戦争が関係してるのか?」
レイジは考え込むように言った。どうやら戦術士になるのがあまりにも早く、疑問になっているようだ。数週間だったのが1日後になるのは戦争が関係してるのは間違いなさそうだな。
「レベアルか。もしかしてそこにある最高軍隊場に行くのか?」
「そうですね。確かキノ先生はそんな名前を言ってました。そこで戦術士としていったん修行してから戦いに行くんです。」
「修行かー。懐かしいな!実は俺とリューヤは同じグループで一緒に夜まで特訓してたんだ!共に競い合っていたもんだ!」
あれ?リューヤさんとレイジさんは同い年なのか?修行は3か月くらいしかしないからほかの学年と一緒になることはあり得ないんだが…。でも敬語を使ってるってことは目上なのか?よくわからないな。
何か思い出したような顔をして、レイジは杖を一瞬で小さく縮小した。折り畳みみたいな仕組みになってるようだ。
「そろそろ俺はクレスのところに行かなくては!じゃあなリューヤ、ナギト!俺はレベアルの近くに住んでるからもしかしたらナギトに会いに行くかもな!」
そう言ってすぐに飛び去った。向かった先はたぶん王宮だ。
「あ、おい!…ってあの人もう行っちゃったか。やはり行動が速いな。」
「気になったんですが、リューヤさんとレイジさんは昔からの知り合いとかなんですか?」
いきなりの質問にリューヤは少しびっくりした。
「そうだな…。知り合いっちゃ知り合いなんだがいろいろあってな。そうだ!せっかく霧神さんに出会ったんだから面白い話でもするか。」
「面白い話?レイジさんについてですか?」
「それも一応関係あるな。面白いっていうか自慢話っぽいんだが。お前は昔の俺のこと知らないだろ?」
「知らないですね。リューヤさんもそんな昔の話とかしないですからなおさら。」
「俺は昔の自分が嫌いだから話さないんだが俺のこと何も知らないのもよくないからな。よーく聞いてろよ。」
リューヤさんは思い出話をした。
約6年前、リューヤさんが12歳だったころ。
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俺はプルテールで生まれたわけじゃないがとある理由でこの国に小さいころ来た。別に大した理由ではないけどな。両親はいたが、今はかなり遠くの町で暮らしてる。ちなみに妹もいるが今どこに行ったかはわからない。生きているかもわからないほどだ。
もともと魔法の才能があったのか周りと比べても俺のほうが圧倒的に強かった。学校に入る前から国のほとんどの人に俺は知られた。まだ零術魔法が悪く思われてなかったから、俺は堂々と電気魔法をみんなの前で使っていたさ。確か魔法の大会とかで一般の部でいい成績を出したこともあった。
そのころらへんに今の国王『神谷クレス』に出会った。あの人は、俺の魔法が見たいって何度も言ってきて正直しつこかった。見せてやったらクレスさんはすっごい驚いて俺のことを気に入ったんだ。
今はないけど当時のウォールト学院には飛び級制度があってな。俺は入って2年しないくらいで卒業した。魔法も一般科目も両方トップの成績だった。
卒業して戦術士になった。入ってから年齢が近い人達で20人くらいのグループが作られ、その人たちと戦術士としてほかの国と戦ったりする。今もそうだったはずだ。
そのグループの中で霧神さんと出会った。さらにクレスさんもその中にいた。俺、クレスさん、霧神さん、そしてあと一人の4人組が当時信じられないほど強かった。プルテール歴代最強の戦術士って言われてたな。俺だけ12歳、ほか三人は13歳。俺だけ年下だが、別に先輩後輩の壁があるわけではなかった。
戦争が何回も起きたが俺ら4人はほかに比べてかなり幼かったのに一網打尽に敵を倒したさ。俺は魔法も強かったし剣に関しては負けなしって感じだった。
この4人がいればこの国は安心だって感じだったさ。俺らもそれは悪く思ってなかったし自信が出てきたしな。これからも国のために戦おうと誓ったんだ。あのころまでは良かった。
ただ、俺が14歳の時、とある大きな事件が起きた。それが原因で俺はこの国から離れたし4人ともバラバラになった。
プルテールだけでなくその事件は各国に知れ渡った。前例がないようなことだったししょうがないかもしれないな。
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リューヤの話はそこで終わった。
国王も戦術士だったとかめっちゃ強いとかリューヤに妹がいたとか、ナギトの頭はパンクしそうだった。初耳が多い。いきなり多くのことを言われれもあまりピンとこない。
「今話せるのはこんな感じか。何が起きたとかはちょっとまだ話せそうにないな。」
「なるほど…。昔この国に若くて強い4人組がいるって聞いたことあったんですけどリューヤさん達のことだったんですね!」
「そうなるな…。――確か俺は前『零術魔導士が大きな罪を犯したから悪く思られた。』とか言ったよな?」
「あー言ってましたね。あの初めて出会ったときですね。その言葉で周りの人に言うのが億劫になったんですよ。誰も俺のこと悪く言ってなかったから良かったんですけど。」
「そうそう。その時だったはずだ。それなんだが…。」
リューヤは一瞬黙った。言っていたがそれが何だろうか?あれ、さっきの話だとリューヤさんが学校に入ったときはまだ悪く思われてなかったんだっけ。
「その罪を犯したのは俺だ。俺のせいで零術魔導士は悪く思われるようになったんだ。」
それは想像していたがナギトにとって衝撃の事実だった。
そんなことはないと、どこかで思ってた。だって数か月だったが俺のことを育ててくれた大切な人だ。今、戦術士になれたのもこの人がいなければなれなかったはずだ。
そんな人が罪を犯す。しかも大きな罪。例えば反逆でこの国の敵になるとか。そういうことをしたのだろうか。でもそんな話聞いたことがない。
この人のせいで零術魔導士が悪く思われるなんて。
「…それは、一体何をしたんですか…。」
ナギトの声は小さい。心に穴が空いたようなか細い声だ。今頭の中にある言葉をそのまま出した。
リューヤは悲しい目をした。
言いたくないのだろうか。言えないのだろうか。
でもここで知っておきたい。
もしかするとこの人は悪い人かもしれない。今ここで首を切られたりしたらどうしようか。
いやリューヤさんはそんなことしない。
やっとリューヤは口を開いた。告げられた言葉はさらにナギトを驚愕させた。
「――殺したんだ。先代国王を。」




