14話 『卒業』
2日後、卒業式当日。
卒業式といっても順番に校長室に入って、個別に卒業証書をもらうだけ。だから練習なんて一回しかしない。しかも校長室ではなく教室で練習する。実際にやるのとは別物のようなもんだ。
待ってるとナギトの順番になった。校長室に入ると、校長しかいない。つまり一対一だ。別にそれに変な意味なんてないが、こんな状況は人生で一回くらいだろう。
ナギトはもらって部屋を出た。それまでにかかった時間。15秒。ほんと一瞬だ。
部屋を出ると、レンが待っていた。
「ナギト、今日で卒業だな。よかったな零術魔法が使えるようになって。」
「ああ。まさかレンを超えられるなんてな。正直思ってなかった。」
「俺も超えられるなんてなー。ただこの国にとってはかなり大きい戦力だ。」
「これもすべてリューヤさんが教えてくれたからだ。あの人に感謝しないと。てかあの人よく俺がお零術魔導士だってわかったよな?ただ魔法が苦手だったかもしれないのに。」
よくよく考えればそうだろう?5年生になっても使えないのはさすがに珍しいが、零術魔導士なんて世界に6人しかいない、かなり希少だ。
「あれじゃん?そのリューヤって人も同じように5年生になっても魔法が使えなかったとか。同じ体験してたりして。」
「あー。ずっと魔法が使えない人は自分の体験を合わせて零術魔導士だと思っちゃうってことか。」
「そーそー。ナギトも昨日そうなったんでしょ?」
それは昨日の出来事。
ナギトとクロスは校長から3年生に魔法を教えてほしい、と言われた。
3年生は3,4人以外みんな魔法が使えていた。
俺はその使えてない人を見たときとっさに、
(零術魔導士か?)
と思ってしまった。実際その人たちは魔法が苦手なだけであり、たまにしか使えないんだとか。
しかしそれを見た瞬間に零術魔導士と疑ってしまうのはなかなかやばいだろう。
このままじゃ『魔法使えない人=零術魔導士』という公式が成り立ってしまう。
「俺もなってしまったよ。思い込みなのだろうが、どうしても自分と合わせてしまう。」
「最初はそんなもんだろ。すぐに気にしなくなるだろ。あっそうだ、戦術士は集まりがあるんだっけ?」
「そーだったな。確か俺たちの教室だろ。」
(てか、リューヤってあの小野リューヤだろ?電気使うって聞いたし。なんであんなことした人がここに?ナギトも小野リューヤについてさすがに知ってるはずだ。)
レンは疑問を抱えたままナギトと一緒に教室に向かった。あの教室とも今日で最後なのかと思いながら。
中に入るともうすでに多くの人がいた。ナギトたちが最後らしい。
「お、遅いぞナギトとレン。どこ行ってたんだ?」
「ごめんクロス。いやーただ喋ってたらこんな遅くなったんだ。」
「なんだまた面倒ごとに巻き込まれたのかと思ってたぞ。」
「俺はそんな短時間に何回も戦いなんてしねーぞ。」
その時ドアのほうで
「あ、ナギトとレンもいる。これで全員揃ったね。」
キノ先生がそう言った。手には大きな地図を持ってる。その発言からさっきまで教室にいたのだろう。
「すいません遅れまして。」
「いいってそれくらい!それじゃ今後についてお話しするね。」
キノ先生は黒板のほうに立った。
「前に聞いたとき、この国に残って守るのが10人。遠くに行って戦うのが20人だったはず。この国に残る人は明日からこの国の端っこにある『国防軍隊場』に行ってもらうわ。そこでさらに魔法の練習をしてもらうの。次に遠くに行く人は…。」
持ってた地図を机の上に広げた。とあるところに赤丸が書かれてる。
「この赤丸のついた小さい町『レベアル』に明日行ってもらうわ。ここもプルテールの一部だから簡単に入れるよ。そしてそこにある『最高軍隊場』に行ってもらうの。そこについたらあっちの最高司令官が案内してくれるはず。」
ユメナとかは国防軍隊場、ナギトやクロス、レンなどは最高軍隊場に行く。
ここからレベアルまで30km以上はある。そこまで馬車が出るらしいから歩かなくていい。
ただまた寮生活のためこの街に帰るのはほんとのたまにだろう。
「多分あなたたちは何年もレベアルで生活するはずよ。ここに帰れるのは一年に1回くらいだろうね。」
住み慣れた街を離れるのはかなり悲しい。違う町に行ってもきっとここが恋しくなるだろう。それでも、守らないといけない。この国を。みんなもその気持ちは同じだった。
「それじゃ今日は解散。最後の寮生活だから早めに部屋に帰って思い出に浸りな。明日までまだ時間はいっぱいあるから。」
そうか、今日で最後なのか。そう思うと急に寂しい気持ちは湧き上がってきた。人生の3分の1はここで生活してきたからか。みんな教室を出て部屋に向かったのだろう。
「ナギト、俺とレンは部屋に帰るけどナギトも帰る?」
ナギトは帰ろう、と思ったがもう少しこの学校にいたい。もう来れないだろうから。
「俺はもう少し学校に残ろうかな。離れたくないし。」
「そうかわかった、んじゃまた明日な!」
「おう、じゃあな!」
教室に残っているのは俺だけ。この教室も一年間だがお世話になった。
この机も椅子も黒板も、ほかの人にとったらただの道具だろう。ただ俺にとっては思い出深いものだ。
惜しむ気持ちで教室を出た。廊下ではあまり音がしない。ほとんどの人が帰ったのだろう。
静かな廊下を歩き、階段を降りた。向かった先は特別講師教室。ナギトがリューヤと初めて会った場所だ。
中は明かりがついてなかった。ドアを開けると中には誰もいない。少しだけ部屋に入った。見覚えのある机と椅子、当時は気づかなかったが左のほうにテーブルもあった。
ここが俺の人生を変えた場所か。ここからも明日には離れなければならない。
次に向かった場所は練習場だ。
確か初めて零術魔法を使ったのはここだったっけ。あの時は本当に使えるのかって信用してなかったな。そのあとも休み中はよくここで練習した思い出の場所だ。
最後に向かったのは闘技場。
ここを使ったのは最近だが、個人的にこの場所は好きだ。戦術士になったのはここで試験をしたから、いわばここが聖地みたいなもんだ。そのあと戦ったあの敵。かなり強く死にそうになったがクロスと共闘して勝てた。一人では勝てなかったはずだ。
帰ろうと思ったとき中に誰かいる気がした。中で音がしたからだ。
またルイノの奴か?
中を見てみると何やら黒服の男が独り言を大声でしゃべっていた。
「くっそー!!頑張って一日でここに来たのに誰なのかさっぱりわからんぞ!クレスのやつにもっと特徴聞いてくればよかったなー!」
何やら悔しがってるようだ。それにしても声でかくないか?ここまで聞こえるぞ。
さらにその独り言は続いた。
「俺はせっかく来たんだぞ!正直、家に帰ってベッドで横になりながらぐだぐだしてるほうが1000倍楽しいぞ!いや今の楽しみは0だから1000倍にしても0か。数学は難しいな…って違う!でもクレスがこの学校に零術魔導士がいるだとか言ったから楽しみで来たんだ。零術魔導士なんてリューヤぶりだからな」
「…え、零術魔導士…?」
ナギトは思わず反応した。この学校の零術魔導士、しかもクレスはナギトが零術魔導士と知っている。この人が探してるのはナギトだろう。
「誰かそこにいるな!声は小さかったがしっかり聞こえたぞ!」
ナギトのほうを指さした。ここからでも聞こえるってどんだけ耳がいいんだ。
「すみません勝手に聞いちゃって。ただその零術魔導士って多分俺じゃないですか?」
その人物はナギトを凝視した。歳はリューヤさんや国王と同じくらいだろう。その人は何か思い出したようにすぐ口が開いた。
「たしかクレスが言ってたのは金髪ってことと、金の指輪をつけてるってホントにお前か!確か名前は…金切ナギト…?」
クレスって国王の名前だっけ。あの人俺のことこの人に伝えたのか。まぁどうせすぐに多くの人にばれてしまうから別にいいけど。
「そうです俺です金切ナギトです。ところで、あなたは?もしかして敵ですか?」
「ん?あぁ俺か!俺は霧神レイジっていう世界の戦術士のなかでも結構…いや、かなり有名な人物だ!敵じゃないから安心しろ!」
「自分で有名って言っちゃうんだ…。」
「それも聞こえてるぞ!いやいろんな意味で有名なんだが…。そうだ、お前は零術魔導士なんだろ?電気を使うのは本当か!?」
「一応本当ですけど…。」
「それなら話は早い!俺にその魔法を俺に使ってみろ!大丈夫だ、傷つきはしない!」
魔法を使う?それもこの人に?もしかしてそっち系の人?
見た感じ敵ではなさそうだ。なら目的は?
考えてもこの人については分からなそうだ。
「使うって、あなたに撃つってことですよね?それはなんでですか?」
「理由は簡単。俺がお前の魔法を見たいからだ!それだけだ!」
俺の魔法の威力はほかの人に比べて強いくらいだ。さすがに無防備なら大体の人に大ダメージを与えることができるだろう。
ただなぜだ?この人はほんとに傷なんてつかなさそうだ。俺と比べ物にならないくらい大きく感じる。
ただ、今はこの人の言う通り魔法を撃ってみるか。
「七光雷鳴!!!」
大きく叫び思いっきり撃った。ふつうの人なら当たれば死に至るかもしれない。ただそんなのお構いなしに撃った。
その人はよけず七光雷鳴を見てた。
「その魔法は電気の基本だな。さすがにそれは使えるか…。」
そう言い、手に持っていた杖、いや杖というより『鎌』っぽい。とりあえずその鎌を右手で握って七光雷鳴を切り付けた。
「え……?」
ナギトが驚いたのも無理がない。切り付けられた七光雷鳴は一瞬で弾かれて消えてしまったから。
「2か月でこれくらいなのはすごいがリューヤとかと比べるとまだまだ浅いな。こんなんじゃ敵を倒せないぞ!!」
「ならもっと強いの見せてあげますよ!」
ナギトは杖を上にあげた。そして電気を空に撃った。
「流星電光!」
その人にめがけて雷が落ちた。さすがにこの魔法でははじかれないはずだ。
「おお、これがあの流星電光か。この目で見るのは初めてだ!というわけで…。」
今回は雷を一個にまとめた。これなら威力は合計になる。これなら効くだろう。そう思ったとき、その人の鎌は一瞬で杖っぽいのに変わり、
「その魔法、もらうぞ。」
流星電光は吸い込まれるように杖に引き寄せられ、消えた。弾かれたのではなく消えた。まるで吸収されたようだ。
「いやー。結構いい魔法使うな君は!これはもっと成長しそうだ。…ん?どうしたそんな信じられないのを見たような顔をして。」
「え、いやだって今。俺の魔法は、流星電光は…?」
「さっきのか。あれはまだなかったからもらっただけだぞー?これでまた魔法が増えたぞ!」
「その魔法をもらうって何ですか?そんな魔法ありませんよ?」
魔法をもらう魔法なんてないはずだ。確かに攻撃系ではない能力魔法は多いがそんなの見たことも聞いたこともない。
「いやいやあるだろ1個だけ。そう零術魔法の『吸収』だぞ!俺もお前やリューヤと同じ零術魔導士だ。」
「ほんとですか!?でも確かにさっきのは吸収か…。」
零術魔導士はだいたい13.3万人に一人。それが俺を含めて短時間に3人も見つけたのか。
いやさすがにそんなことあるか?とんでもない確率だぞ。
「ナギトも驚いてるだろ!それは実際俺も一緒だ!クレスから零術魔導士がこの学校にいるって聞いたときなんかの冗談かと思ったほどだ。」
「こんな奇跡みたいなことあるんですね…。リューヤさんも零術魔導士ってだけでかなりの確率なのにもう一人いるなんて思ってもなかったです。」
「そこで、せっかくの出会いだ。少し俺と戦ってみないか?零術魔導士と戦えるなんて一生でもあるかわからないぞ!」
零術魔導士と戦うか、普通ならあり得ないかもしれない。それに攻撃ではなく吸収か。リューヤさんが言ってたが吸収は世界に一人しかいないらしい。その一人ってのがレイジさんか。
「それならお願いします。俺も零術魔導士と戦ってみたかったので。」
「やるなら本気か手加減、どっちがいいか?お前は本気できていいぞ!殺すくらいの覚悟でもうれしいな!」
さっきのを見たがこの人は間違いなく強い。それは俺でも分かった。ただ手加減のまま戦うのもなんか違う気がする。
「本気…ではなく少し本気くらいがいいです。」
「なるほど!ちょっと難しいが頑張るか。」
「てか闘技場は使ってもいいんですか?」
「今日から休みだろ?休みの時は自由に使っていいんだ。」
ナギトたちは卒業したがほかの学年は今日終業式だ。こっから少し休みが続く。つまり今は闘技場が使えるということだ。
「そっか今から休みが来るのか。それなら大丈夫ですね。」
「そうだろ?それじゃかかって来い!お前の本気を見せてみろ!!」
零術魔導士による戦いが闘技場で始まった。
同時刻にとある人物がプルテールに近づいてきた。




