12話 『操り』
クロスは俺に気づくと暴風を発生させ、相手を暴風の中に包んだ。
これで相手はその中でしか動けず、周りも見れない。
「クロス、これは一体どういうことだ?あの人が急に暴れたのか?」
「いやあの人は悪くないだろう。目の色が変わってたし、かなり強力な魔法を使ってた。まるで操られているような感じだ。俺はナギトと別れた後、帰ろうと思ったが控室に忘れ物があって取りに言ったらあの人が一人でいた。俺を見つけた瞬間攻撃をしてきた。」
「なるほどな、それなら目的は…」
「わからない、ただ殺し目的だろう。それにしてもすまない。俺では力不足だから。殺されるかもしれないのにナギトを呼んでしまって。」
「そんなの気にしてないさ。困ったときは助け合うのが基本だろ。それに俺もこの国を守りたいしな。」
相手は暴風を打ち消し姿を現した。
たしかに操られてそうだ。体の動きも様子がおかしい。例えるならマリオネットみたいだ。腕や足はまるで糸に縛られていて、自分から身動きをとることができない。そんな感じに見えた。
それに体の表面には薄い光沢のようなのがあった。手や顔などの肌や制服にも光沢があるため何かの魔法で包まれていそうだ。
ただそれより気になったのはあいつが空中に浮いていることだ。
「あれは浮遊術か…。何で使えてるんだ?」
浮遊術は戦術士になれば覚えることができる。操ってるにしても、それができるってことは操ってるやつは相当操り慣れてるな。
「あれ?その金髪、もしかしてケリンに勝ったやつ?あの電気を使う。」
聞いたことない声でしゃべってきた。間違いなく49番の人の声ではない。声からして自分たちより少し年下くらいだろう。
「ああそうだ。ケリンや戦ったことを知ってるってことはお前はルイノの人か?ていうか金髪って呼ぶな。」
「そうだねぇ。僕はルイノの魔導士だよ。少なくともケリンよりは全然つよいよー。」
「何が目的だ。答えろ。」
「強いやつを殺すこと。ケリンのやつは失敗したから僕がやるしかないんだ。強いやつを殺せば報酬がいいんだよ。その黒髪はなかなか強いね、気に入っちゃったよ。」
人を操っといて何言ってんだこいつは。
「クロス、あの人にダメージを与えたらどうなる?」
「操りでは本人に全くダメージは入らない。」
「よかった。なら二人であいつを倒すぞ!」
「分かった!」
ナギトは左手に杖を持ち、クロスは右手で杖を持ち構えた。
「七光雷鳴!!」
「黒霊十文字!!」
俺たちは同時に魔法を使った。
相手はよけられなかった。いやよけなかったのだろう。
奴は当たって地面に落ちた。2つとも当たったがすぐに傷がすぐに回復してた。体の傷がみるみるなくなっていった。
「自動回復か…?」
「もしかして今のが本気?それならざんね~ん!僕は治癒もできるからあれくらいの攻撃は一瞬で回復できちゃうよ。」
こいつは面倒だ。ちまちま攻撃は無意味だろう。
一気に攻撃するのがいい。
「それに僕の魔力はこいつから吸い取ってるから攻撃しすぎると、僕が回復してこいつが力尽きるよ。さて、今度はこっちの攻撃だよ。」
そう言って両手を広げ、また空中に浮いた。手のひらから大きく鋭く尖った氷が出てきた。
氷は手のひらから浮いて、
「君たちはこれでもくらっておきな!」
ナギトたちのほう高速で飛んできた。
2人は走って飛んできた氷を走ってよけた。
一個ならまだしも、氷はどんどん手のひら出てくる。多分無限に出てくるな。
氷は俺らを追跡しているようだ。つまり止まったら終わりだ。ただ走ってばかりじゃ攻撃もできない。
あれをくらったら間違いなく体は貫通する。
それにこのままではあの人の魔力が切れる…。
どうする……。
そのときクロスは、
「ナギト、あの軍手だ!あそこが杖の代わりになって魔法を出してる。つまり軍手は操っている奴とつながってるはずだ!」
「軍手か…。なら、クロスこっちにこい!」
わざと聞こえるように言った。俺たちは走ってお互い近づいた。もちろん氷は一点に集中してきた。
そのとき、
「バリアレット!」
ナギトは電気の壁を作った。これなら攻撃を防げる。
氷は電気の壁に当たった。数が多いし尖ってるため少し壁にひびが入りそうだ。
「俺は魔力を流して壁を修復し続ける。クロスは軍手に向かって攻撃をしてくれ!」
「分かった!それなら、風流刃斬!」
クロスは刃物のようにとがった風を杖で操り、向かってくる氷をすべて切り刻み、右手の軍手を切り刻んだ。
(軍手に気づくとはあの黒髪なかなかやるね。でもこんなのすぐ回復できちゃうけど。)
奴は余裕だった。
一直線に飛んできた電気を見るまでは。
「貫電!」
クロスの魔法が軍手を切ったとき少しだけ隙ができ、氷が飛んでこない。それを利用し一瞬でナギトは貫電を使った。
貫電は左手の軍手を貫き破壊した。
軍手は爆発し、その人は空中から落ちてきた。
少したっても動かない。呼びかけるとその人は静かに起き上がりこちらに近づいてきた。
まだ終わってないのか…?
そう考えたとき、奴は左手から氷を飛ばしクロスに向かって撃ってきた。
とっさにクロスは構えたが遅かった。
クロスの右腕は氷で刺された。
「クッ…!」
幸い皮膚しか切り付けられず、多量の出血ではなかった。
「いやー少しびっくりしたよ。まさか一気に二つ壊されるとはね。でもそれだけで勝った気にならないでほしいなー。」
その人の傷も回復していた。
一体どこを通して操っているんだ?
「君たちの読み通り僕は軍手で操っている。でも少し遅かったね、もう完全につながっちゃったよ。僕は今こいつとなって動いている。こいつを一瞬で倒さない限り終わりは来ないよー。それに、そろそろ魔力も少なくなってきたなー。」
少し遅かったか。これができないだけで勝率は、ぐっと下がった。
「さすがに一瞬で倒すのはきついな…。クロス、けがは大丈夫か?」
「あぁ、こんなのかすり傷みたいなものだ。問題ない。」
「そうなんだー、なら本気でいっても問題ないよね?」
奴は何かを企んでる。今すぐ倒したほうがいいだろう。
「風流刃斬!」
クロスは風を起こし相手の体を風の刃で切り刻んだ。
一個の刃だったが意外と大きなダメージが入った。
しかし体はすぐ回復した。
ちまちま削るより一気に削ったほうがいい。
奴は右手に氷でできた槍を持ってた。魔法で作ったのだろう。
それを猛スピードでこちらに投げてきた。
やはりダメージを受けてるクロスのほうを狙ってるか。確実に仕留める気だ。
「間に合うか…!」
すぐに風魔法を発生させた。
間一髪風の刃で槍を切った。槍は粉々になって消えた。
投げた反動で体が少し前のほうに傾いた。しかし奴は一瞬で体制を立て直し、左手にすぐ氷の大きな棘を生成して飛ばし、クロスの体を狙ってきた。
「さーて、今度はさっきよりも尖っているよ!」
「まずい!刺される…!」
「七光雷鳴!!!」
ナギトはやつの投げた棘に向かって電気撃った。棘は一瞬で砕かれた。
氷でできたやつは意外と脆い。
そのため弱めの魔法でも砕ける。
奴は右手に氷の武器を出そうとしたが短時間に多くも出せないのか、作れなかった。
それをナギトとクロスは見逃さない。
「風流刃斬!」
クロスは風流刃斬を発生させ動かれる前に相手の体を風で拘束した。
「ナギト、俺が奴を縛ってるうちに…!」
「ああ、これでもくらえ!!」
ナギトは爆発移動で奴のほうに近づいて電気を撃った。
奴は縛られていたためよけられず、大きな音がした。
「ぐああああぁぁぁ!!!」
奴は大きく苦しそうに叫び、体中傷だらけだった。
腕や足から血が出ている。
(最初クロスと撃った時より傷ついてる?回復が弱くなってる訳ではなさそうだ。となると…。)
体はいつもより遅く再生していた。魔力はあまり下がっているようには見えない。
奴は傷を回復させ浮遊術で空を飛んだ。
空からまた狙撃するのか…と思ったが、
奴の姿が消えた。
さっきまでいたはずだ。どこに、
「ナギト!!後ろ!!」
ナギトが振り返ったときにはもう遅かった。
薄気味悪く笑っている奴が後ろにいた。
反撃する前に俺はやつの持ってた剣で体を切られた。
結構深めに切られ、あたりに俺の血が飛び散った。
さらにやつは俺の体を刺そう、と剣を構えた。
「させるか!!風麟弾!」
クロスは杖から風のエネルギー弾みたいなのをすぐに飛ばし、ナギトがもう一度刺されそうになる瞬間に奴の体に当て、奴を闘技場の壁まで吹っ飛ばした。
俺は少し意識が朦朧とし、その場に倒れそうになった。傷が深かったな…。
「ナギト!大丈夫か!」
「…あぁ。大丈夫ではないが…生きてはいる。それにしてもさっきの魔法は…?」
「あれは今日の試験のために覚えようとしたけどできなかったやつ。初めて使うのがまさかこんな状況だとはな。」
さすがにあの一撃でかなりダメージをくらった。
氷でできてたのにものすごい切れ味がすごかった。生きてるだけ奇跡に近い。
(少し時間は稼げたがすぐ回復するだろう。クロスもあまり魔力がなさそうだ。どうする…)
難しい戦いだが、多分『あれ』が弱点だ。
その証拠に奴は回復するときはいつもああなってる。ほとんど憶測だが、これを信じるしかない。
「クロス、耳を貸せ。」
「どうした?何かあったか?」
俺は奴の弱点を教えた。クロスは本当かと驚いたが、今の奴の姿をみて納得した。
「どうやら本当っぽいな、ただそれを見つけてどうやって倒す?」
「まず俺が……。」
なるほど、とクロスは笑った。
「そんな体でできそうか?」
「あぁできるさ。これで倒せなければ俺らは死ぬぜ。」
奴は立ち上がり、
「なにこそこそ話してるんだい?僕は今無傷だよ?さっきチャンスだったのに…。そのチャンスを無駄にするなんて君たちはほんと詰めが甘い!!」
体はきれいに回復していた。
相手の魔力もそろそろなくなるだろう。
ここで決着をつけないと。
「そろそろ終わりにしてやる!流星電光!!」
電気が空中で分裂し、奴にめがけて落ちてきた。
奴は浮遊術でわずかに飛んですべて躱していった。移動もなかなか速い。
ただ、落ちてくる雷ばかりみていて前をみていない。
「消えろ!黒霊十文字!」
クロスは奴の前のほうに来て魔法を使った。
使った瞬間に奴はクロスの魔法に気が付き、クロスを飛び越えるように大きく飛んだ。
「残念だったね!僕の死角から攻めようと思ったらしいけど、君たちは魔法の速度が遅いね!簡単に……。」
その時だ。ゴン!!と大きな音がして、奴はみえない何かにぶつかった。
よく見ると透明な壁がある。
(これは…バリアか!?)
そう、奴はこの闘技場にあるバリアに気づいてなかった。
透明のため、わからなかったのだろう。
ぶつかって奴の動きは止まった。
「風麟弾!」
クロスは空中にいる奴の背中にめがけて撃ち、よけられるはずがなく当たった。
致命傷とまではいかないがなかなかのダメージを与えられた。
「なるほど。バリアか、そこは気づかなかったよ。でも君の攻撃では僕を倒せない!」
奴は余裕をもって回復した。
ナギトは回復したのを見逃さず、高速で奴の下に来た。
「やっぱお前の弱点は回復した時だ!回復するとほかの魔法がつかえないんだろ?それに飛んだり、遠距離攻撃をしてるのは、お前は遠ければ遠いほどダメージが軽減できるからだ!」
奴は最初遠くで同時にダメージを与えたときより、近くでナギトがダメージを与えたときのほうが圧倒的に傷ついていた。
それに今奴は回復をしているため自由落下状態だ。
やはり俺の考えはあたっていたな。
(なんだこいつ、さっきのスピードは何だ?それに弱点に気が付くとは。このままじゃ…。)
奴は回復をやめて氷の武器を出そうとしたが、ナギトは右足の爆発を利用して大ジャンプをして、落ちてきてるやつの体に左手を当てゼロ距離で
「七光雷鳴!」
ナギトは今ある力をすべて振り絞り電気を放った。とんでもない直撃音がして奴の体は電気で貫通した。その威力に情けなどはなかった。
さすがに奴は動かなった。遠くで構えながらナギトとクロスは見ていた。
もしかしたらさっきみたいに不意打ちをするかも、と思うと無理もない。
その時やつの体は一瞬、ビクッ!として、体が再生していった。
俺らは杖を向けた、いつでも魔法を発射できるように。
奴は小さく起き上がり、自分の手をみた。
「あれ、俺は何を…?」
さっきの声とは違う。正真正銘49番の人の声だ。
さっきまで何があったのかわからないような顔をしていた。
「君、さっきまでの記憶はあるか?」
クロスは尋ねた。
少しだけ固まってたがこっちのほうを見て、
「いや、何も。確か、俺は誰かに襲われて…。あれ、そっから何が…?ていうかその体、大丈夫ですか?」
どうやら本当にわかってなさそうだ。
つまりルイノのやつはもう操ってなかった。
二人はその人に近づき、
「記憶がないんだったらいい。誰に襲われたんだ?」
「え、えっと誰かは分からないんだけど、みんなが解散して俺がここを出ようとしたとき、背中に誰かの手が当たって…。そっからは分からない。ただ一瞬だけ後ろを見たときすごい大きな大人の人だったような。」
「クロスは解散していつこっちに来た?」
「俺は確か…、5,6分くらいのはずだ。」
(となると、その間か。いや待て…。この学校に入ってきたってことか。テレポート対策はしたってキノ先生から聞いたぞ。)
「とすると、相手が直接やってきたということだな。たださっきの声からして俺らより子供くらいだぞ。大人には思えないんだが。」
「それも気になるが、どうやってそいつが入ってきたかだ。テレポートでは無理なため、検問を通ってきたのだろう。」
「検問を通るのは不可能だと思うな。変身したとしても戦霊にばれるから。」
となると、考えられるのは…。
その時誰かがくる足音がした。見てみるとキョウ先生だ。
すごい焦っている。
「さっきの音は何だ?それに、ナギト君にクロス君!君たちどうしてこんなところにいるんだい!校長先生が呼んでるぞ!」
そうだ勲章をもらうんだった。忘れてた!
「大丈夫かその傷?いったい何があったんだい?話してみなさい。」
俺らはさっきの出来事を話した。
「そうか。つまり君たちはそいつを撃退したのか。」
「そうなんです。この傷もその時のです。」
「大丈夫か?救護室に行くか?」
「いや俺よりまずこの人が行ったほうがいいです。魔力をかなり使ってるので。」
「そうですね。魔力が足りなくて少しだけきついです…。」
「なら先生が君を救護室に連れていく。2人は早く大ホールに行ってきな!」
キョウ先生はその人をおんぶって救護室に連れてった。
俺は傷がまだ痛かったが、クロスと一緒に大ホールに向かった。
「まさかこんなことになるとはな。それにしても、あの時どうやって高速移動をしたんだ?ものすごいスピードだったぞ?」
「あれは電気魔法の特徴である『杖を使わなくても魔法が使える』を利用して足から電気を出して地面に当たって爆発するのを利用したのさ。ほんのちょっとの爆発でもいいから魔力はほぼ減らないし地面は傷つかない、便利だろ?」
ナギトは魔法の応用を即興でやったのか、このままじゃこいつはどんどん成長するな…。
「あぁそれはすごいな。ナギトはやっぱり戦術士が似合うな。あんなに否定してたのが恥ずかしいよ。」
「俺も自分に似合ってると思ってる。今回の戦いは戦術士としての初陣か?」
「そうかもな、ナギトと俺の共闘か…。」
俺らは大ホールに着いた。
そういえば背中の傷治ってないけど、まぁいっか。




