1話 『魔法』
古き国プルテールでは古代から魔法が栄えてた。
魔法は時には人を助け、時には人を傷つけ、時には世界を支配した。
人々は魔法を使い、自分のために、国のために、家族のために争った。
これはそんな魔法の世界に現れた一人の少年の物語である…。
空が暗くなり、雨が降ってきた。
周りは見渡す限り木しかない森。暗くて見えないが、遠くのほうには蜂のような虫が飛んでいる。樹木が生い茂ってるところは虫が多くてあまり好きではない。
雨を避けようと走りながら『金切ナギト』は思った。どうして自分が魔法の練習をするときはいつも雨が降るのか、と。
雨は音を立て、激しさを増した。たまに光ったりした。雷が遠くで落ちているのだろう。そんな中、進行方向の先に一つの光が見え、両脇をふさぐように連なっていた森も終わりを迎えた。
「やっと町が見えた…。」
ナギトはそう思い暗闇のなかで輝く光のほうへ向かった。
古くから「魔法の都」として栄えた国プルテールの中でもこの町は入るための検査が厳しい。
最初に自分の名前を門番(魔法によってできた動物)に言う。
次に指紋のチェックを行う。
最後に危ないものがないか体を精密検査(魔法)で行う。
そこまでする必要があるかどうかわからないが、外部から不正に侵入されないよう町の端は魔法による強力な結界も張ってある。これで侵入されることはないらしい。不法侵入者の情報はここ数年一回も聞いたことがない。
プルテールの街並みは、高層ビルがあったり電気自動車が走っている…、という町ではない。地面は石でできていて建物も基本は石でできている。たまに馬車が道の真ん中を通ったり、道の端に無人販売所ができていたりする。スマホやパソコンなどの精密機械は一切存在しない。
ナギトは町に入るための三大検査を終えたところ、前から黒服の人物が来た。
「おつかれナギト。 やっぱナギトが魔法の練習すると、雨が降るんだな。」
この黒髪黒服黒靴という中二病が着ていそうな真っ黒コーデな少年の名は黄泉白クロス。ナギトとは小さいころからの付き合いで幼馴染というやつだ。
「なんでいつも俺が魔法の練習をすると雨が降るんだ?」
「もしかして、ナギトは雨男なのかもな。この町じゃ雨はまったく降らないしな。」
俺が外で魔法を練習すると絶対雨が降る。きっと前世で何かやらかしたのだろう。
正直俺は晴れより雨のほうが好きだが、服が濡れてしまうのがめんどうくさい。
「それにしてもいいよな~クロスは。魔法あんま練習しなくても使いこなせるから。」
「まぁ、小さいころによく父さんの知り合いから魔法の基礎は教わってるからな。今度教わってみるか?」
「いや、別に大丈夫だ…。こっから遠いし目上の人と会話するなんて想像しただけで緊張する。」
なんでも、このクロスという男、隣の国の王の息子なんだとか。つまり王族である。
プルテールの中心部には巨大な学校がある。この町で生まれたものは通わなくてはいけない。
10歳から15歳までの5年間魔法学などについて学ぶ所だ。
毎年何百人が入学、卒業をするなかなか大きめの学校。ほかの国にもあるがこんな大きいのはない。
俺とクロスは5年生であるため留年さえしなければこのまま卒業できるんだが…。
俺は勉強面は得意だが実技面は苦手というかできない。
実技というのは魔法を使って攻撃したりすることだ。なぜか俺はこの5年間勉強してきたのだが魔法が一切出てこないのだ。
ただ小さい頃魔法を使うことができた。なのに今魔法が出てこない。
たまに小さい子が魔法を使って遊んでるのを見ると意外と心が痛くなってくる。
ということで今日から魔法学の実技の補修になってしまい、今から学校に向かわなければならない。
「それじゃ俺は補習受けてくるから、また明日なー。」
「わかった。補修がんばれよ。」
ナギトはクロスと別れて学校に向かった。
少しばかり早歩きになっているのにナギトは気づかなかった。
今まで進級できてたのは、魔法が使えなくても勉強だけで勝ち上がってきたからだ。魔法の基礎知識だけだなく応用まで理解していて先生からの評価もよかった。
けど卒業となれば話が別だ。この学校の目的は魔法の最低限の知識を持ち、それを『活用』することができるということだ。つまり卒業するには魔法が使えないといけない。ちなみに、普通魔法は1年も勉強しなくても出せるようになる。
魔法が使えないやつと勉強ができないやつは強制的に補修を受けさせられる。今は長期休み中なのにだ。卒業するためにはあと2か月先にある魔法を使う試験に合格しなければならない。そのため長期休みを利用して最後の追い込みをするのだろう。
なぜここまでして魔法を覚えなければいけないのか。それは戦争が起きるからだ。
最近周りの国では戦争が絶えない。領土拡大や経済面、歴史的な面など理由はたくさんある。
もともと剣や銃が主流だったが、300年ほど前に魔法ができてから魔法を使っての戦争が増えてきた。自国を守るために魔法を使えるようにならなければいけないのだ。
そのため魔法が使える軍人である『戦術士』と呼ばれる人たちを育てなければならない。
戦術士は学校を卒業したらなれる職業だ。普通に死ぬので危険とされている職業で、最近はあまり多くないらしいが、国としてはなるべく多くいてほしい。
戦術士は自国の町を守るのが基本だ。
例えばプルテールなら、この町や隣の町などこの辺にある小さな町はすべてプルテールの領域だ。町の外にある草原や森は微妙な感じだが、その町をほかの国からの攻撃から守るのが戦術士の役目だ。
あとは他国に攻めるのもあるが、プルテールは基本攻めにはいかない。
わかる通り、俺は戦術士に一番向いてない。戦術士は『あまり勉強はできないけど、魔法なら得意』という人たちが結構多い。もちろん文武両道の人も一定数いるが。
魔法が苦手で勉強が得意は、教師が一番似合っている。教師自体そういう人が多いから。
そんなことを考えてる間に校門の前についた。短時間に感じるが、学校から町の端までは3㎞くらいある。40分くらいは歩いた。
さっきまで町の外は雨が降ってたが、この町の中は雨が降ったことがないため、ずっと晴れだ。そんな晴れの中、何キロも歩いて少し厚めの黒い制服を着ているから非常に暑い。冬の始まりくらいなのに今日は夏のような暑さだ。
制服は魔法のダメージを軽減するため、もし襲われたりしても大丈夫なように着なければいけない義務がある。たとえ夏場であっても。
ま、普通襲われることなんてないけど。
校門には「ウォールト学院」と彫ってある。この学校の名前だ。学校内に入るとすぐに銅像がある。この学校を立てプルテールを作ったとされる英雄らしい。
名は「ウォルター・ブレッド」。この学校の名前もこの人から来てる。
銅像のあるホールの横には通路があり、先生の個別の部屋がある。補修は先生の部屋に行ってマンツーマンで受けるとほかの人から聞いた。
(先生と一対一か。怖い先生だったらやだなー。)
俺は5年生になっても勉強ができて魔法ができないという異例らしく、補修は遠いところから来た特別な先生が教えてくれるようだ。つまり初対面だ。
「さて、この部屋であってんのかな?」
特別講師教室とかいうそのまんまの名前の教室の前に立って独り言を言った。中は電気がついている。誰かがいるようだ。人影もうっすら見えるし本をめくるような音も僅かに聞こえた。
ナギトはノックをして失礼します、といいドアを開けた。
この先生に会ってからナギトの人生は大きく変わった。
同時に世界も大きく変わっていった。
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