プロローグ
初投稿です
「これでよかったんだ。」
彼は魔王城の玉座にて一言、そう呟いた。
魔王城の周りの荒野には100万人の人間種、50万人の亜人種、そして勇者王、聖王女、魔導王、剣王、獣王、精霊王の英雄王達が彼を殺すためだけに集まっている。
英雄達と魔王は数年前までは七賢人と呼ばれ、互いに争うことはせず、世界は平和を保っていた。
魔王にも配下がいたが、こんな無駄な事で死なせるわけにもいかないので、配下と城下町の住人の全ては、既に他の場所に城下町ごと転移させたため、現在魔王城の周りはなにもない荒野となっている。
「都市ごと転移させたのか!?前回の偵察の時には魔法陣や魔力の痕跡などなにもなかったのに…」
「魔導王よ、これはあやつ一人で転移させたのじゃよ。わしの千里眼と過去視の力であやつが転移魔法を使うところを見たが…たった一度の魔法で…やはりやつはバケモノじゃよ」
「なっ…!?私でさえ10人を転移させるのがやっとだというのにか!?そんなバカな話があるか!!!この街には10万人は魔族が住んでいたんだぞ!それを街ごとだと…」
「精霊王さま、その話は本当ですか?」
「聖女よ、いや…今は聖王女じゃったな。勇者王との子はいつになったらできるんだい?」
「茶化すな精霊王。それで、本当に魔王は倒せるのか。」
「相変わらず洒落の通じぬ男じゃのう、勇者王よ。安心せい、わしの未来視ではあやつはこの世界に存在しておらん。」
「そうか…」
英雄王達はどこかでわかっていた。アレには勝てないと…。
近年の魔族の増強度は異常であった。
体格が日に日に強く大きくなり、そして性格も凶暴化していった。
それは全て魔王が存在することが原因であり、魔王から漏れ出た魔素により魔族がパワーアップしていたためである。
通常ではありえないことであった。
一個人が種全体に影響を与えるなど、あってはならないことであったが、この事実に気がついた人類は魔王を即座に討伐することを決定し、精霊種、亜人種もそれに続いたのであった。
「魔王よ、覚悟はできたか?」
勇者王が高台から声を魔法に乗せて魔王に届ける。
「いつでも良い」
魔王からの気怠げな声は念話のように、直接勇者王達の脳に届いていた。
これもまた、高い耐魔力を持つ勇者王をしてありえないものであり、魔王はその気になればいつでも勇者王達の頭を内部から破壊できるということの証明であった。
しかし魔王がそれをしないことに英雄王達は疑問を持たなかった。
彼らは念話で届いた魔王の声からすべてを悟ったのだ、魔王が死のうとしていることに。
魔王は自分で死ぬことができなかった。
あまりに強すぎる耐魔力と防御力、そして再生力のため、また魔王と魔王城にも長期間魔王城を離れると強制的に玉座に転移させられるという呪いがあることによって…
自分の存在が平和を脅かしているとわかっていながら、どうすることもできなかったのだ。
そして未来視を持つ精霊王の見た方法しかないと知り、賭けたのだった。
150万人の軍勢から勇者王の聖剣に魔力と生命力が集約されていく。
それだけでなく聖王女、魔導王、剣王、獣王、精霊王も、ギリギリまで魔力と生命力を聖剣に与えていき、そこにはもう、勇者王以外立つ者はいなくなっていた。
「魔王、すまない…」
「よい、むしろ礼を言う」
勇者王の頬には一筋の涙が流れていた。
「聖剣よ、世界と…魔王に…祝福を…」
「次元斬!!!!!!!」
その日、魔王と魔王城はこの世界から消えた…
思ったより短い