1-08.諦めたらそこでナンパは終わり
登場人物:
ユダ :主人公1、地味でモブ顔の少年だが恋愛力は53万。この恋愛力のせいで勝手に恋愛イベントが起こり逃げて来た。
ハゲンティ:主人公2、NTRが好きな元恋のキューピッド。今は堕天してユダの担当に名乗り出ている。勝手に起こった恋愛イベントを丸く収めるため寝取られるよう動く。
キール :ユダの同級生、『殺し屋一族のバラモン』の少年であり他のクラスメイトとは隔絶した恋愛テクを持つ。自分の恋愛テクに対抗できるユダに興味を持つ。
ナオミ :ギャル、入学式でユダをバカにしていたが実は意識している。
あらすじ:ユダはギャルとの恋愛フラグを折るためにハゲンティに協力してもらい寝取られることを望む。それまで何とかしてルート進行しないようギャルから逃げなくてはいけない。
入学早々にユダたちが所属するクラスは同じ平民クラスのシルバーとナンパ試合で恋愛力を競うことになる。
やる気がなさそうなカッパーの担任が試合形式を提案したのはカッパーとシルバーの争いを諌めるためではないだろう。むしろ仲裁する面倒を嫌って試合で白黒つける事で一方を黙らせた方が楽だと思ったのではないかと生徒たちは考えた。
だがここで試合を嫌がれば自分たちが負けると考えたと相手に舐められる。そう判断してしまうのはまだまだ若輩であると同時に自分たちがこの国でも随一の恋愛偏差値を誇る恋四葉学園に生徒であるという自負があるからだろう。
互いに視線を交わしつつも、教師の提案を拒否する生徒は現れない。その代わりにシルバーの担任である生真面目そうな女教師が文句を言う。
「カーシ先生、どういうおつもりですか。勝手に試合だなどと。こちらにもカリキュラムがあるのですよ」
「クレイ女史。生徒というものは言って聞かせたところで不満は残るものだ。それより痛い目を見て学ばせるのが教育というものだろう」
シルバーの担任は納得した様子はないが、抗弁してたところで無駄だと考えたようでそれ以上は言わない。一瞬、生徒たちに向けた視線には同情の色があったがそれもすぐに教師という仮面で隠してしまった。
教師の間で話がついた様子を見て生徒たちは余計に文句を言えなくなった。彼らは黙って試合コートに立つ学園が用意したゴーレムを見る。
どうやらゴーレムを使ったナンパ勝負は恋愛力を競う手段として恋四葉学園ではよく行われているようだ。
教師は相変わらず面倒くさそうに、試合のルールを要点だけ説明し始めた。
「シルバーとカッパーはそれぞれ3人代表を出せ。手前をシルバー、奥をカッパーの陣地とする。先鋒、中堅、大将の3本勝負だ。先にも言ったが2度、あのゴーレムを落としたクラスを勝者とするからそのつもりで順番を決めろ。ゴーレムを落とせるか否か、それだけで勝負を決めてもらうが明らかに勝負を投げているやつはテクニカルファールで負けとする。文句は一切聞かないから試合中の態度には気をつけろよ」
教師は大雑把にルールを説明していく。この恋四葉学園に入学できるような生徒が今更ナンパのルールを知らないわけがない。しかし教師が説明で言ったある一言に対して、余裕のシルバーとは対照的にカッパーの生徒たちはざわついた。カッパーの一人の生徒が代表して教師に質問する。
「あの、落とすって言うのは、具体的にどうすることなんでしょうか?」
「あぁ? 落とすって言ったら押し倒すに決まってるだろう」
教師の言葉が冗談ではないことは試合コートに用意された大きなベッドが証明している。あれは間違いなくゴーレムが横になれるサイズだ。
「マ、マジかよ! ゴーレムを押し倒すなんて無理に決まってる」
「俺なんて人間相手でも無理なのに」
教師の一言にカッパーの生徒たちは一斉に尻込みした。仕方あるまい、彼らはつい最近まで中等部に通う子供でしかなかったのだから。一方でシルバーの生徒たちは余裕の態度だ。怖気づくカッパーを見てせせら笑う者もいた。
「おいおい、カッパーはまだ経験もないチェリーの集まりみたいだな。こんな奴らが俺たちと同じ恋四葉学園の生徒とは恥ずかしくなってくる」
「お、おう、そうだな」
「ま、まあ、俺も今は彼女とかいないけどな。今だけだけどな」
「い、いやー、あの年でチ、チェリーは恥ずかしいよな、チェリーが許されるのは初等部までだよな、ははは……」
どうやらシルバーの方も大体は虚勢を張っているだけのようで、この試合への参加に尻込みし始めた。なにやら両方のクラスでいつの間にか争いへの機運が尻すぼみの流れになっている。しかし、その流れに反して一人の少年が前に出た。
「へへっ、いいねぇ。ゴーレム相手とか燃えてくるじゃねえか。なぁ? ユダ」
「え? あ、ああ、うん」
先ほどから試合に乗り気のキールになぜかユダは巻き込まれる。できれば目立ちたくは無いのだが、むしろここでキールの誘いを力ずくで拒否できてしまった方が悪目立ちしそうだ。
まあ、大人しく試合に負ければ周囲からの変な好奇心も収まるだろう。ポジティブに捉えてユダは流されているだけの自分を肯定する。
そんなキールとユダをカッパーの代表と認識した教師は言う。
「試合は3対3だ。参加するつもりならもう1人連れて来い」
教師の言葉にキールは辺りを見回す。よくよく考えればこの試合、キールがまず1勝するのだからうまくすれば勝ち馬に乗ることができる3人目は得なはずだが、しかし名乗り出る者はいない。やはりキールの肩書きと、今朝の暴れように対する恐怖の方が先に立つようだ。
誰も名乗り出ない集団に対して、キールは特に腹を立てる様子も無く1人の生徒に目をつける。
「かわいい弟の頼み、聞いてくれないの?」
「……、は、はい、……おえ、なんで俺が……」
緊張でえずいているのは今朝、キールに絡まれていた長身のクラスメイトだ。最早、半分落とされかけていた彼はキールの甘い声に逆らえず不満の言葉は途中までしか出なかった。
「僕はユダです。よろしく」
「ああ、今朝はありがとう。俺はボゥ」
キールが自信満々に仁王立ちしている後ろでユダとボゥは肩身を狭くしながら互いに自己紹介をする。
大丈夫だ。どうせ目立つのはキールただ1人。あとは勝つにしろ負けるにしろ無難に影を薄くしていれば注目を集めることなどまずない。ユダはそう信じていた。
しかし、残念ながらそんなユダの考えは甘かったようだ。
「ちょっとー、ナオミのお気にの彼、出てんじゃん」
「ばっ、そんなんじゃねーし。あいつとはたまたま登校中に会っただけだし」
「はーい、あーしらが相手しまーす」
「ちょ、勝手に決めんなよな」
シルバーの代表者として出てきたのは例のギャル3人組だった。ピンク髪のナオミの目は恥ずかしそうにではあるが、はっきりとユダをロックオンしている。
これはまずい。非常にまずい。
接触さえ避けていればギャルルートは進まないと高をくくっていたユダだったが、どうやらユダとナオミが一緒に登校しているところを他のギャルに見られていたらしくああやってからかわれているうちにギャルたちの中で盛り上がり勝手にルートが進行していたようだ。
この勝負の間に何か接触事故が起きれば間違いなくユダのギャルルート入りが確定してしまう。ユダはハゲンティに助けを求めて見上げるが、頭上の天使は難しい顔をして腕で大きくバッテンを作る。
どうやら、ギャルが寝取られるにはまだ時間がかかるようだ。
ユダはこの試合で目立たないようにすることに加え、ギャルとの接触を避けるというハードルをクリアしなければならなくなったのだった。
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