1-04.暴力の無いヤサシイ世界
恋愛力。それはこの世界における戦闘力のようなものだ。暴力が存在せず恋愛の巧拙にこそ最も価値がつけられるようになったこの世界で、この恋愛力こそが人間の価値、全てだと言っても過言ではないだろう。
恋愛力は様々なパラメータの総合値として測定されるが、一般的には容姿、知能、財力、血筋、話術の五つが重視されている。
ちなみに一般人の恋愛力の例としてよく挙げられるのが、ヒゲでがっしり目の体形、麦わら帽子とオーバーホールが似合っている男性で、彼の恋愛力が5である。
「恋愛力53万とか、絶対やばい奴やん」
僕は目の前の小さな天使がキンキン声で叫ぶので耳を塞いだ。
今朝、恋四葉学園の入学式で出会ったこの天使は僕を見ると頭を爆発させ、しかしそれでは死なないようで気絶した状態でその場に転がっていた。
正直、面倒ごとはごめんだったので無視したかったのだが爆発の原因が僕であろうことは容易に想像できたので、見捨てるのはそれなりに良心が痛んだ。
そうして、仕方なく寮の自分の部屋へと連れ帰って現在に至る。
「分かってるよ、僕もそれぐらい。だから普段はこれで制御してるんだよ」
僕は目元を覆う厚めのメガネに触れて天使に説明する。正直、このメガネがないと日常生活もままならない、いやそれどころか毎日が厄災のような日々になってしまう。
「せやかて、ユダ。そんなメガネだけで何とかなる恋愛力ちゃうやろ」
「いや、確かに、たまに事故るけど気を付けてるし。だから今回も……、一応、目を伏せてたし」
だから大丈夫だ。
僕は自分にそう言い聞かせる。
どうやら天使は人間の名前や恋愛力といった情報が見えるようで名乗ってもいない僕の名前を気安く言ってくる。今更怒る気にもならないが、本当に厄介な連中だ。勝手に他人の恋愛に口出しして来るし。
「ほんまに制御できてたか? なんか、その話聞くとあのギャルたちの反応、怪しゅうなかったか?」
「ギクッ」
確かにちょっとやばかったという自覚はある。久しぶりに人と接するので色々と油断していた。特に最後の方はルートに入りかけてた気がする。
普通、女の子というのは自分のパンツを見られたら、それが特に自分の嫌いなタイプの男子に見られたなら蛇蝎のことく軽蔑の視線を送ってくるものだ。しかし、あのナオミという名のピンク髪のギャルは特にそんな様子もなく去っていった。あれはルートに入りかけていたのではないか?
しかし、それはまずい。僕はそうそう簡単に他人と恋愛沙汰になるわけにはいかないのだ。だがどうする? このまま学園に通い続ければあのギャルたちと絡まないわけにはいかない。彼女たちは平民学級で、それは僕も同じだ。平民学級は2つのクラスに分かれるとは言え貴族学級と違って接触する機会は多い、避けて生活するのにも限界がある。
「あの感じやとパシリ扱いで絡まれて割とクラスでは会話する仲になってそのうち三人がケンカして孤立した後も唯一前みたいにしゃべれるオタクくんからの恋愛に発展するやつやぞ」
「ギクッ」
やはりそうなのか? どうする? 転校するか? でも、奨学金を借りている身だし。
「そんなお困りのあなたに、ワイから最適なプランの提案があります」
「え?」
「まあまあ、ワイにどんと任せてくれればええから。最適プランやから。ワイはこう見えても(堕)天使ハゲンティさまやから」
「……まぁ、わかりました。ではお任せします」
目の前で天使が大きな目を更に大きく見開いてこちらを見ている。その自信に満ちた目を僕は信用することにした。
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