1-03.現代社会におけるギャルの二極化
今日、恋四葉学園は新入生を迎え新たな年度を始めようとしていた。そんな期待と不安が混じった爽やかな空気の下で真新しい制服を着た3人の少女が歩いている。
「すごーい、流石は恋四葉学園だね。この国最高峰の恋愛偏差値の学園だからきれーだね」
「ちょっと、エル。騒ぎ過ぎ。周りからすごい見られてる、恥ずかしい」
「何言ってんだよイリエ。あたしら田舎者なんだから変にかっこつける方がかっこ悪いって」
「そーだよ、ルイの言う通り。それより目立って貴族様の目に留まった方がラッキーじゃん」
うーん。田舎から出てきた純真娘が寝取られる展開は鉄板やけど、あの三人娘は陽キャ感が強すぎていまいち食指が動かんな。
もっとこう陰キャが思いがけず出会った美少女と恋に落ちてチャラいだけの屑に寝取られるのをワイは見たいんや。
ハゲンティはしばらく悩んだが、妥協せずに他の学園の新入生を物色していく。寝取られに妥協は必要ない。
質の高い寝取られがQOLを向上させるのは言わずもがなであろう。
そんなハゲンティの耳に遠くから聞こえる荒っぽい声が届いた。声は如何にも気の強そうなギャルのそれ。そして内容から察するに棘のつまった言葉の先には内気な少年がいるようだ。
「なんや、いじめか?」
いじめは見過ごせない。
なぜならいじめと寝取られには切っても切れない繋がりがあるからだ。
あとワイはオタクくんに優しいギャルよりいじめてくるギャルの方が好みや。
ハゲンティはその声に誘われるまま、人通りの少ない学園の裏庭へと向かった。
「おい、なんでお前みたいなモブ顔が恋四葉学園に来てんだよ」
「ちょっとーやめてやんなよー。オタクくんおびえてんじゃん」
「まあでもあんたみたいな低恋愛偏差値の奴が学園に来てもつらいだけっしょ」
ええぞええぞ。ワイの読み通りいじめが絶賛進行中や。
三人のギャルがモブ顔の陰キャくんを囲んでささやかな宴に興じている。流石は恋四葉学園の新入生だけあってギャルは性格はともかく顔だけはかなりのものだ。一方、陰キャくんはどうしてその面でこの学園に入れたのか不思議なくらいモブ顔だ。
陰キャくんは黙り込んだままギャルと目を合わせないように目を伏せている。度の強いメガネは彼の目に宿る感情をうまく隠しているがハゲンティには一目瞭然だった。
今、陰キャくんはギャルにいじめられているという劣情からくる興奮と情けなさで頭の中がわやになっているに違いないのだ。
「なに黙ってんだよ」
頭をきつめのピンクに染めているギャルが陰キャくんを押す。この程度の押し合いは攻撃扱いにならないので陰キャくんにしっかりと届く。陰キャくんは逆らわずにそのまま地面に倒れ込んだ。
「ぷーくすくす。ちょっとー、それだとスカートの中見えちゃうじゃん」
「いんだよ、こんなやつに見られるくらい。野良犬と変わんねーし」
「でも野良犬は好きっしょ? ナオミは」
そう言ってひとしきり陰キャくんを笑いものにしたギャルたちは満足するとその場を去っていく。ハゲンティはギャルたちの蛍光色の下着をしっかり見送るとお待ちかねの勧誘を始めることにした。
人間はこういう時が一番もろいのだ。プライドをズタズタにされたとき、復讐という名の甘い蜘蛛の糸を救い主だとあっさり信じてしまう。
堕天使は人の心の隙をうまくつかないといけない、なにせ事務所には頼らずに担当相手を捕まえねばならないのだから。
「恋愛力が……、欲しいか、か、ヵ、ヵ……」
ハゲンティは未だに尻もちをついたままの陰キャくんの耳元で語り掛ける。
陰キャくんにはハゲンティの姿は見えない。天使が見えるのは天使が担当者として憑いている人間だけだからだ。そのため担当契約を結ぶ相手とは音声だけで勧誘を行う。
だからなるべく厳かに神秘的にエコーなどつけながら語り掛けなければいけない。あと要件は手短に。
「欲しいやろ……、ほなくれてやる、やる、ゃぅ、ゃぅ、……」
「いえ、間に合ってます」
……。どういうことや? ワイは動画でちゃんと予習したんや。誰でも一流堕天使になれる営業術って、自称何でも知ってるグシオンさんが言ってたんや。
「いや、でも欲しいやろ……、恋愛力、う、う、ぅ、ぅ、……」
うんざりしたように陰キャくんがハゲンティを見る。そうハゲンティを見た。しっかりとその目で。ただの人間には見えないはずの天使を。
その瞬間、目が合った瞬間、ハゲンティの頭に陰キャくんの情報が流れ込む。
天使には人間の恋愛力を読み取るスカウト機能がある。その機能が自動的に陰キャくんの恋愛力を計測する。
「ふぁ! 53万!」
ハゲンティの頭の中に様々な情報が流れ込む。人が果実をかじり、その叡智と罪を受けてから10億の年月を歩んだ、その道程、苦悩、そして理解。それら全てが濁流となってハゲンティを飲み込む。
その瞬間、ハゲンティの頭が爆発し意識はそこで途絶えた。
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