1-23.悪は、そこにいる
世界観 :直接的な暴力は効果が無く、代わりに恋愛を通して相手を惚れさせ屈服させる。恋愛を左右するのは容姿や血筋といったパラメーターを総合した恋愛力と呼ばれる力。また、恋愛力を消費することで恋愛イベントの誘発や恋愛にかかわる物理現象を起こすこともできる。
登場人物:
ユダ :主人公1、地味でモブ顔の少年だが恋愛力は53万。この恋愛力のせいで勝手に恋愛イベントが起こり逃げて来た。
ハゲンティ:主人公2、NTRが好きな元恋のキューピッド。今は堕天してユダの担当に名乗り出ている。勝手に起こった恋愛イベントを丸く収めるため寝取られるよう動く。
キール :ユダの同級生、『殺し屋一族のバラモン』の生意気少年であり他のクラスメイトとは隔絶した恋愛テクを持つ。恋愛テクで相手を破壊することに躊躇が無い。
ナオミ :ギャル、入学式でユダをバカにしていたが実は意識している。仲間のギャルにからかわれユダたちのナンパ試合に出てきてしまう。
ボゥ :ユダの同級生、キールに入学早々、目をつけられ性癖を破壊されかけるが寸前でユダに助けられる。自信を喪失しているがそれでもナンパ試合に挑む。
あらすじ:ユダはギャルとの恋愛フラグを折るためにハゲンティに協力してもらい寝取られることを望む。それまで何とかしてルート進行しないようギャルから逃げなくてはいけない。
一方、クラス対抗のゴーレムナンパ試合は2回戦になりボゥは勇気を振り絞って試合に出る。最初は自信がなく負けそうになるが、故郷の母を思い出すことでナンパにとって最も重要なのは心だと気付く。そしてあと少しでゴーレムを押し倒せるという寸前で邪魔が入ってしまう。
シルバーとカッパーが真剣勝負のナンパをしている試合コートに不躾な作法で踏み入ってきたのは上等な制服を着た金髪の生徒だった。
シルバーとカッパーの制服とは異なる金刺繍が随所に見られる制服、そして金縁の校章、それらが示しているのはその生徒が平民学級ではなく貴族学級に属しているということだ。いや、わざわざ制服をつぶさに確認する必要はないだろう、その生徒が纏う嫌味な空気と人をバカにする喋り方はまさに一般に想像される特権階級を鼻にかける悪い貴族そのものだからだ。
「まったく、校庭で面白いものが見られると聞いていたが、このようなお人形遊びで騒いでいるとは。まさに下賤な平民学級と言ったところだな。なーっはっはっは」
折角の好試合に水を差すその態度に生徒たちは冷たい視線を貴族の生徒に向ける。実際の身分はどうであれ自分たちは同じ学園の生徒である、そんな意識が根底にあるため悪感情を押し隠そうという考えはそれほど強くないのだ。
だが、彼らの思いとは裏腹にこの恋四葉学園でも身分制度は秩序を維持するために重視されていた。
「なんだ、随分と不満気だな、身の程知らずにも。どうやらわからせてやる必要がありそうだな、身分の違いというやつを」
貴族の生徒はそう言うとズカズカと試合コートへと入っていく。本来ならば禁止されている選手以外の侵入を審判である教師は注意しない。
その様子をユダも黙って試合コート自陣から見ていた。そんな特に目立ったところのないユダに貴族の生徒が視線を送る。いや、彼が見たのはユダではなくハゲンティだ。
「ハゲンティさん。もしかして知り合いですか?」
「ああ、あいつは。くそっ、思い出すだけでも腹立つ、ワイがユダの前に担当していた貴族のボンボンや」
「何か因縁でもあるんですか?」
「ああ、あいつはなぁフィリップちゅう大層な名前のやつなんやが、ワイが折角その才能を見込んでよくしてやったのに変に逆恨みして、いや単純に性格が悪いんや」
その言葉がどれほど当てになるかは分からなかったが、貴族の生徒、フィリップがハゲンティに向ける視線に凄まじい敵意が込められているのを見るに仲が悪いのは本当だろう。そして、ユダに向ける視線にはどこか他人の不幸を笑う底意地の悪い感情が込められているところを見ると、フィリップの性格の悪さも想像に難くない。
「あいつはろくなことせーへん。ユダもきーつけるんや」
ユダがハゲンティの忠告にうなずく先で、今まさにフィリップがろくでもないことを始めた。
「おい、そこのゴーレム。俺様は足が疲れた。椅子になれ」
試合会場にいる生徒たちはフィリップの不躾な命令に騒然となる。審判の教師が何も言わないため表立って文句は言わないがこのような試合を妨害するような暴挙が許されるはずがないと皆信じていた。
だが同時に悪い予感もしていた。
生真面目なシルバーの女教師が悔しげに爪を噛む仕草がこれから起こる悪夢のような光景を連想させる。
「GIGAGAGAGA」
ゴーレムはどこか苦しげな音とともにボゥから手を放す。ナンパで育んだ強い絆が貴族の言葉一つで断たれ、あれだけの輝きを放っていた恋愛力の光がまるで幻だったかのように消え去っていた。
「なんで、ままぁー」
ボゥが悲痛な叫びを上げゴーレムに取り縋る。その様子にゴーレムの足が止まる。
「どうした、俺様の命令が、貴族の命令聞けたいと言うことは、この国の秩序に従えないということだぞ」
フィリップが嫌らしく言った言葉は、その言い方はどうあれ真実だった。身分制度とは多くの悪しき利得を生み出す一方で、それを無視すればそれ以上の無法を許すことになる。それゆえに安全回路を刻まれたゴーレムは人間社会の秩序を守らなければならない、例え大切な人の期待を裏切ろうとも。
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