1-22.愛は、そこにあった
世界観 :直接的な暴力は効果が無く、代わりに恋愛を通して相手を惚れさせ屈服させる。恋愛を左右するのは容姿や血筋といったパラメーターを総合した恋愛力と呼ばれる力。また、恋愛力を消費することで恋愛イベントの誘発や恋愛にかかわる物理現象を起こすこともできる。
登場人物:
ユダ :主人公1、地味でモブ顔の少年だが恋愛力は53万。この恋愛力のせいで勝手に恋愛イベントが起こり逃げて来た。
ハゲンティ:主人公2、NTRが好きな元恋のキューピッド。今は堕天してユダの担当に名乗り出ている。勝手に起こった恋愛イベントを丸く収めるため寝取られるよう動く。
キール :ユダの同級生、『殺し屋一族のバラモン』の生意気少年であり他のクラスメイトとは隔絶した恋愛テクを持つ。恋愛テクで相手を破壊することに躊躇が無い。
ナオミ :ギャル、入学式でユダをバカにしていたが実は意識している。仲間のギャルにからかわれユダたちのナンパ試合に出てきてしまう。
ボゥ :ユダの同級生、キールに入学早々、目をつけられ性癖を破壊されかけるが寸前でユダに助けられる。自信を喪失しているがそれでもナンパ試合に挑む。
あらすじ:ユダはギャルとの恋愛フラグを折るためにハゲンティに協力してもらい寝取られることを望む。それまで何とかしてルート進行しないようギャルから逃げなくてはいけない。
一方、クラス対抗のゴーレムナンパ試合は2回戦になりボゥは勇気を振り絞って試合に出る。最初は自信がなく負けそうになるが、故郷の母を思い出すことでナンパにとって最も重要なのは心だと気付く。
ボゥに抱きしめられたゴーレムはまるでその岩の表面から人の温もりを感じ取っているかのように硬質な雰囲気を和らげていった。子供が母を抱きしめるように、その手は背中にすら届かずゴーレムを包み込むことは出来ない。それでもゴーレムが初めて触れた生の人の心はゴーレムの全身を温もりで満たした。それを可能にしたのはボゥが裸になり自らの心をさらけ出したからだ。
「GUGO、グゴ、ぐご」
関節で擦れ合う岩の音がどこか優しげなものへと変わる。しかし、本当の変化はここからだった。
「ママ、いつもありがとう。もう大丈夫だよ」
ボゥが伝える感謝の言葉には万感の意味が込められていた。そしてその言葉を受け取るゴーレムにはその意味を自らの中で増幅させる記憶があった。
ゴーレムは無機質な倉庫の中でいつもその声を聞いていた。
ゴーレムが学園に搬入されてから幾年月の間、ずっと子供たちのはしゃぐ声を、悔し泣きを、喜びの雄叫びを、ずっと見守ってきた。それは確かに安全回路によって自由意志とは関係のないところで決められていたことかもしれない。しかし人間にとっての本能がそうであるように、やがてそれはゴーレムの本質を形作っていった。ゴーレム本人すら気付かぬほどにゆっくりと。
それは目で見ることも触れることも出来ないものだ、しかし心が温もりを感じることで相手に伝えることでその形を共有することが出来る。それこそが愛だとゴーレムは気付く。
「なんだ、この光。こんなに輝いてるのに眩しくない」
生徒たちが初めて見る恋愛力が集まり光る様子に戸惑っている。その光は目で見ているわけではない、心で感じているのだ。だからこそ、あんなに強く光を放っているのに目が潰れることはない。むしろ強張りを解きほぐし温かな癒やしを与える。
誰かが感動で自然とつぶやく。
「これが、本当の、恋愛力……」
そうつぶやいたのは隣の生徒だったのかもしれない、もしかしたら自分だったのかもしれない。それほどにこの時、皆の心が一つになっていた。
生徒たちがシルバーとカッパーの別なく目を奪われている。そこにはもう失望もやっかみも侮蔑もない。ただただ、そこに生まれたナンパによって生まれた本物の愛に魂を奪われ、涙していた。
カラスはあまりの神々しさに恐れをなし逃げ飛んでいく。
この場にはもうボゥとゴーレムの愛を止めるものはいない。
赤髪のギャルは恥ずかしそうに目線を逸しながら、それでもはっきりと負けを認める。
「あんたには負けたよ」
健闘を称えるように晴れやかな表情のギャルはボゥの肩を叩き、ベッドを指差した。後はボゥがゴーレムと連れ立ってあのベッドにゴールインするだけ。自然と生徒たちから拍手が湧く。誰もがボゥとゴーレムを祝福している。恋愛の光に照らされ、最早そこには醜い争いは無くなっていた。
しかし、しかし、ボゥは一歩遅かった。その一歩は僅かに遅かったのだ。
祝福の拍手で満ちる試合会場に場違いで不快な声が投げかけられる。この男こそがこれからボゥの勝利を阻み、美しいナンパを台無しにする。
「なんだ、平民はお人形でナンパごっこをしているのか。ふん、実にお似合いだな。なーはっはっは」
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