1-20.その一歩は誰がために
世界観 :直接的な暴力は効果が無く、代わりに恋愛を通して相手を惚れさせ屈服させる。恋愛を左右するのは容姿や血筋といったパラメーターを総合した恋愛力と呼ばれる力。また、恋愛力を消費することで恋愛イベントの誘発や恋愛にかかわる物理現象を起こすこともできる。
登場人物:
ユダ :主人公1、地味でモブ顔の少年だが恋愛力は53万。この恋愛力のせいで勝手に恋愛イベントが起こり逃げて来た。
ハゲンティ:主人公2、NTRが好きな元恋のキューピッド。今は堕天してユダの担当に名乗り出ている。勝手に起こった恋愛イベントを丸く収めるため寝取られるよう動く。
キール :ユダの同級生、『殺し屋一族のバラモン』の生意気少年であり他のクラスメイトとは隔絶した恋愛テクを持つ。恋愛テクで相手を破壊することに躊躇が無い。
ナオミ :ギャル、入学式でユダをバカにしていたが実は意識している。仲間のギャルにからかわれユダたちのナンパ試合に出てきてしまう。
ボゥ :ユダの同級生、キールに入学早々、目をつけられ性癖を破壊されかけるが寸前でユダに助けられる。自信を喪失しているがそれでもナンパ試合に挑む。
あらすじ:ユダはギャルとの恋愛フラグを折るためにハゲンティに協力してもらい寝取られることを望む。それまで何とかしてルート進行しないようギャルから逃げなくてはいけない。
一方、クラス対抗のナンパ試合は2回戦になりボゥは勇気を振り絞ってナンパしたが、赤髪ギャルに追い詰められてしまう。ユダが呼び寄せた夜烏が赤髪ギャルを襲ったことでボゥにチャンスが舞い込むが一歩遅く、ゴーレムがギャルを助けてしまう。
本来ならば夜烏からギャルを守りマウントを取る役はボゥのはずだった。そうすることでギャルは助けられた弱みとボゥの男らしさから彼に惚れ、全ては上手くいくはずだったのだ。
しかし、残念ながらナイト役は誰もが存在を忘れていたゴーレムに掠め取られてしまった。
その事実に、会場内から一斉にため息が漏れる。
「駄目だ、終わった」
「もっと早くボゥが動いていれば」
カッパーの生徒たちからは勝負を投げた諦めの言葉しか出てこない。試合コート上ではギャルとカラスの間にゴーレムが割って入り今も姫を助けるナイトの物語が進行している。カラスが悪役らしく執拗にギャルの光り物を狙い襲いかかるが、ゴーレムはカラスを受け止め一歩も、いや一翼も通さない。
最早、ボゥがこの物語に入る余地はなくなっていた。
ボゥに期待していた、ギャルわからせを期待していた生徒たちのその期待の分だけ失望も大きくのしかかる。
「くそぅ、俺達の夢が」
「俺、死ぬ前にギャルわからせ、見たかった」
「何故だ! 何故神は死んだ! いや、誰が殺したんだ!」
光を失い我がことのように悔しがる彼らは悔しさで歯を噛みしめ、血が滲んでいる。その血の味に気付かぬほどに彼らに別の感情が湧き上がる。
失望は徐々に苛立ちへと、怒りへと変わり、言葉のナイフがボゥを狙って口から漏れる。
越えてはならない一線を越えて味方であるはずの選手を口撃し始めたのだ。
「もうさっさと諦めればいいのに」
誰かがボソリと言うと、その一言で堰が切れたように次々と同様の意見が続く。
「見苦しいんだよな、ナンパに失敗したのにあがくのとか」「こういうときはかっこよく撤退して次に活かすべきだ」「そもそも最初の出だしから俺は駄目だって気付いてた」
それらの言い訳じみた論評は何か根拠があってのものではない。ただ、周りの空気がそれを是としているのだから口にするのをためらう必要はなかった。悪意のうねりはたった一つのはけ口を見つけ、そこに流れ込もうとしていた。
しかし、その中で教師が真逆の言葉を言う。
「お前たちが見えているのはその程度か?」
やる気のない、試合の審判役でありながら今までろくに仕事もしていなかった教師が初めて口にした試合への評価。川の流れに投じられた小さな一石。その言葉を生徒たちは一瞬理解できなかった。
「い、いえ、先生。だってあんなのもう恥を晒してるだけですよ。そもそもシルバーになんて勝てるわけなかったんだ」
「そうだよ、あっちとは才能が違いすぎたんだ。それにあいつらほとんど都会出身だろ、環境にだって恵まれてる」
田舎出身者が多くを占めるカッパーらしい劣等感が如実に現れた言葉は確かにカッパーの生徒たちがどこかで感じていた本心だった。
しかし、そんな生徒たちの悲痛な訴えを担任である教師はため息一つで切り捨てた。
「はぁ、お前たちの恋愛力に対する理解が足りていないことがよく分かった。いいか、恋愛というのは生まれ持った資質や、努力の多寡で勝負が決まるものじゃない。それならただ数字を比べるだけで優劣を決められる。俺たちがわざわざ試合形式にこだわってテストしているのはな、そこでしか測れないものがあるからだ」
「試合でしか、測れないもの?」
生徒の恐る恐るの質問に教師は頷き、試合がいまだ続くコートを指差す。
「そうだ、それが何なのか今に分かる。あそこでな」
その瞬間、ささやき声は消えた。彼らも恋愛エリートを目指す恋四葉学園の生徒達なのだ。自らの成長の糧となるものがそこにあるのなら、諦めている暇などない。
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