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1-19.故郷に残したもの

世界観 :直接的な暴力は効果が無く、代わりに恋愛を通して相手を惚れさせ屈服させる。恋愛を左右するのは容姿や血筋といったパラメーターを総合した恋愛力と呼ばれる力。また、恋愛力を消費することで恋愛イベントの誘発や恋愛にかかわる物理現象を起こすこともできる。


登場人物:

 ユダ   :主人公1、地味でモブ顔の少年だが恋愛力は53万。この恋愛力のせいで勝手に恋愛イベントが起こり逃げて来た。

 ハゲンティ:主人公2、NTRが好きな元恋のキューピッド。今は堕天してユダの担当に名乗り出ている。勝手に起こった恋愛イベントを丸く収めるため寝取られるよう動く。

 キール  :ユダの同級生、『殺し屋一族(ファミリー)のバラモン』の生意気少年であり他のクラスメイトとは隔絶した恋愛テクを持つ。恋愛テクで相手を破壊することに躊躇が無い。

 ナオミ  :ギャル、入学式でユダをバカにしていたが実は意識している。仲間のギャルにからかわれユダたちのナンパ試合に出てきてしまう。

 ボゥ   :ユダの同級生、キールに入学早々、目をつけられ性癖を破壊されかけるが寸前でユダに助けられる。自信を喪失しているがそれでもナンパ試合に挑む。


あらすじ:ユダはギャルとの恋愛フラグを折るためにハゲンティに協力してもらい寝取られることを望む。それまで何とかしてルート進行しないようギャルから逃げなくてはいけない。

 一方、クラス対抗のナンパ試合は2回戦になりボゥは勇気を振り絞ってナンパをしようとする。しかし途中で赤髪ギャルにズボンをずり降ろされなぶりものにされてしまう。ユダは恋愛力でモンスターの夜烏ナイト・レイブンを呼び寄せボゥが有利になる状況を作り出す。

 ボゥは唐突に手元に落ちてきた幸運を見つめ悩んでいた。周囲は弱みを見せたギャルを分からせることを期待している。それが正解だと彼を取り巻く世界が声高に主張している。しかし彼の心の内にあるものは別の言葉を訴えていた。


 ボゥは故郷を思い出していた。故郷に残してきた大切な母のことを。

 


「うっせえ、ババア! これはおしゃれで破いてんだよ、勝手に繕うんじゃねえよ!」


 まだ今よりもいくらか幼さを残すボゥが子供らしい口の悪さで母親に文句を言う。

 これはまだ彼が中等部だった頃、実家のある田舎で思春期真っ盛りの少年らしさが恥ずかしくも輝いていた頃の話だ。


「もぅ、ボゥちゃんは本当におませさんなんだからねえ」

「ババア! 家の外ではちゃん付けで呼ぶなよ」


 学校の友だちに知られれば彼が築いてきた度胸があってかっこいいちょっと不良が入ってる、そんなイメージが崩れてしまう。自意識過剰とは言えない、なぜなら他のクラスメイトが母親からちゃん付けで呼ばれていればボゥはいの一番にからかうのだから。

 だからこそ、ボゥは早くこの家から飛び出して都会での一人暮らしを夢見ていた。都会で一人になればやたらと自分を子供扱いする母親から逃れられると思っていたからだ。


「俺、王都の恋四葉学園、受験するから」


 そう宣言した後はかっこよく見えるよう見栄えには人一倍気を使うようになった。メンズ雑誌を買い、その表紙を飾るモデルと全く同じ服装、髪型、インタビューが載っていれば暗記するまで読み返し、その人生哲学を真似した。

 ペットとしてカラスを飼うようにもなった。カラスを肩に止まらせてポーズを決める俳優の姿がたまらなくかっこよかったからだ。

 母親は勿論、そんなボゥを応援した。それが当たり前だと、その時の彼は何の疑いも持たなかった。


「ババア! 恥ずかしいから弁当なんて作るなよ! 俺持ってかないからな」

「ボゥちゃんは育ち盛りなんだから、それじゃ足りないでしょう?」


 今の流行りはカロリーとビタミンが取れるクッキー型の栄養食品。だからボゥは友だちの前ではいつもそれを食べていた。それでも無理矢理に持たされた弁当はお腹が空いたときにこっそりと食べていた。

 ボゥが部活で泥だらけになって帰ると何時も温かい晩飯が用意されていた。それを食べてそのまま泥のように眠る。そして朝起きればジャージはきれいに洗濯されて折りたたまれていた。


「ババア! ジャージの穴繕うなって言っただろ! これはおしゃれで開けてんだよ!」

「でもボゥちゃん、恥ずかしいでしょう?」


 ボゥは身長がみるみると伸び、いつの間にか学校では一番の長身になっていた。そうして体格が良くなると自然と自信がつき、その堂々とした態度がまた人を惹きつけ、その積み重ねがやがてこの国最高峰の恋愛偏差値を誇る恋四葉学園への門をこじ開けた。


「俺、恋四葉学園に入学するから」

「ほんと、立派になったねえ、ボゥちゃんは」


 これは自分の力で成し遂げたことだと、ボゥは信じていた。自分の努力が、才能が実った結果だと、自分の力だけで成し遂げたのだ、と。

 だからその証明のためにボゥは森へと入った。今の自分ならモンスターも怖くない、そう過信していた。

 

「ボゥちゃん、大丈夫、大丈夫だからね。お母さんがついているからね」


 母に抱きしめられ、庇われながらボゥはモンスターへの恐怖が消えていくのを感じていた。


 結局、ボゥは何も言うことができずに恋四葉学園へと入学した。そこで挫折を経験し、それでもこの学園の生徒としてやっていくために試合を投げ出さなかったのは母への後ろめたさと、そして母の誇りであろうとしたからだった。

 あの時、母に言えなかった言葉を立派になった自分が言うことこそがボゥのこの学園に入った理由になったのだから。




 ボゥは自分が何をすべきなのか、ようやく理解した。


 ボゥが足を踏み出す。

 しかし、その一歩は(・・・・・)僅かに遅かった(・・・・・・・)。試合コートに入ることが許可されているのは選手だけ、そう思い込んでいた生徒たちは盲点となっていたその影に驚嘆する。


 ギャルをカラスから庇ったのはゴーレムだった。


 ゴーレムは確かにその安全回路によって人間社会の秩序(・・・・・・・)を守り、人をよく助け、人が怪我しないように振る舞うことが義務付けられている。だからこそ、これは必然なのだ。試合コートに入ることが許されているナンパの対象であるゴーレムがギャルをカラスから守ることは。

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