1-17.『殺し屋』キール
登場人物:
ユダ :主人公1、地味でモブ顔の少年だが恋愛力は53万。この恋愛力のせいで勝手に恋愛イベントが起こり逃げて来た。
ハゲンティ:主人公2、NTRが好きな元恋のキューピッド。今は堕天してユダの担当に名乗り出ている。勝手に起こった恋愛イベントを丸く収めるため寝取られるよう動く。
キール :ユダの同級生、『殺し屋一族のバラモン』の生意気少年であり他のクラスメイトとは隔絶した恋愛テクを持つ。恋愛テクで相手を破壊することに躊躇が無い。
ナオミ :ギャル、入学式でユダをバカにしていたが実は意識している。仲間のギャルにからかわれユダたちのナンパ試合に出てきてしまう。
ボゥ :ユダの同級生、キールに入学早々、目をつけられ性癖を破壊されかけるが寸前でユダに助けられる。自信を喪失しているがそれでもナンパ試合に挑む。
あらすじ:ユダはギャルとの恋愛フラグを折るためにハゲンティに協力してもらい寝取られることを望む。それまで何とかしてルート進行しないようギャルから逃げなくてはいけない。
一方、クラス対抗のナンパ試合は2回戦になりボゥは勇気を振り絞ってナンパをしようとする。しかし途中で赤髪ギャルにズボンをずり降ろされなぶりものにされてしまう。ユダはナオミとのルート進行を恐れて躊躇していたがナオミの注意が逸れたところで恋愛力を使い妨害のきっかけを作る。そして、それを見たキールも面白がり妨害に加わる。
キールは生まれた頃から自分の家から滅多に出ることを許されなかった。
『殺し屋一族』そう呼ばれるバラモン家の名前から想像されるような残虐非道なイメージから見れば意外かもしれない。
だがそれは勿論、過保護からではなく弱いものを見て育てば弱くなるというバラモン家の教育方針からだった。家といってもバラモン家を隔離するために国が用意したそれは山という方が正確で、そのふもとにはバラモン家の生活を何不自由ないものにするため小さな町があるほどだった。
だからこそ、唐突にキールが何の制限もなく家を出ることを許された時は驚きはあったが特別嬉しくはなかった。家の外に価値を見出していなかったからだ。
そんなキールに父親は見送りに一言だけ呟いた。
『世界の広さを見て来い』
キールは自分以上の存在など、家族にしかいないと思っていた。彼が時折、仕事の手伝いで外から連れてこられる仕事のターゲット、その中でも恋愛力が強そうな奴と勝負しても拍子抜けするほど呆気なく堕ちてしまうからだ。
キールが父親の言葉の意味を理解したのはユダと出会ってからだ。家族以外で彼の甘い声に逆らえた男はユダが初めてだった。
キールは最後のユダの試合にしか興味がなく、結果が分かり切っていたボゥの試合などまるで見ていなかった。周りの甘っちょろい奴らが騒いでいるのにうんざりして離れた草地で横になっていた。
春の日差しは強くも弱くもないいい塩梅で退屈を眠気に変えるのにそう時間はかからない。
そんなまどろみの時間は一瞬で吹き飛んだ。
それを呼び寄せたのがユダであることはすぐに分かった。そして、その意図も。今この場でそんなことができるのはあいつぐらいだ。
だが、ユダの目的には一手足りない。そこを博打で切り抜けようとしているが俺ならばそれを確実にできる。
キールはそう思うと我慢などできない。
ゲームの縛りプレイが好きなキールにとってユダだけが楽しんでいるその遊びに割り込むのに躊躇は無い。
最弱キャラを使ってゲームをクリアするのは自キャラが強すぎてつまらなくなったこの遊びを少しは楽しませてくれる。
恋愛力は一般的に個人の魅力として発現すると思われている。それは決して間違いではないが、完璧な正解ともいい難い。何故なら、ある一定の域を超えた恋愛力は物理現象や偶発的な運命に影響を与え恋愛イベントを起こしてしまうからだ。
今、ユダの持つ53万の恋愛力の片鱗が遥か大空を悠然と舞う一匹の猛禽を呼び寄せた。恋愛イベントが始まったのだ。
「カ”ク”ワ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”」
「おい、何だあれ!?」
「夜烏だ! なんで王都に! 騎士団は何をやってるんだ!」
試合の最中に現れた真黒な怪鳥は試合コートに影を落とす。観客となっていた生徒たちは騒然となり試合どころではない。いやそう思っているのは見ているだけの観客の生徒たちだけだ。審判である教師は試合中止など考慮もしていない様子で腕組で見ている。そして試合に出ているボゥとギャルには逃げる選択肢など元より無い。
逃げることはナンパを放棄すること、つまり自分から敗北を宣言することだからだ。
夜烏はある程度近づいたところで上空にとどまり辺りを睥睨する。何かを探すように首だけを獰猛に動かすその姿はグロテスクな忌避感を人に与えた。
生徒たちはただ唾を呑み次に何が起こるのか見ていることしかできない。
この時、このモンスターはあるものを探していた。実際にはユダの恋愛力で引き寄せられただけなのだが、そうとは知らず自らの感覚に従いそれがあると思い込んでいるモンスターは感情の読めない真黒な目を動かし続ける。
そんな緊迫した重圧の中で自由に動けるのはキールだけだった。
頭一つ小さな影は誰からも注目されずに人垣の後ろで構えを取る。
「こいつは苦手分野だったんだけどな」
キールがそう呟くとピストル状に構えた右手の指先に恋愛力を集める。
まだ恋愛力を可視化することができない生徒たちはキールの指先に集まった恋愛力の光を見ることが出来なかっただろう。ごく一握りの生徒だけがその様子を盗み見る。
キールはそんな少数の生徒たちに挑発の意味を込めて聞かせるため、その技の名前を叫び、恋愛力の弾丸を解き放つ。
「恋銃!」
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