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0.たぶん本編に活かされないプロローグ

ギャグメインでNTRは隠し味程度です。

よろしくお願いします。

「ダメです! 北部戦線が持ちません!」


 司令部に駆け込んだ伝令キューピッドが泥まみれの悲壮な表情で悲惨な戦況を報告する。しかし、司令部で周辺地図を睨む将校キューピッドたちがすぐさま応援を手配する様子はない。何故なら北部戦線だけが蚕食されているのではなく、およそ全ての戦線が同時に攻撃を受けているからだ。

 寝取られ軍は今や四面楚歌の状態にあった。

 その状況に怒りを見せる一人の将校が机を叩き怒鳴る。


「クソッ! どういうことだ! 百合カップル軍とは同盟を組めているはずではなかったのか!」

「あいつら! 我ら寝取られ軍が劣勢になると見るや裏切りおったは」


 地図上で戦線が麻のように乱れている南西部が件の百合カップル軍によって侵攻を受けている地域だ。示し合わせたかのような全方位からの侵攻、それに完全に息を合わせた裏切りは裏で手を繋いでいることの証左と言っていいだろう。それ故に彼らの憎悪が特にそこにいる百合カップル軍に注がれている。しかし、それは危険な兆候だ。司令部が戦略的な重要性よりも恨みつらみを優先すれば、それは軍全体の崩壊を意味する。

 司令部の上座に座り、状況を静かに見守っていた将軍キューピッドは敏感にその気配を察知し口を開いた。


「仕方あるまい。かつて我らは百合カップルにおっさんを混ぜることで奴らの領土を奪っていったのだ。その恨みは簡単に拭い去れるものではなかったのだろう」


 司令部の面々はその言葉に冷水を浴びせられたかのようにハッとする。

 かつて寝取られ軍が飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大していた頃、その非道な作戦を喜々として進めたのは誰あろう彼らだったからだ。寝取られが持つ業の深さが招いた罰、彼らはその罰を受け入れる責任があった。


 今や風前の灯となっている寝取られ軍ではあるが、かつては全ての恋愛ジャンルにおいて2大巨頭とも呼ばれる程の隆盛を誇っていた。西の純愛軍、東の寝取られ軍、二つの勢力はちょうど神が御わす天壌でにらみ合い雌雄を決する時はさほど遠くないと噂されていた。しかし、そのバランスは一晩で崩れ去ることになる。

 その夜、寝取られ軍の一部若手将校が決起したのだ。彼らの旗にはBSSと大書されていた。

 後にBSS《僕のほうが先に好きになったのに》派と呼ばれる彼らの主張はこうだった。別に恋人でも何でもない相手が他の男とくっつくのを悔しがるのはただの横恋慕なのでは?

 BSS派は寝取られ軍の中で一気にその勢力を拡大し、ついには軍を割って独立を果たす。幼馴染に彼氏ができる、推しアイドルの性関係の暴露、母親の再婚、今まで寝取られ軍の中核を担っていた戦力の脱退は士気の高揚だけでは補うことが出来ず、広大な勢力圏を縮小せざる負えない所にまで寝取られ軍を追い詰めたのだった。

 しかし、幸運にも時を同じくして純愛軍の背後を新勢力JK×リーマン軍が襲うことで、純愛軍による天壌の奪取、天下統一は避けられた。

 純愛軍と寝取られ軍は互いに戦線を後退させ、それまでの侵略による領土拡大から同盟による勢力の維持へと方針を変えていった。

 こうした地殻変動により重石を失った各地域ではそれまで食われるだけだった勢力が息を吹き返すことになり、世は群雄割拠の時代へと突入したのだ。


 そして現在。純愛軍は件の新勢力に飲み込まれ、今はJK×リーマン軍として天壌に手が届く所にまで来ていた。一方で寝取られ軍は往時の勢力には届かないものの各勢力と同盟を組み決戦を挑まんとしていた。その最中に、よもや裏切るまいと言うタイミングで後ろを刺されたのだ。

 まだ敗北が決まったわけではない。確かに寝取られ軍は他の恋愛ジャンルから恨みを買っているせいで弱みを見せると貪食される運命にあるが、しかし奴らには毒まで食らう覚悟はない。寝取られを取り込むつもりが寝取られに染まっていた、そうやって散っていった今は亡きジャンルたちの墓標が奴らを躊躇させている。

 この隙きを突き窮地を脱する、司令部の将校たちはその方針で一致していた。そのためには外の助力が必要だ。


「BSSは何と言っている?」

「それが……、降るのであれば受け入れる、と」


 伝令キューピッドの言葉に、先程の怒りっぽい将校キューピッドが再度机を叩いた。


「ふざけおって、奴らが出ていったのであろう! それをしゃあしゃあと!」


 寝取られ軍とBSS派、共に手を携えれば一大勢力になるにもかかわらず反目を続ける理由は、ひとえにどちらが主流かというプライドが枷になっているのだ。その成立過程から見れば寝取られこそが本流であり、BSSは分派した一派閥にしか過ぎない。しかし、ジャンルとしてより読者の経験に刺さるのはBSS。それ故、常に二つの勢力は結束できずにいたのだ。

 当然、寝取られの名を貶めるくらいなら潔く散ることを司令部の将校たちは選ぶ。


「こうなれば玉砕覚悟で」「我ら寝取られ軍は魂の結束で繋がっておる、奴ら軟弱ジャンルすぐに脳破壊してやるわ」「寝取られの毒はどんなジャンルにも致命になること思い出させてやろう」


 彼らの言葉は強がりに他ならない。いくら寝取られ軍が一騎当千のつわものぞろいであろうと、寝取られるには段階を踏む必要がある以上、四方を敵に囲まれたこの状況を覆すことは出来ない。ただ、十傑衆を除いては。


「我らをお呼びですか?」


 いつの間にか彼らは将校キューピッドの背後に立っていた。幾重にも重ねられた警備を風のようにすり抜け、それを誇ることもしない。彼ら寝取られ十傑衆にとってはそれは当然のことだからだ。


「お望みとあらば、全ての恋愛ジャンルの大将首、寝取らせて見せましょう」


 気負うことなく言ってみせる黒装束のキューピッドたち。彼らの目は寝取られ軍大将に注がれている。主の首が縦に振れれば、すぐさま彼らは散り、敵の本丸にまで分け入り大将の脳を破壊することだろう。

 だが、寝取られ軍大将は首を横に振った。


「その未来に何が待つのか、お主らは分かっているであろう?」


 将軍の静かな問いに将校たちは押し黙る。彼らは言われずとも気付いていた。寝取られが最も映えるのは純愛の中で、だ。寝取られを最高に楽しむには他の恋愛ジャンルの力が必要なのだ。だのに、天下を取るためだけに他ジャンルを破壊してしまえばどうなるか。

 寝取られを真に愛するのであれば栄達と未来、どちらを選ぶべきかは明白だった。

 将軍は訥々とその場にいる一人ひとりのキューピッドの顔を見て言う。


「我らがここで唯一人として生き残らずとも寝取られの火は消えぬ、決してだ。ギャルとオタクくんが仲良くなれば、そこにヤンキーの元カレが現れる。田舎に嫁いだお嫁さんが突然未亡人になれば義父が一肌脱ぐ。姉みたいな乳母姉弟がいれば唯の当てつけで寝取る貴族のクソ次男が現れる。絶対に、だ。我らが死のうとも、寝取られは、死なん。だから……」


 続く言葉は言われずとも分かる。寝取られには未来がある、しかしその未来を彼らは見ることが出来ない。その事実に将校キューピッドの頬に涙が流れる。

 寝取られの未来のために彼らは死ななければいけない、寝取られのために命を捧げなければいけない。その事実に彼らは喜び(・・)で涙する。

 彼らは寝取られのために死ねるのだ。


「ならば、派手に散らねばなりませぬなあ」


 滝のように涙を流し、歯を剥いて笑う。これぞつわものに相応しい表情。

 互いに肩を叩きながら来世でもまた寝取られよう、と笑い合う。同じ志を持った彼らに恐れも後悔もなかった。しかし、ただ死ねぬ者もそこにはいた。


「お前たちには辛い役目を負わせなければならぬ。すまない」


 大将が寝取られ十傑衆に頭を下げる。

 彼らはここでは死ねない。寝取られはここで一度途絶え、やがて復活する。しかし、次に寝取られを引き継ぐ者たちが果たして心正しき者たちであるか、見届けるキューピッドが必要なのだ。

 十傑衆は魂だけの存在になり、地上に残ってその役目を果たす。それ故に、ここで腹を切る理由にはいかないのだ。


「御館様からの最後の使命、しかと受け取り申した」


 十傑衆は別れの言葉を言わなかった。使命を果たしたその先でまた再開するからだ。


 こうして、寝取られ軍は最後まで抵抗を続け、其の悉くが討ち取られることになった。しかし、寝取られ軍を討ち果たしたにも関わらずJK×リーマン軍は寝取られを恐れ、その思想が後世に伝わらぬよう禁制令を出した。彼らが最も恐れた十傑衆の首を最後まで見つけることが出来なかったからだ。いづれ奴らが復讐に来ると、脳を破壊しに来ると、時の権力者たちは恐れていた。


 そんな戦乱の世が過去となり、誰もが忘れ去った平和な時代。

 ある一人の恋のキューピッドが寝取られに目覚める。


 物語はここから始まる。

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