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7 王国と歴史と

「ペツ北王国は商業に重きを置く国なんだ」


 それを聞いて、意外に思った。

 ペツ北王国もてっきり軍事力が強いのかなと思ったから。


「ペツ北王国は特に野菜とか肉とか魚とか、そういう食糧も沢山外国に輸出する国でね。基本的にこの大陸の食料はペツ北王国から輸入した食料を使ってるよ。勿論商業国だ、市販される魔道具とか、基本的な資源とかも重要な輸出商品になってるね」


 それにペツ北王国は商業国。

 だからこそ軍事力は劣っており、国力こそあるが他国に比べれば国としての一般的な立場は少し低いらしい。


「一応娯楽系はペツ北王国から来ること多いね。モフシ公国からも来るけどそっちは比較的高いから基本富裕層向けで、ペツ北王国のものは平民層とかに広く広がってるかな」


 なるほど。

 モフシ公国は確かに現代と同じような感じみたいだし、ゲームみたいなものは作れると思うし。

 でも、そういうのは一般人にはそういうのは買えない。

 だから平民層に買えるような娯楽商品はペツ北王国から売られてるものばかりというわけだ。

 魔道具だって同じ。

 魔道具も別の国が作っているものはたくさんある。

 けれど、同じく安価で販売できるのはペツ北王国だけ。

 ペツ北王国はそうでもしなきゃ生きていけない。

 だからこそのこの生存戦略、といえる。


「それに、鉱山とかも多いし、火山とか特殊な魔物が出るダンジョンも多い。輸出業でやっていけるものが多かったんだろうね」


 国土としては上から数えて三番目。

 リンハ帝国より少し小さい程度で、国土は十分。

 そんな国で鉱山とかもあれば確かに輸出の特産品には困らないのだろう。


「実際、ペツ北王国でしか出ない金属とかも多いしね」

「そうなんですね……」


 確かにそれなら商業国としてやっていけるだろうね。


「あとは、大陸外との繋がりだね。ペツ北王国は大陸外との繋がりもかなり強い。『パフア国』とか『シンイン聖国』とか、更に北上した位置にある国は大体交易をしてるね」


 また新しい国が出てきた。

 けど多分、今回はこの大陸の話だしその二国の解説はないだろう、と思う。


「だからペツ北王国は、平民とかだと下に見てる人も居るけど、上層部になると危険視してる人も居なくもないかな」

「そうなんですね」


 なるほど、だから「一般的には」なのか。

 実際には国の交易とかその辺りは基本的にペツ北王国が関わっているからこそ、上層部は警戒する。

 けれどそれを知らない平民とかだと下に見ちゃう人がいるって事か。


「まぁ上層部でも……っと、それ以上は流石にまずいか」


 何かを言おうとしたけれど、リューツさんは言わなかった。

 苦笑いで誤魔化して、そして次の話題へ移行する。


***


「じゃ、次は歴史なんだけど……。歴史、といっても王国の建国の歴史をさらっとやるだけだからね」

「分かりました」


 そのやり取りをして、リューツさんは王国の歴史を話し始める。


「シンイ王国っていう国は謎の魔物に襲われて滅んだって話はしたよね」


 シンイ王国というのが一瞬わからなかったけれど、さっきまで聞いていた話と昨日の話を照らし合わせれば、多分滅びた国のことだろう。


「そうですね、聞きました」

「なら大丈夫だね」


 リューツさんは微笑んで、けれどすぐに表情を元に戻す。


「シンイ王国はとても強かった。この大陸ではまともに戦える相手は帝国しか居なかったし、その帝国ですら防衛戦でのみという条件が付く」


 それは、この世界にあった最強の国の話。

 圧倒的すぎた力を持っていた国の話だった。


「その脅威は他の3大陸にも影響を及ぼしていたみたいでね。シンイ王国が別大陸にも僅かながら攻撃を仕掛けていた結果、この世界から本当の意味での「小国」と言えるような小さな国は消え去った。より大きな国に、小さな国が「自分達を合併してくれ」と頼み込みに行く形でね」


 それは地球で言えばほぼあり得ないような事だった。

 たった一国の脅威に、全世界が震撼するなど。


「実際ね、そう言う「合併」が間に合わなかったり、仕切れなかった国はシンイ王国に滅ぼされてる。記録に残るソレを信じるならば、たった1人で攻めて、半日と経たずに国が滅んでいた」

「……!」


 あり得てはならないほどの戦力。

 というか一人で、小国といえど国を半日で滅ぼすとか。

 それはもはや、現代兵器と同じ破壊力。

 人一人が持って良い力じゃない。


「しかも、それほどの戦力を持っていたのは一人だけじゃないのは確認されてるんだ。リンハ帝国に居る宰相はエルフでさ、200年前の戦いも知っている。彼曰く、シンイ王国にはそれをできる人間は何百と居たらしいんだ」

「うそ……ですよね」


 あまりにも桁違いの戦力。

 たった一人で小国ならば滅ぼせる戦力を持った人が何百人。

 それは、それは本当に事実なのか。

 あまりにも非現実的なそれを、私はどうにか否定することしか出来なかった。

 でも、


「本当さ。シンイ王国はそういう国だ。圧倒的過ぎて、笑うしかない。それがシンイ王国だ」


 空笑いをしながら、リューツさんは言う。

 そりゃそうだ。

 シンイ王国は、圧倒的すぎる。


 一瞬、子供が作った「ぼくのかんがえたさいきょうのくに」が頭に過った。

 そう考えれば少しは恐怖心が収まるけれど、現実に存在していたとなるとやはり怖さは収まらなかった。


「そして、この国の貴族はシンイ王国の軍人の血を引いていると言われてる。王族もシンイ王族の血を引いてるってね。それで、彼らは総じて戦闘力が極端に上がりやすい。それもシンイ王国の保有していた戦力を事実とする証明になる」


 そういえば、この国はシンイ王国の残骸から生まれた国なんだっけ。

 それだけ圧倒的だったシンイ王国が滅びるなんて、正直想像ができないけれど。


「……まぁ、そんな国だったシンイ王国は、ある日突然滅びた。何もかも分からないうちに」


 そうだった。

 シンイ王国は謎の魔物に襲撃されて滅んだんだ。


「たまたま他国に出撃していた王子がいたから、シンイ王国の王族は全滅はしていない。けど、王子が王都に戻ったら人は皆消えていた。王族貴族、平民奴隷。それら関係なく消え去っていた」


 でも、その衝撃は消え去らない。

 そんなことがあり得るなんて、考えれなかった。

 シンイ王国という存在も、それが突然滅びたということも。


「そっからは簡単だね。他国に出撃してた王子が国に残ってた資産をやりくりして、なんとか維持。他にも他国に出撃してた軍人を貴族として、国防もできるようにする。そして不必要な土地である、これまで植民地化していた場所は全て捨てた。それで再スタートを切ったのがこの国、ヅイダ新王国って訳だ」


 それが王国の歴史。

 そう締めくくって、そこから少し、リューツさんは黙った。

 すごい歴史ではあったけれど、聞いていると現実味は湧かない。

 というか、私はこの世界の人間じゃない。

 その関係もあって、どこか他人事に感じた。

 でも、何か引っかかる。

 何かに引っかかって、でも何に引っかかっているのかは全く分からない。


「……」


 しばらく沈黙が続く。

 気付けば周りにも人は居なくなっている。

 そして、その長い沈黙を破ったのは、私の額に当たった雨粒だった。


「……雨?」

「そうみたいだね。このままだと濡れちゃうし早く帰ろうか」


 リューツさんは傘を取り出して、私諸共覆う。

 そして、私達は少し早足で歩いて宿に向かった。


***


 宿に着いてから、やることはそんなにない。

 食事をして、寝る。

 それだけだった。


 けど、私の頭には歴史の話がこびりついていた。

 関係ないはずなのに、やっぱり頭の中に残る。

 気のせいだ、そう振り払うように頭を振っても頭の中からは抜け切らない。


 ……仕方ない。

 そう思って、私はそんな状態のまま眠る事にした。

 少し寝心地は悪いけれど、そのまま。

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