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6 日常と地理と

「長くなりそうだから、もう一個食べ物持ってくるよ」


 そう言って、リューツさんはまた出店の方に行った。

 私は中央広場の噴水のそばにあったベンチに座る。

 いつ帰ってくるかわからないし、そのままだらーっと背もたれにもたれかかる。


 待っている間も暇だし、辺りを見渡してみる。

 もう辺りを見るのはジンシアに着いてからずっとやってる気がする。


 私の小さい頃は、あまり友達と遊ばなかった。

 幼稚園や小学校になって、友達ができたことはあった。

 けど、その子達と遊ぶなんてことはなかった。

 中学に上がったらもう友達なんてできなくなった。

 だから人と一緒に遊んだ経験なんて一回もない。

 公園に行く事もないし、小さい子が他の子と遊んでいる光景なんて見たことがなかった。


 今目の前にはいろんな子どもたちがいる。

 割と大きい、小学校高学年の子たちもいるし、幼稚園にも入っていない年なんじゃないかなと思えるほど小さい子もいる。

 みんながみんな、それぞれの遊びをやっていた。


 木剣でチャンバラをやってる子達もいれば、魔法で遊んでいる子達もいる。

 取っ組み合いみたいなことをしてる子もいるし、噴水から繋がっている水路で水の掛け合いをしている子達も居た。

 遊具とかはないけど、そもそもそんなの使わない別の遊びをしている。

 とても楽しそうで、思わず見入ってしまった。


「それぇ!」

「わぷっ!?」

「「あっ」」


 ずっと見ていたら、水路で水の掛け合いをしていた子たちから水を掛けられた。

 流れ弾がこっちに飛んできたみたい。


「お姉さん、大丈夫?」

「けほっ、けほっ。……うん、大丈夫だよ」

「よかったー」


 思いのほか水の威力が強くて顔が痛かったけど、子供の前でそんなことを言うわけにもいかない。

 我慢しながら笑っていると、


「お姉さんの服ぬれちゃったね。かわかしてあげる!」

「え?」


 水を掛けてきた少年がそう言うと同時に、私に向かって温風が流れてきた。


「魔法?」

「ぼくも手伝うー」


 戸惑う間も無いまま、もう一人の少年も私に手を向けた

 そして何かの魔法を発動させたのか、私の服に染み込んだ水が外へどんどんにじみ出ていった。


「すごい……」

「でしょー?」


 私がすごいと言うと、ドヤ顔で返事をしてくる二人。

 素直にすごいと思ったし、とてもありがたかった。

 二人が頑張っている姿を見てると、痛みなんて忘れ去っていた。


 二人が私の服を乾かし終わった時には、二人は魔力がだいぶ枯渇してた。

 ちょっと魔力が残っているだけで、そのせいかフラフラになってた。


 そのまま帰すわけにも行かないし、私は試してみたいことをやってみることにした。


「ねぇ二人とも。ちょっと良いかな」

「「んー?」」


 私の魔法適正は確か『接続』だった。

 接続ってことはなにかと繋げられるって訳で。

 ならもしかしたら、魔力をあげることもできるんじゃないかなって思ったのだ。


「……お姉さん、魔力が」

「増えた……」


 そして結果は成功。

 二人の魔力は十分に回復できた。


「どう? フラフラしたりしない?」

「「うん! 大丈夫!」」


 私が聞くと、満面の笑みで答えてくれた二人。


「よかった」


 それに釣られて、私も笑顔になるのだった。


***


「ごめんごめん、大半の出店に人が並んでてねぇ。なかなか買えなかったんだ」


 リューツさんが帰ってきた。

 でもその手には何も持ってないけれど、と不思議に思う。


「でもリューツさん、何も持ってないような……」

「ああ、亜空間収納だよ」


 亜空間収納って何。

 また知らない単語が出てきてしまった。


「この世界とは別の空間に物を一時的に置いて、収納してるんだよ」


 と、リューツさんが言った。

 私まだ何も言ってないんだけど……。


「リューツさん、私まだ何も言ってない……」

「ははっ、多分何か分かってないだろうなって思ってさ」


 いやまぁ確かにそうだけども。

 そしてリューツさんはさっき言った亜空間収納から汁を出す。

 片方は私に渡してくれた。


 とりあえず今は飲まず、後で飲むことにした。


「……ま、そんじゃ説明しよっか」


 そしてリューツさんは話し始めた。


「この大陸の国は、『ヅイダ新王国』、『リンハ帝国』、『ペツ北王国』、『ヂドン皇国』、『モフシ公国』の5つ。ズイダ新王国は中央、リンハ帝国は大陸上部、ペツ北王国はそのリンハ帝国の右側、ヂドン皇国とモフシ公国はヅイダ新王国の左側になるね」


 この大陸だけの話だから、別の大陸を含めればもっと多いけど、とリューツさんは言う。

 モフシ公国はヂドン皇国の上に位置していて、ヂドン皇国はこの5カ国の中でも一番小さいらしい。


「ヅイダ新王国は比較的平地が多い地域に、リンハ帝国は山岳地帯にある。ペツ北王国はリンハ帝国の中でも一番高い山『デンテン山』を隔てた先にあるね。で、ヂドン皇国は島が多くて、モフシ公国は……特に地形的な特徴はないけど、一つ挙げるとすれば他の国に比べて川が多いって感じだね」


 そう言いながらリューツさんは地図を出す。

 亜空間収納って便利だなぁって思いながら、地図を見る。

 というかこの世界の地名って変なのばかりなんだろうか。


「この大きいのがヅイダ新王国。この大陸の中で一番大きい。当然国力も大陸一だね。魔法省の物好きが調べた限りだと、国民は大体800万程度らしいよ」


 800万……。

 多いのか少ないのかいまいちわからないけど、この世界って中世に近いから多いんだろう。

 基準とかわからないから勘だけど。


「次に大きいのがリンハ帝国。国力は3番目だけどね。でも、山岳地帯っていう地形を利用した防衛戦はかなり強くてね。国力は大幅に劣りながらも『シンイ王国』──200年前滅びた王国とも互角に渡り合っていたっていう話だよ」


 なるほど。

 シンイ王国っていうまた新しい単語が出てきたわけだけど、とりあえずリンハ帝国は国としてはかなりのものだと思えば良いのかな。

 そして防衛戦で特に力を発揮すると。


「その国って山に都市とか作ってるんですか?」

「そうだね。リンハ帝国は山の内部をくり抜いたりしてるね。だから他の国に比べてとても攻めにくい。さらに言えば港も崖にあるからね。本来なら攻めやすい港ですら攻めにくいんだ」


 リンハ帝国は攻めにくい山岳地帯にあるって覚えれば良いのかな。


「じゃあ次はモフシ公国だね」

「ペツ北王国じゃないんですか?」


 意外だった。

 さっきの2ヶ国を除くと地図上ではペツ北王国が一番大きいから、てっきりペツ北王国を説明すると思ってたんだけど。


「それにもちゃんと理由はあるよ。まずなんでペツ北王国じゃなくてモフシ公国を先に説明するかなんだけど、モフシ公国って一番小さいけど国力が2番目に高いんだ」

「え、嘘ですよね!?」


 流石に驚いた。

 地図上ではモフシ公国は小さい。

 それこそヅイダ新王国に比べると4分の1程度。

 リンハ帝国と比べても半分以下の国土しか無い。

 5つの国の中でも一番小さくて、てっきりただの小国だと思ってたんだけど……。


「モフシ公国は魔法の国で、魔法の発展が著しいんだ。そしてその関係で都市も極端なまでに発展してる」

「な、なるほど」


 ……でも、それだけで国力2番になれるなんて……。

 一体どれだけ魔法を発展させてるんだろう……。


「モフシ公国全域を覆った結界をくぐり抜けて国に一歩踏み込めば、もう別世界さ。馬鹿ほど大きい高層ビルがその辺に立ち並んでる。加えて『魔導機械』ってのも発展してる。車とか飛行機とか、意味不明なものまであるんだ」


 えぇ……。

 それって最早現代なんじゃないかな。


「加えて飛行船とかがあるから普通にやったら上から爆撃でもされて終わる。潜水艇とかもあるから海でも不利になる」


 聞いてて思った。

 モフシ公国だけ世界観違うじゃん。

 モフシ公国だけ近代って、それだいぶ強そうだなぁ……。

 あ、でも一回行ってみたくはあるかも。


「とまぁこんな感じで、モフシ公国は国力は異常なんだよね」

「確かに異常ですね」


 国土一番小さいのにそれかぁ……。

 あ、もしかしてヂドン皇国もそんな感じなのかな。


「後はヂドン皇国とペツ北王国なんだけど……。一旦食べよっか」

「冷めちゃいますしね」


 ここで一旦休憩を取る。

 特にリューツさんとかはずっと喋りっぱなしだ。

 喉も乾いているだろうし。


 割と量は少ないからすぐに飲み干せる。

 今回のは肉中心かぁ……。

 いいね、やっぱり美味しい。


「やっぱりこの世界の料理って美味しい気がします」

「そうかい?」


 リューツさんは軽く笑いながら反応する。

 日本の料理も美味しいんだけど、それと同じくらい美味しいのだ。

 まぁ汁物しか無いのは物足りないかもしれないけど、具とかもあるから正直あまり気にならなかったりもする。


「ふぅ。じゃ、続きを話そうか」

「お願いします」


 飲み終わると、リューツさんはまた話し始めた。


「後はヂドン皇国とペツ北王国なんだけど、とりあえずヂドン皇国から話すよ。ヂドン皇国は隣のモフシ公国とは打って変わってあまり発展してないんだ」


 あ、ヂドン皇国はそんな近代的な場所じゃないんだね。

 じゃあどんな場所なんだろうか。


「ヂドン皇国は『侍』っていう人たちがいるのが特徴だね」

「……あ、はい」


 うん、今の一言でなんとなくわかってしまった。

 日本みたいな場所でしょ、そこ。

 で、発展してないとなると昔の日本ってことになるんじゃないかな。


「となると、もしかして刀が武器なんですか?」

「ん、そうだけど……。知ってるのかい?」


 やっぱりそうだった。

 日本みたいな国だったなら、それはそれで見てみたい。


「そう言えばヂドン皇国の王族はなんとなくアイリのような雰囲気を持っていたような……」

「どうしたんですか?」


 なんかリューツさんが小さい声で何かを言い始めたので、聞いてみる。


「あいや、なんでも無いよ」


 はぐらかされたけど。


「その、ヂドン皇国の説明に関しては無くていいです。私の世界にも同じような国があったので」

「わかった。じゃあ最後にペツ北王国について話すよ」


 そして、リューツさんはペツ北王国について話し始めた。

挿絵(By みてみん)

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