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2 異世界のこと

「じゃあ、腹ごしらえも出来たし、行くか。アイリ、準備はいいかい?」

「はい、大丈夫です」


 既に時間は昼に近い。

 実は私が起きた時間からはそう経っていない。

 先程、リューツさんが丸々一日と言っていたのは、昨日の昼から今日の朝にかけてのカウントだったみたい。


 私は昨日の夢を思い出す。

 あれが、本当に向こうで起きていた事だとしたら。

 いや、ほぼ確実に起きていた事だ。

 だからと言って何かができるわけじゃないけど。

 それでも考えてしまう。

 あの声が、忘れられない。


 思わず気持ちが沈んでしまうけれど、今はそれを置いておかなくてはならない。


 リューツさんは、野営地にある道具を片っ端からしまっていく。

 しまっていくんだけど、別に袋とかに収納してるわけじゃない。

 リューツさんが触った物が消えていくのだ。

 リューツさん本人がしまうって言ってたからしまっているんだろうけれど、なんか凄い違和感がある。


「……そういやアイリ。あんたはこれからなにをするつもりだい?」

「え?」


 何をする?

 どういうことだろうか。


「多分だけどアイリは一文無しだろう? そんな状態で食っていける訳もない。行く当てもないだろうし……」


 ……あ。

 なるほど、そういう事だったか。

 確かにそうだ。

 行く当ても無ければ、お金もない。

 私はそんな状況なんだ、と言われて気づく。


 そうなると私の中には焦りが出てきて、リューツさんの収納は頭から吹き飛んでいた。


「ど、どうしましょう……」

「本当にどうしようもないなら、アタシの知り合いに頼んで雇わせてあげることもできるけど?」

「え……」


 雇わせてくれる、と?


「あいつは不器用でね。誰か雇いたいって言ってるけど、結局未だに雇えてないらしいんだ」


 な、なるほど……。

 とにかく、雇ってもらえると……。

 流石に即決はできない。

 今、私は食べていくことすらできない状況にいる。

 けれど、だからこそ街についてから考えたい。


「……ごめんなさい、その人と話し合ってからでいいですか? 今だとまだ考えれなさそうなので」

「元よりそのつもりさ。それじゃ帰るよ。準備はいいかい?」

「はい」


 私が準備はできていると返せば、リューツさんは笑いながら頷き、


「そんじゃ、ちゃんとついてきなよ」


 そう言って、歩き始めた。


***


「は、早いです……」

「これでも割と速度落としてる方なんだがね……」


 歩き始めてから十数分。

 私はバテていた。

 身体能力に自信があったわけじゃないけれど、それでも人並みはあると思ってた。

 けど、リューツさんの身体能力は桁違いだった。

 まぁ私より一回り、いや二回りくらい? 大きいのもあるかもしれない。

 でも私より圧倒的に歩く速度が早い。

 それに、森の中ってとても歩きにくい。

 いろんな要因が混ざって、体力がかなり消耗させられていた。


「仕方ない、一旦休憩するかい?」

「い、いえ……いいです。このまま行きましょう」

「そうかい。なら行くけど……。限界になったら言うんだよ」

「は、はい……」


 優しい声をかけてくれるけれど、その声は遠くて、あまり聞こえていなかった。

 それでも、なんとなくわかったから返事はできた。


 でも、だ。

 現在の私の体力では、すぐに力尽きてしまいそうなのは問題だ。

 そもそもだけど、多分この世界の人間は身体能力が高いんだと思う。

 理由はわからないけど、背が高いだけで割と華奢な体型をしてるリューツさんも、かなりの身体能力を持ってるみたい。

 だから、あくまでも地球で平均的と言える私の身体能力程度では、低いと分類できてしまうんだと思う。


「そう言えばアイリ、あんたのステータスはどんな感じなんだい?」


 ……ステータスってなに?


***


 ステータスなるものの話を聞いて、身体能力が高い理由がわかった。

 この世界の生き物は、ステータスというものを持っているらしい。

 ステータスは幾つかの数値があって、その数値が高ければ高いほど身体能力が高かったり、魔法能力が高かったりするらしい。

 この世界に魔法があることにも若干驚いたけれど、それ以上にそんな不思議なものがあることに驚いた。

 そして、ステータスは心で唱えることで確認できるらしい。


「……出ないです」

「みたいだねぇ」


 でも、なぜか私はステータスの確認ができなかった。

 これについては、リューツさんも理由はわからないとのこと。

 そんなことは、見ることは当然、聞いたこともないらしい。


 体感的にはもとの世界と変わっていないから、もしかしたらステータスそのものを入手できていない可能性もある。

 ステータスのある世界で、ステータス無しで生きる。

 更に死ぬ危険性上がったなぁ、と乾いた笑いが浮かんできた。



 その後、夕方の頃には森を抜けることができた。

 途中、いろんな生き物が襲ってきたりした。

 なんと木まで襲いかかってくることもあった。

 リューツさん曰く、「トレント」というモンスターらしい。

 結構強いモンスターらしくて、私ではすぐに殺されてしまうそう。


 そんなモンスターを一分かからずに倒してしまうリューツさんは何者なんだろう……。

 そんな考えもちょっと脳裏をよぎったけれど、すぐに消えていった。


 森を抜け、街も見えてきた。

 でも既に夕方。

 夜の鐘がなるまでに街に行かなければ門が閉まってしまうらしい。

 私の足では走っても街には間に合わないので、リューツさんに背負われていた。

 リューツさんの足はとても早くて、車と同じくらいの速度は出ている気がした。


 なんとか鐘が鳴る時間までには街についたから、なんとか街に入ることはできた。

 街に入った直後に鐘が鳴ったし、本当にギリギリだったみたい。

 まぁ、なんにせよ間に合ってよかったかな。

 リューツさん様様だよ、本当に。


***


「シャールに会わせるのは明日でいいとして……。今日は、アタシにちょいと付き合ってくれ」

「はい、その程度なら」


 最初の言葉は独り言なんだろう。

 今日の予定は多分、

 ここまで色々と助けてもらったわけだし、命も救ってもらった。

 だから、その程度はいくらでも付き合おう。



「リューツさん! 鐘が鳴っても来ないので、何かあったのかと思いました。無事で何よりです」

「昨日、森で遭難してる子供を見つけてね。保護しながら戻ってきてた関係で遅れたのさ」

「なるほど」


 リューツさんが行ったのは、木でできた役所みたいなところ。

 とは言っても、集まっている人たちは武器をもっていたりする。

 看板には『ギルド』と書いてあった。


「ということは、そちらの女の子が……」

「そうだな。アタシが保護した子だ」


 私のことを話しているのか、受付と思われる女性は私に指を指してきている。

 でも、それより私は周りに気が散って、二人の会話はあまり聞こえていなかった。


 実は、リューツさんから「荒くれ者共がいるから静かにしときな」と言われていた。

 けれど、ここにいる人たちは荒くれ者には見えなかった。

 みんな順に列に並んでいるし、軽い話し声程度でうるさいということもない。

 イメージしていた光景とは違って、辺りをずっと見ていた。 


 そんなことをしているいうちに、リューツさんの話は終わったみたいで。


「次は領主館だ」


 と、領主館なる場所に連れて行かれた。


***


 領主館。

 名前からして、領主さんの館かな? とは思っていた。

 だから、まぁ大きいことも予想していた。


 けれど。


「大きすぎでしょ……」


 豪邸。

 せいぜいその程度で片付けれるものだと思っていた。

 いやまぁそれでも凄いんだけど。

 それでも、豪邸という一言で表しきれるものだと思っていた。


 しかし目の前にあるのは、まるで宮殿。

 桁外れに広い場所を取っている宮殿だった。


「はは、これは元々王城なんだよ。もう200年前になるのかな。それくらいの昔に、ここを中心とした国があったんだ」


 リューツさんは何故こんな宮殿が領主館になっているのかを説明してくれた。

 200年前、ここを中心とした、大陸一の大国と呼ばれる王国があった。

 けれどとある魔物に襲われて、物理的な被害はほぼ無いのにも関わらず国が滅んでしまったらしい。

 その後、この国が興り、ここも領主館になっているらしい。


「他にも200年前の国が残した砦は今でも使われてるし、昔の大都市もほとんどそのまま使われてるんだ」


 そんな壮大な歴史があるとは思わなかった。

 思わず、そんな思いが口から漏れる。


「すごい、歴史ですね」

「そうだね。……さ、入るよ」


 未だ圧倒される私の手を引き、リューツさんは私を領主館の中へ連れて行った。


***


「リューツ・レジック様ですね。本日はどのような御用でお越しに来られたのでしょうか」


 リューツさんは凄い人だった?

 なんか凄い高級待遇をされているリューツさんに、唖然とする。

 なんだろう、さっきから驚いてばかりな気がする。


「ああ、今日はこの子の身分証明証を作りに来たのさ」

「かしこまりました」


 領主館の人にもタメ口で話しかけるリューツさんに、もしかして私は本当に凄い人に助けられたのでは? と思い始める。


「ん? どうしたんだいそんな口を開けて」

「……あ、いえ。リューツさんって凄い人だったのかなぁって」


 どうしたのかと聞かれて、つい漏らしてしまった本音に、リューツさんは一瞬呆けて、その後笑う。


「アタシはそんな凄い人間じゃないよ。ただの、冒険者さ」


 ……なんか、煙に巻くような感じではぐらかされた……気がする。

 にしても、身分証明証、かぁ。

 一見中世っぽく見えるけれど、その法律とかは割としっかりしているのかもしれない。

 そんなこと、あまり考えたこともなかったけれど。


「ではアイリ様。身分証明証を作成するために、こちらの部屋へどうぞ」

「あ、はい!」


 そして、身分証明証を作るため、領主館の人に連れられて別の部屋へ移動した。


***


「では、名前はアイリ・ミズイロ、出身は不明。年齢は16歳、経歴は無し。住所は未定、取得スキルは不明……で、よろしいでしょうか」

「はい」

「了解しました。では、仮身分証明証を渡しますので、明日再度お立ち寄りください」


 一通り聞かれ、それにすべて答える。

 出身地はこの人たちに言ってもわからなかったから不明。

 経歴もあるけど日本のものなので無し。

 住所も当然無し。

 無い無い尽くしだけど、これでも身分証明証を作れるみたい。

 少し安心しながら、仮身分証明証を受け取り、部屋から出る。


「終わりました」

「……お、終わったのかい? なら宿に行こうか」


 リューツさんに終わったことを伝えると、宿に行くこととなった。







「……そういえば。身分証明証を先に作った理由ってなんかあるんですか?」

「ん?」


 宿に向かう途中、宿より先に身分証明証を作りに行った理由を聞く。

 理由もなく、なんとなく聞いてみた。


「そりゃ、素性がはっきりしてないと宿も受け入れてくれないからね」

「……あぁ……」


 帰ってきた理由は、とても現実味のある理由だった。

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