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3 庭師ルル

 父が仕事に行き、母が過労ということで部屋で寝ている午後、私はそっと庭に出る。

 庭師が手をかけた美しい花も、日陰に生えた苔も見た瞬間にデータが脳裏に浮かぶ。やはり前世の知識は完全に引き継がれている。

 早く大掛かりな魔法も試してみたいけれど、ココでは無理だ。


 庭にある草花を一つ一つ見て回る。あまり育ちが良くない場合は足を止めて、確かめる。

 確認したら、次に行く。


「あ、あの、お嬢様っ!」

 頭の上から呼びかけられ、身体を捻らせ振り向くと、黒髪を背中で一本の三つ編みにし、灰色の瞳でカーキ色のエプロンをつけた十才前後の少女がいた。記憶を探るが前世でも会ったことはない。正直なところ前世では自分のことにいっぱいいっぱいで、使用人たちに注意を払うことはなかった。

 ここは不審がられるような大人っぽい言葉選びなどしないよう要注意だ。


「なあに?」


「あの、なんでここの花壇をジッと見ていたんですか?」

「あなたは?」

「あ、スイマセン! 私は、あの、自分は、庭師の娘で、ルルって言います! ここ、自分が任されてる花壇で……花は咲くけど、イマイチ、わーっと盛らないっていうか、元気じゃないっていうか……だから、お嬢様のご機嫌を損ねたのかと……」


 庭師の卵か。彼女は真剣に草について学ぼうとしているように見える。ならば、

「ルル、あなたはひみつを守れますか?」

「ひ、ひみつですか? 何の?」

「このかだんのひみつと、わたしのひみつです」

「私の花壇の秘密!? あ、しまった。私のじゃありません! でも知りたいです! 守ります!」


「わたしは〈くさまほう〉のてきせいもちです」

「え? お嬢様、〈火魔法〉じゃないんですか?」


 ああ、こんな末端の使用人まで、私の〈火魔法〉を期待していたのか、とガッカリする。前世と通算すれば1億回目くらいのガッカリ。


「ごめんなさい。〈くさまほう〉なの。わたしがキライになったのなら、たちさります」

「はあ? なんで嫌うの? いや、にくいほど正直羨ましいけど! いいなあ〈草魔法〉! 庭師で〈草魔法〉か〈木魔法〉持ってたら天下取れるのにぃ!」


「へ?」


 〈草魔法〉にいいなあって言ったの? 羨ましいって? そんなこと言われたの……初めてだ。前世、今世通じて。

 ……ほら、ごらんなさい。モルガン家から離れれば、きっと〈草魔法〉で生きていけるのだ。

 ああ、ずっと、我慢していたこの気持ち、ルルの前でなら、言ってもいいかもしれない。


「い、いいでしょう! わたし、〈くさまほう〉だーいすきなの!」


 ずーっと私のために手足となってくれた〈草魔法〉。ひとりぼっちのときも寄り添ってくれた私の優秀な〈草魔法〉。でも馬鹿にされすぎて、好きだと、愛していると言えなかった。〈草魔法〉ってばスゴいんだぞ! といばることができなかった。


 私は今世は胸を張って、〈草魔法〉と生きるのだ!


「いいなあお嬢様。いいなあ」

 ルルが足元の土を蹴り出した。おっといけないいけない。


「ルル、はなしをもどします。わたしは〈くさまほう〉もちだから、このにわのこえがきこえます。まずね、うえすぎてぎゅうぎゅうでくるしいんだって。だからまびいたほうがいいわ」


「間引くの? ちょっともったいないなあ」


「それと、このお花はたくましいから、そんなにひりょう、いらないって。おなかいっぱいなんだって!」


「えええ!? 私、奮発していい肥料撒いたのに……」

「うまいやりかたを、おとうさまにきいてください」


「ええ? お父ちゃんに聞かなきゃいけないの?……ここは私一人の力で頑張るって宣言したのに」


「せんだつに、おしえをこわねば、せいちょうできません」


 せっかく、教えてくれるお父様がいるのだから。私はどこまでも一人で、独学だった。


「う〜……」


 何か、お父様に啖呵でも切ったのだろうか? かなり聞きづらいようだ。いじっぱりめ!

 ここは私が一肌脱ごう。だってルルは私の〈草魔法〉を羨ましがってくれたもの。


「ルル、もしおとうさまに、ちゃんとただしいそだてかたを きけるのであれば、わたしからナイショのぷれぜんと、あげます」


「ナイショのプレゼント?」

「きになりますか?」

「最高に気になる!……う〜……わかった! お父ちゃんに頭下げるから、プレゼントちょうだい!」


 子どもは素直が一番だ。

「では、せんていバサミでそこのシロバラをいちりんください」


「え……バラを勝手に切るとおとがめが……あ、お嬢様がいいのならいいのか。ほい!」


 ルルは軍手をした手できちんとトゲを取ってうやうやしく私に渡してくれた。前世のどんな高位の貴族よりも……優雅だ。


「じゃあ、みててくださいね……着色!」


 私はバラの茎を掴んでいる人差し指から繊細な魔力を流す。〈草魔法〉30レベルオーバーで習得する技だ。


 シロバラは下から順に水色に染まり、五秒後には完全にスカイブルーのバラになった。

 私はルルにそれを渡して、

「どうぞ、きょうのおれい です」


「……すごい……すごいわお嬢様! うわあ! 私、こんな綺麗な魔法、初めてみた!」

 ああ……ルルはどこまで私を喜ばすのやら。綺麗な魔法、その言葉自体、初めてもらうプレゼントだ。


「ごかぞくのみなさまには、わたしがあそびで あおいえのぐをとかした水を すいあげさせたと いってくださいね」


「そっか……秘密って約束したもんね。わかったわ! あ、あのさあ、私も訓練したら今の〈草魔法〉使えるようになるかな?」


「ルルのてきせいはなんですか?」

「私は〈岩魔法〉」

 〈岩魔法〉か、私には全く知識がないや。


「岩はくさと あいしょう ふつうです。いまのわざは〈くさまほう〉レベル30オーバーでおぼえます。まりょくりょうは少しでいいので、どりょくしだいですね」


「努力かあ。ねえお嬢様、今日みたいにお散歩してるとき、また声をかけてもいいですか? 私に〈草魔法〉のアドバイスをして欲しいんです!」


 私に〈草魔法〉の教えをこうものなど、いなかった。


「……いいですよ」


「やった〜あ!」


 私がここにいる間は、なんでもルルに教えよう。ルルは私の、前世今世通算で最初の……お友達だ。




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