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7. 王太后とのお茶会(前半)

 私とセレスが悪魔の取引をしてから5年が経った。


 7歳だった私は12歳になり、貴族令嬢としての教養や魔法の扱い、ついでに聖女としての教育や王妃教育も順調に学んでいる。聖女や王妃の勉強を一生懸命取り組む理由としては、純粋に楽しいということもあるが、もう一つの理由としては、知っていれば適度な知らない振りが可能だからだ。ポイントを押さえて適度に自爆すれば、公爵令嬢としての尊厳を守りつつ、周りには聖女兼王妃にふさわしくないと思わせられるかもしれない。特に計画があるわけではないが、そういう時のために学んでいる。


 もちろん、セレスへの魔法提供も続けている。年々私の魔力が増えているので、セレスはいつも機嫌がよい。また、セレスは人としてどうかと思うところも多いが、魔法研究者としてはやはり一流で、私は中級魔法も扱えるようになり、上級魔法の勉強もしている。今ではセレスの助手というポジションを得ている。



 聖女の適性を低くする方法もおそらく順調だと思う。


 本当は、セレスは「もう少し頑張らないと間に合わないかもしれませんよ。」と言っていたが、なんとか間に合わせて見せる。



 私がそんなことを考えていると、ノック音が聞こえ、部屋に母が入ってきた。とても綺麗に髪を結いあげていて素敵だ。5年経っても、美しい。



「レティちゃん。急なお話だけど、明日の王太后陛下とのお茶会に一緒に行ってくれないかしら。」



 母はお得意のにっこり笑顔でお願いしているが、これはお願いではなくて、これから準備しますよ。ということだろう。



「もちろん構いませんが、本当に急なお誘いですね。」


 私はアメリにお茶を入れ直すように頼む。



 貴族というのは、何をするにしても準備に時間がかかるものだ。ドレスの準備や手土産としてのお茶菓子の準備。お茶会のお誘いも早くてもせいぜい1週間は必要かもしれない。



「そうなのよ。実は王太后陛下が急にお茶会を開くことになって、そろそろ、レティちゃんに会いたいのですって。」


 王太后が私に会いたい?そろそろ?面識など無いはずだけど。



「王太后陛下がどうして私に?」


「どうしてって、王太后陛下はレティちゃんのことがお気に入りだもの。だけど、そうよね…レティちゃんは覚えていないわよね。ごめんなさいね。」



 ああ、そうか。レティシアが事故に遭う前はそこそこの交流があったのか。


 私は、私がレティシアになる前のレティシアのことを知らない。結局事故のことだって、大人は何も教えてくれずに時間だけが過ぎてしまった。


 王太后は私のおじい様の姉にあたる。そして現聖女でもある。

 確かにそこそこ近い親戚ではあるけれど、どうして王太后陛下はレティシアのことがお気に入りだったのだろうか。それに、なぜ今私に会いたいのだろうか。私がレティシアになってから6年が経つ。お気に入りだったのならもっと早く会っていてもおかしくないと思うが…。



「私は王太后陛下のことをあまりよく覚えていませんが、それでもよいのでしょうか?」


「大丈夫よ!王太后陛下はいつもレティちゃんのことを心配していらっしゃったのだから。これからまた思い出を作っていけばいいわ。」


 母はにっこりと微笑み、私の髪をなでた。


 考えても理由がわかるわけがなく、その日は母とアメリに言われるがままに、ファッションショーを繰り広げ、明日の準備をして終わった。





 翌日、朝から湯あみをして、香油を付けて、ドレスに着替えて、女の子は準備が大変だなと思っているうちにアメリがテキパキと支度を終える。今日のドレスはブルーの爽やかで涼しげなドレスだ。


 時間になったので、ドレスを踏まないように馬車に乗り込み、母と王宮に向かった。


 ちなみに、長旅用の馬車の場合は空間の魔法で馬車の中を外見以上に広くすることができるらしいが、公爵邸から王宮まではそんなに時間がかからないのでめったに使わないそうだ。ただし、揺れや馬車の軽さ、馬の脚の速度などを魔法で微調整しているらしく、車よりも快適かもしれないと思った。



 馬車のなかで母と雑談をしていると、王宮が見えてきた。



「わぁ…!」



 私は思わず窓から身を乗り出し、感嘆の声を上げた。



 王宮はとにかく真っ白だった。


 権威を表すようにそびえ立つ真っ白な壁に囲まれて、その中の王宮自体も真っ白だった。派手さも豪華さもない王宮だが、この世のものとは思えないような上品さと美しさがある。さらに、太陽に反射して、光り輝いているようにも見えた。


 私の様子を見て母はふふふっと笑い、私もはしゃぎすぎてしまったなと我に返り、椅子に座り直す。



 その後、母から王宮の白さは聖女様の力のおかげだと教えてもらった。

 

 聖女が祈りを捧げると国中が聖女の『特別な魔法』の光に包まれるらしい。しかも、聖女によって『特別な魔法』の色は違うらしく、現王太后の『特別な魔法』の色が白なので、王宮自体も真っ白に輝いているらしい。

 前の聖女の『特別な魔法』の色は白に近い黄緑色だったらしく、王宮の色も自然豊かな緑色をしていたそうだ。


 そういえば、聖女の適性を調べるカードは現聖女の『特別な魔法』で染められており、真っ白だったなと思い出す。

 そして、私の『特別な魔法』の色も白なのだ。だからこそ私は現聖女の『特別な魔法』で染まったカードを別の色に変えることはできなかった。現聖女と私の『特別な魔法』の親和性は高い。



 母が「レティちゃんが聖女様になったら、王宮の色は何色になるのかしらね。」と夢うつつにつぶやいているのを聞こえなかったふりをしてやり過ごしているうちに、王宮の入り口に到着した。




 馬車から降りるとすぐに待合室に案内された。王宮は、外見は真っ白だが、待合室は高級そうな家具や絵画が飾られていて、絢爛豪華なヨーロッパの王宮のようだった。



 部屋をきょろきょろと見回していると、母が「緊張しなくても大丈夫よ。」と声をかけてきた。


 自国の王太后に会うのだ。緊張しないわけがない。

 だが、あまりきょろきょろとするのも公爵令嬢としてははしたないだろう。私は母を見習い、ゆったりソファに腰をかけて王太后を待つことにした。





 しばらくすると、王宮の召使がドアを開け、女性と女の子が入ってきた。女性はとても若く見えるので、王太后ではなさそうだ。


 私は頭の中に叩き込まれている貴族名鑑からこの女性を探す。だが、すぐにこの女性が誰なのか分かった。この人はこの国の王妃だ。


 そして、王妃と一緒に部屋に入ってきた女の子はこの国の王女だと思う。年は私と同じぐらい。母親譲りのやや濃いめの亜麻色の髪で、絡まりのないストレートヘアだ。しかも、ピンクのドレスが女の子らしさを格上げしていて、お人形さんみたいな女の子だ。



 この国には王子が2人と王女が1人いる。王女の名前はたしかビクトリア・レイ・オルジェリア。ちなみに、王妃は隣国から嫁に来た方なので、直接は王家の血を継いではいない。そのため、マリアンナ・オルジェリアと名乗っている。一方で、王太后は何代か前の国王の妹の血筋の為、王家の血を継いでいるので、デリア・レイ・オルジェリアと名乗っているはずだ。



 王族の名前や家系図を覚えることも公爵令嬢としての勉強の一つだ。魔法研究ばかりにかまけているわけではない。しっかりとこの世界になじむ努力もしている。





 母と私は片膝を曲げ、お辞儀をして挨拶をした。王妃はすぐに片手をあげ、挨拶を返してくれる。


「エミリア、ようこそ。」


 王妃は母のところに駆け寄り、にっこりと微笑む。母も王妃に招いてくれた礼を述べて互いににっこりと微笑みあっている。

 二人はもともと友人らしいので、王妃と公爵夫人となった今でも仲が良いのだろう。


「王太后様は後ほどお茶会の間にいらっしゃるわ。レティシアも大きくなって…立派なレディだわ。」


 王妃はちらりと私を見て微笑んだ。母もそうだが、王妃の微笑みも優しさに溢れていて、人の緊張を解く効果がある気がする。


「王妃殿下、レティシアは事故より前のことを覚えてはいないのです。」


「そうだったわね。かわいそうなこと。……マリアンナ・オルジェリアですわ。レティシア、今日はお越しいただけて嬉しく思います。」


 そう言うと、王妃は丁寧に挨拶をしてくれた。母が私の背中にそっと手を当てる。


「レティシア・レイ・シャンデールです。本日は王妃殿下にお会いできまして光栄に存じます。」


 私と王妃は面識があるのだろうが、私はそれをまったく覚えていない。申し訳ないと思いつつも、丁寧に挨拶をすると、王妃はより一層深くにっこりと微笑み返してくれた。


「ビクトリアのことも覚えていないのかしら。こちらへいらっしゃい。ビクトリア。」


 王妃は王女を手招きして、すぐ横に立たせた。


「ビクトリア・レイ・オルジェリアです。私、またレティシアに会えるのを楽しみにしていました!」


 王女はウキウキとした声で、挨拶をする。ウキウキが隠しきれていない普通の女の子だ。公爵令嬢の私から見ると、ちょっとはしゃぎすぎである。


 また…、と言っているので、私はどうやらビクトリアとも面識があるらしい。覚えていないことが申し訳ないと思いつつ、私はビクトリアに挨拶を返した。




「そろそろお茶の間に向かいましょう。」


 王妃がそう言い、私たちはお茶会の間に向かった。

 移動している最中も王女のウキウキが伝わってくる。ときおり目が合うと、にこっと笑う。おそらく、私とビクトリアは仲が良かったのだろう。また仲良くなれるだろうか。


 不安に思いつつ、私たちはお茶の間にたどり着いた。


母エミリア、マリアンナ王妃、ビクトリア王女でした。

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