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6. 取引

「と…取引ですか?」


 私はおそるおそるセレスに尋ねる。この人との取引なんて、絶対に悪魔の取引か何かだと思う。


「はい。取引です。レティシア様は聖女になりたくないのですよね。」


 私はびっくりして目を見開いてしまう。貴族の令嬢は感情を顔に出さず、にっこり微笑むべし。と育てられる。それなのに、思いっきり顔に出してしまい、しまったと思った時には、セレスがさらににっこりと微笑んでいた。

 母のにっこり笑顔は大好きだが、この人のにっこり笑顔は、この先何が起こるかわからないという恐怖を感じる。苦手だ。


「実は先ほど、聖女の適性を調べさせていただきました。」


「えっ!」


 私はまたも思わず声を出してしまったが、セレスは気にせずに話を進める。


「石の板に乗っていただきましたが、あれは聖女が持つ『特別な魔法』の器の重さを量るものです。そして、真っ白なカード。こちらは現聖女でいらっしゃる王太后陛下の『特別な魔法』によって染められたカードで、カードの色を別の色に染められないということは、現聖女との『特別な魔法』との親和性が高いということです。」


 驚いた。何が驚いたって、この人がちゃんと説明ができる人だったということに驚いた。


 いや、それよりも聖女の適性ってこんな簡単に調べられることだったの?しかも、器の大きさや親和性なんて、生まれ持っての体質だから、聖女の試験の時に力を加減して聖女にならなくてもいいようにしようと思っていた私の浅はかな考えに自己嫌悪する。

 でも待って。もしかしたら私には聖女の適性がないかもしれないじゃない。自己嫌悪する前に結果を聞いてみなくては。


「セレス先生。その…結果の方はいかがでしたか?」


「完璧です。これほど聖女の適性があるご令嬢にはお会いしたことがありません。次期聖女はレティシア様で決まりでしょう。」


 セレスはにっこりと微笑んだまま間髪入れずに答えて拍手までしてくれた。


 わーー。心の中で大きく叫ぶ。


「ですから、取引をしましょうと申し出たのです。私が聖女の適性を下げる方法を教えて差し上げます。」


「そのような方法があるのですか?」


 私はまたも目を見開いてしまう。セレスはにっこり笑顔を崩さずにソファに腰かける。お茶を入れましょうかと言ったが、「いりません。」と断られてしまい、私もセレスの向かいのソファに腰かけた。



「簡単な方法です。ただ、諸刃の剣でもありますので個人的にお勧めはしません。ですが、あなたほどの魔法の天才が聖女なんかになるのはもったいないではありませんか。……先ほどの、部屋の温度を変える魔法もそうです。あんなにぴったりと10度も部屋の温度を下げて、そしてぴったりと元に戻すなんて。しかも魔術具を使わずに。基礎魔法の中でも氷の魔法は他の魔法の影響を受けやすいのをご存じですか?それなのに難なくやってのける力量は……」


 そのあともセレスの話は長々と続いた。興奮して話し出すと止まらなくなる性格のようだ。




 その後のセレスの話も相当長かったので、掻い摘んで話すと…

 そもそも、最初は父と母に、私の聖女の適性を調べてほしいと頼まれたらしい。そういう貴族は結構多いらしく、魔法研究者は面倒だと思いながらも聖女の適性を調べるそうだ。現聖女の『特別な魔法』で染まった真っ白のカードを持っているあたり、現聖女である王太后公認の事前調査ともいえる。


 セレスは私の聖女の適性をして、次期聖女は決定したなと確信したらしい。そして、魔法研究者として次期聖女がどれくらいの魔法が使えるのか気になり、適当に魔法を使わせたところ、その正確さに驚愕したらしい。

 なんでもいいから魔法を使えと言われたときの魔法について、まったくのノーリアクションだったので、駄目だったのだと思っていたのだが、セレス曰く7歳の女の子がそこまでの魔法を扱えるということに驚愕したらしい。感情が顔に出ないにもほどがある。


 そして、私が聖女になりたくないと思っているという情報は、おじいちゃん先生の推測らしい。たしかに、私はおじいちゃん先生になんでも相談をしていた。ただ、聖女になりたくないとはさすがに言っていなかったはずだが、おじいちゃん先生はお見通しだったらしい。


 そんなわけで、セレスは私が聖女になるぐらいなら魔法研究所に欲しいと思ったので、今まさに取引を持ちかけているらしい。



 聖女になるぐらいなら…って、この世界では不敬罪に当たるような発言だと思うけど、魔法研究者ってみんなこんな感じなのだろうか。


 とはいえ、聖女にはなりたくない。



「セレス先生。……取引内容とは?」


 セレスは今日一番の笑みを見せる。比例して私も今日一番の背筋の震え。


「魔法研究に協力してもらいたいのです。私の研究には魔力が欠かせませんから。つまり、レティシア様の魔力を定期的に提供していただきたいのです。」


 魔力の提供か。それぐらいなら、頻度や量にもよるけど問題ないかもしれない。この悪魔の取引…乗ってもいいの?


「セレス先生。私、聖女にはなりたくありません。取引内容について、もう少し詳しくお話をしたいと思います。」


 セレスは「わかりました。」とにっこり微笑み、前のめりに説明し始めた。


 私の魔力量は桁違いに多いらしいので、月に1回の魔力が枯渇しない程度の魔力提供で構わないらしい。魔力は1週間もあれば完全に回復すると思うけど、月に1度は飢餓状態のような苦しみを味わうのだ。それを7歳の少女に笑顔で要求してくるあたりセレスはマッドサイエンティストだと思う。




 だけど、聖女にはなりたくない。決断するしかない。




「わかりました。私、セレス先生と取引をしたいと思います。」


 私は貴族らしくにっこりと微笑んだ。


「では、取引成立ですね。今日から聖女試験が行われる9年後までの期間。あなたは私に魔力を提供していただきます。私もあなたが聖女になれなくなる方法を教えましょう。それと、今日の聖女の適性結果はそこそこです。という程度に報告しておきます。」


「よろしくお願いいたします。」



 こうして、セレスと私の9年間の取引が成立した。


セレスとの悪魔の取引。

聖女の適性を低くする方法については後日説明予定です!

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