28. 闇との戦い ~祈り~
私は飛んだ。
飛んだ瞬間、黒いもやもやがやってきて、その爆風で勢いがついたと思う。
私はものすごい勢いで飛んだ。
あまりの勢いに、思わず目を瞑ってしまう。
一瞬の出来事なのに、スローモーションのように感じるのが不思議だ。
私の体が抱きとめられて、遠心力でぐるんと回った。その勢いで投げ飛ばされたような気がする。
もしかして、私のことを受け止めたけど、勢いで離した?
あ、私死ぬかもしれない。死ななくても大けがだ。
目を瞑ったまま、冷静にそう思った。
次に、私の体がぴたりと止まり、浮遊したような気がした。
そして、誰かに手を引かれて、横抱きにされた。
私はそっと目を開けた。
驚いたことに、目の前には、にっこり笑顔のセレスがいた。
「セレス先生!?・・・どうしてここに。」
「もちろん、あなたを助けに来たのですよ。」と言って、セレスはにこにこしている。
周りを見ると、エドモンドとヘンリックは二人仲良く転げており、マリージェイは第2王子にお姫様抱っこをされていた。
何があったかは後で聞くとして、私はセレスに助けられた。
「セレス様、ありがとうございます。」
私は礼を言い、セレスから降りて自分で立とうとしたが、足場が悪すぎて、この場所に二人で立つのは難しそうだった。
セレスは「少しお待ちください。」と言い、私をマリージェイたちがいるところに連れて行き、降ろしてくれた。
エドモンドとヘンリックが立ち上がり、セレスと私を睨んでいる。
とにかく二人にもお礼を言わなくては。
「お二人も、受け止めてくださってありがとうございます。」
二人に礼を言った時、ヘンリックの横腹辺りに包帯がまかれ、血が滲んでいることに気付いた。
「ヘンリック!怪我をしたのですか?」
私はヘンリックに駆け寄って、顔色を窺った。
ヘンリックはかすっただけだから心配するなと言っているが、心配だ。
エドモンドは大丈夫だろうかと思って、そちらを見ると、こちらを見ていたエドモンドと目が合ったが、すぐにそっぽを向かれた。とりあえず、怪我をしている様子はないので、一安心だ。
「もう!いちゃついてる場合じゃないわよ!」
マリージェイが言った。
別にいちゃついてはいないが、たしかにマリージェイの言う通りだ。
まだ闇の者の問題は何も解決していない。
先ほどまで私たちがいたところに、ゲラン伯爵が浮いていた。
「愚かな男だな、父上。」
エドモンドが複雑な表情で言った。仲が良くないとはいえ、肉親だ。
心を痛めないわけがないと思う。
ゲラン伯爵は疲れ果てて、ゆっくりと一時停止しているような速度で動いている。
先ほどより距離は詰められているが、これなら祈りをする余裕がありそうだ。
マリージェイは手を組み、祈り始めた。
私も同じように祈る。
マリージェイと私の周りに強い光が現れ始めた。
どちらも白く輝く光で、ただでさえ薄暗いので、少しの光でも相当まぶしい。
光はそのまま天に向かって伸びていく。
祈っている本人には見ることができないが、相当幻想的な光景だと思う。
天を覆っていた黒いもやもやが薄くなり始め、ゲラン伯爵の黒いもやもやもなくなりつつある。
もうひと踏ん張りと思い、祈る力を強める。
ゲラン伯爵から黒いもやもやが消え、ゲラン伯爵が屋根の上に落ちた。
天の黒いもやもやもすっかり消え、白んでいる空が見えた。
マリージェイは祈るのをやめて、「これでもう大丈夫。」と言って、にっこりと微笑んだ。
良かった。
そう思った瞬間、体の中でガシャンと何かが壊れる音が聞こえた。
途端に気持ちが悪くなり、吐き気と頭痛が襲う。
私はその場でうずくまり、気を失ってしまった。




