誰かの心の声
誰かの心の声です。
短いです。でも、ご安心ください(?)
今日は連続投稿します。
私は小さい頃から蝶よ花よと育てられた。
周りの者も、私のちょっとした我儘を喜んで聞いてくれた。
私は常に自分が一番だと思っていた。
王太后は私のことをとても可愛がってくれた。
王太后は私が次の聖女になると言っていた。
だから、私は自分が次の聖女になるのだと確信していた。
あれは6歳のとき。
王宮で王太后とお茶会をした帰りに、私は噂話を耳にした。
「王太后は自分に似ている令嬢が聖女になることを願っている。まだ幼い令嬢は王太后の言葉を信じている。だが、王太后は心の奥底ではわかっているのだ。令嬢は聖女にはなれない。令嬢は誰よりも劣る令嬢なのだから。」
その言葉を聞いて、私の心は大きく揺れ動いた。
いつもなら、私を馬鹿にした者をひっぱりだして、その場で処断してやるところだが、その時はなぜかできなかった。
心の奥底では気が付いていたからだろう。
自分が誰よりも劣る令嬢なのだと。
どんどん気持ちが高ぶってきて、『特別な魔法』が溢れ出るのがわかった。
こんなことは初めてで恐ろしかった。
周りの者が私の異変に気が付いたときには、私は自分の『特別な魔法』に吹き飛ばされて、王宮の外に倒れていた。
『特別な魔法』というのは、本来無害で、使い道のない魔法だとされている。
私を吹き飛ばした『特別な魔法』に何が起きたかはわからないが、おそらくその瞬間に、"それ"が私の体に入り込んだのだと思う。
私の体に入り込んだ"それ"は、私の体で好き勝手し始めた。
だけど、私はそれを止めなかった。
体に入り込んだ"それ"を追い出さずに、見守った。
"それ"は、私とは違って聖女になりたくないと思っているようだった。
私からしてみれば信じられないことだけど、不思議と"それ"の生き方が嫌いではなかった。
何事にも一生懸命で、"それ"はみんなから愛されていた。
そのことに嫉妬しないと言えば、嘘になるが、それでも私は"それ"の生き方が好きだった。
私にはできなかった生き方を、私の代わりに"それ"がしてくれている。
もし、私が生まれ変わったら、"それ"のような生き方をしたい。
そう思っていると、今度は"それ"が私を救うと言い出した。
別にそんなこと望んではいなかったけど、"それ"がその気になっているのだから好きにさせておこう。
それに、"それ"が私を救った世界に興味もある。
その救い方も、私が生まれ変わったときの生き方の参考にさせてもらおうかな。
それなのに、"それ"が闇に飲み込まれてしまった。
張り切りすぎて空振りするのは"それ"の悪い癖だ。
しょうがない。"それ"とは長い付き合いだ。
私が少し導いてやろう。
次話はヘンリック視点です。




