20. この世界の真実(2)
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「こういうこともあるんだな。」
「そうですね。」
その後、私と第1王子は自分たちが同じ日本人で、死んでしまい、目覚めたらこの世界にいたということを確認し合った。
第1王子は家に空き巣に入られているところに偶然帰宅してしまい、包丁で刺されて亡くなったそうだ。私も、帰宅途中に後ろから誰かに追いかけられて、刺されて死んでしまったことを話した。
そして、改めてこの世界がゲームの世界であるという話をしてもらった。
正直、第1王子に説明はされたが、その実感はない。
だって、私はそのゲームを…というか、ゲーム自体をほとんどやったことがないのだから。
そのことを第1王子に言うと、無理にゲームの世界だと思わずに、映画とかドラマの世界の登場人物になってしまったと思っておけと言われた。
それなら、想像ぐらいはできるかもしれない。
「それよりも、こんな状況なんだから貴族の言葉遣いなんてしなくてもいいんじゃないか?俺は貴族の言葉遣いとか、貴族の笑い方がどうも苦手で…。」
ああ、だから笑顔に違和感があったのかと得心が行った。
私はこの世界の生活を結構気に入っているし、母という素晴らしい見本がいたので、言葉遣いもにっこり笑顔も自然と様になってきていると思う。
むしろ、今更日本時代の言葉遣いで話すと、ぼろが出そうで怖い。
「私は貴族の言葉遣いのままにさせていただきます。そうしないと、ふとした拍子に日本時代の言葉遣いに戻ってしまいそうですから。あなたのことも、いままでどおり"殿下"と申し上げますわ。」
私が凛として答えると、第1王子はせめて名前で呼んでほしい。と頼んできたので、これからは「ヘンリック様とお呼びすることにします。」と言うと、"様"はいらないんだよなぁ。とぼやいていた。
第1王子もといヘンリックは、この世界のことを知っているだけに、なかなかこの世界に馴染めず苦労をしてきたらしい。
「それよりも、この世界はゲームの世界なのですよね。主人公のマリージェイ様はこれからどうなるのでしょうか?」
「前にも話したと思うが、マリージェイは聖女の力を失う…はずなんだが。」
ヘンリックはちらりとこちらを見ながら言った。
「確か、私がマリージェイ様に嫉妬して、いじめるんでしたっけ?えっと、悪役令嬢だから。」
ヘンリックは「悪役令嬢と言ったことは謝っただろう。」と言って苦い顔をしている。それを無視して私は話を進める。
「私がマリージェイ様のことをいじめないのなら、マリージェイ様は聖女の力を失うことはないですよね?マリージェイ様は第2王子殿下と結婚して、物語は終わり。めでたしめでたし、ハッピーエンドですよね?」
私の言葉にヘンリックは大きく首を振る。
「こんなに物語が崩れてるんだぞ。下手をするとバッドエンドになって、みんな死ぬ。」
「え、死者が出るような危険なゲームなのですか?」
「当たり前だ。…いや、当たり前じゃないが…。」
驚いた。恋しちゃってルンルンなゲームなのかと思いきや、死人が出るようなゲームだったとは。
そして、物語を崩した張本人は私?
ヘンリックはう~んと唸って一人で考え込んでいる。
一人で考え込まれると、物語を知らない私はまた余計なことをしてしまうかもしれない。
「ヘンリック様。もはや私たちは運命共同体ですよね?何か不安要素があるのならお話しください。みんながハッピーエンドになる道を目指しましょう。あと、私は王妃にはなりたくないので、ヘンリック様とは婚約しない方向で話を進めることはできませんか?」
勢いに任せて自分の希望も伝えておく。
「王妃になりたくない?それを言ったら、俺だって国王になんかなりたくないのに…」
ヘンリックはまたごにょごにょと呟いている。はっきり最後まで話してほしい。
私が気持ちをもやもやとしていると、ヘンリックが「よし!」と言って、こちらに体を向き直した。
「わかった。とりあえず、このゲームのあらすじや注意点を全部説明する。俺はこのゲームを一応全ルートクリアしてるからな!」
ヘンリックはどや顔をして言ったけど、私には全ルートクリアしていることがどれくらいすごいことなのかわからない。
そして、ヘンリックの長い長いゲーム講座が始まった。
***
「では、私とミハイル様が闇の者を手引きして、マリージェイ様が闇に飲み込まれてしまうのですね。そして、マリージェイ様を救うことができるのは各ルートのキャラクターひとりだけ…というベタな展開。ルートのキャラクターとの好感度が高くないとバッドエンドになってしまい、マリージェイ様が世界を崩壊させてしまうのですね。」
「ベタな展開という言葉は余計だし、ちょっと違うな。基本はマリージェイが闇に飲み込まれる前に助け出さなくてはならない。実際にマリージェイが闇に飲み込まれるのはミハイルルートだけだからな。」
今は、ヘンリックから聞いた話を頭の中でまとめながら確認をしている最中だ。
ルートごとに人の行動が違うとこんがらがってしょうがない。手元にないけど、メモをしながら聞かなくてはすべてを覚えきれそうにない。
「う~ん、どうしてミハイル様が闇の者を手引するのに、マリージェイ様と恋仲になるルートが存在するのですか?納得がいきません。」
「それは、ミハイルがマリージェイのことを愛するがあまり独占しようと思っているからだ。歪んでいるが、これも愛の形だな。」
愛の形…。真面目に愛の形について語られるのはちょっときついかもしれない。
「まあ、そういう愛もありますよね…。ですが、私としてはあんなに人柄の良いミハイル様が闇の者を手引すること自体が信じられません。」
「そういえば、ミハイルと踊っていたな。あの時はやはりお前とミハイルが結託して闇の者を手引する運命なんだと肝が冷えたぞ。何を話していたんだ?ミハイルからそういう誘いはあったのか?」
ああ、やっぱりあの時、ミハイルとダンスをした後にヘンリックと目が合ったのは気のせいではなかったらしい。
「何を話したかと言われましても…世間話でしょうか。闇の者の"や"の字も出てきませんでしたわよ。私には、結婚するならこの人がいいなと思うぐらい好青年に見えましたけど。」
「末恐ろしいな、ミハイル。…あいつはヤンデレだから気をつけろよ。」
ミハイル様…ヤンデレなの?信じられない。
私がヤンデレ…と呟いているのを見て、私がヤンデレという言葉も知らないのかと思ったヘンリックはしょうがない説明してやるかという顔をして、「ヤンデレというのはだな…」と説明し始めたので、私は「ヤンデレぐらい知ってますよ!」と頬を膨らませた。
どうにも、この人といると貴族らしくするのは難しいかもしれない。
そういえば、この人何歳ぐらいの人なんだろう。
ゲームをしているってことはそこそこ若いはずだよね?それって偏見?今どきのゲームの年齢相場がわからない。
そもそも、こういうゲームって男の人もするんだね。今どきってそういうものなのかな?
「あの…ヘンリック様。素朴な疑問なのですが、このゲームって女性向けですよね?ヘンリック様は日本時代は女性だったのですか?」
「は?男だ。」
ヘンリックはなんていうことを聞くんだと驚いている。
「このようなゲームって男性もやったりするものなのですね。」
「・・・男がやって何が悪い?」
いや、私にはよくわからない。
「悪くないと思います。」
とりあえず、そう答えておいた。
ヘンリックは「そうだろう?」と言い、満足げにしている。
その後もヘンリックはこのゲームがいかに楽しいゲームなのかを語ってくれた。
そんなヘンリックを見て、ゲームを何歳の人がやろうと自由だと思うし、男の人が女向けのゲームをやることも、逆に女の人が男向けのゲームをやるのも自由だよね。と納得しておいた。
「ところで、ヘンリック様はご自分のルートにしようとは思わなかったのですか?こういう時って、せっかくだから自分のルートにしようと思うものなのではないのですか?主人公のマリージェイ様と結婚できるのですよ?」
「あのな…、ゲームと現実は別物なんだよ。それに、少なくとも俺の場合は、主人公の女の子に恋するわけじゃない。恋をしているマリージェイが好きなだけだ。」
その感覚はわかるような気がする。映画のヒーローをかっこいい~と思うことはあっても、そのヒロインになって結婚したいと思ったことはないかもしれない。
「それに、第1王子のルートはマリージェイが闇に飲み込まれそうになった時に、ミハイルと決闘をして、刺されて死ぬんだ。刺されて死んだ俺にまた刺されて死ねと?」
「え!死んでしまわれるのですか!?」
私はまたも驚いてしまった。恋しちゃってルンルンなゲームかと思いきや、悲恋の恋物語も含まれていただなんて!
「一度死ぬだけだ。その後で、マリージェイが生き返らせてくれる…好感度MAXだったらな。」
好感度って…大事。
「俺はもう死ぬのはごめんだ。痛い思いをするのも絶対に嫌だ。だから俺はマリージェイを避け続けた。できれば、比較的安全なセレスルートかエドモンドルートに進んでもらいたかったんだが…」
そこまで言って、ヘンリックが私をぎろりと睨む。
本来、セレスは私ではなくてマリージェイの教育係になるはずだったらしい。そして、エドモンドは友達がいなくて孤独に生きていたが、マリージェイと出会って愛を知るという役柄だったらしい。
「どうやら、私が妨害してしまったようですね。」
ヘンリックは「そうだ。」と言って何度も頷く。
レティシアとヘンリックの話、長いですね。
次も二人で長々と話し合いです。
すみません。




