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13. 社交界デビュー(3)~お前は悪役令嬢だ~

 テラスでセレスと魔法研究について口論をしていると、すぐ後ろから足音が聞こえた。

 私とセレスは話すのをやめて振り向くと、驚いたことにそこには第1王子が立っていた。


「話しているところすまないが、レティシア嬢に話があるのだ。セレス、外してくれるか?」


 セレスは「かしこまりました。」と返事をして、テラスから出て行ってしまった。


 どうしよう。第1王子と二人っきりになってしまった。

 第1王子にはもう挨拶は済ませたし、ダンスの約束もしていない。そもそも誘われなかった。なのに、人払いまでさせて私に話とは一体何だろうか?

 ビクトリアのこと?先ほどのマリージェイとのこと?


「殿下、私にお話とは、どのようなお話でしょうか?」


 私はにっこりと微笑んだ。だが内心ひやひやしている。今はただ、その感情が顔に出ないように気を付ける。



「セレスとは仲が良いのか?」


 第1王子は相変わらず目をそらしたまま、ぶっきらぼうに質問してきた。


 セレスと仲が良いか?それが話したいこと…なわけないよね。


「仲が良い…というよりは、セレス様は私の魔法の先生なのです。もう9年近く魔法を教わっておりますので、どちらかというと仲は良いと思います。」


 私はにっこり微笑んだまま答える。この質問が本題ではないと思うので、早く本題に入ってほしい。


「セレスは侯爵だ。そなたより爵位が低いのだぞ?」

 

 王子の言葉を聞いた瞬間、私のにっこり笑顔が崩れて、少しだけ眉間に皺を寄せてしまったと思う。

 自分より爵位が低いからなんだというのだ。私は公爵家だ。ほとんどの貴族が自分の家の爵位より低いのは当たり前ではないか。


 それに、私が日本育ちだからという理由に限らず、我がシャンデール家は爵位ではなく人柄を重視する傾向にある。父も母も、そして私も、爵位が下の者を蔑むような方と深い付き合いをしたいとは思わない。


「私はセレス様のことを尊敬しておりますわ。爵位は関係ございません。」


 私は精一杯眉間に寄ってしまった皺を取り、にっこり笑顔に戻して、王子の質問に答える。


 ちなみに、セレスを尊敬しているのは本当のことだ。魔法研究において彼の右に出る者はいない。ただ、かなり変人なだけだ。


「だが、ゲラン伯爵令嬢に対してあまりにもひどい仕打ちだったそうだな!自分の命令を聞かない彼女をひっぱたいたとか。そういえば彼女は元々平民であったな。貴族は蔑まないが、平民出身の彼女を蔑んだのか?」


 私がマリージェイに命令をした?叩いた?蔑んだ?そんなわけないじゃない。


「殿下、それはどなたからお聞きに?」


「その場に居合わせたという令嬢から聞いた。他にも皆がそう言っていたぞ!」


 私もその場に居合わせた令嬢達から話を聞いたが、そんなことは言っていなかったと思う。そもそも皆って何?2~3人から聞いた話を全員の総意にしないでいただきたい。


 私は努めてにっこりと微笑み、王子の目を見て話す。


「殿下がどのようなお話を聞いたが存じませんが、私はマリージェイ様を蔑んだりなんていたしませんわ。」


「そなたの言うことなど…信じられん。」


 これはだめだ。王子は私の話を聞こうともしてくれない。

 ビクトリア、例え私が聖女になったとしても絶対にこの王子とは結婚したくないからね。私は心の中で固く誓いを立てる。


「殿下に信じていただけず、残念ですわ。」


 私はにっこりと微笑みながら答えた。


「そのように思いつめた顔をしても私は騙されんぞ!そなたはまったく反省していないのだろう!」


 思いつめた顔なんてしていない。

 王子は私と"会話"をする気なんてないようだ。一方的に私を責めていると思う。時間の無駄だ。


 私は頬に手を当てて、困ったわぁという顔をしながら、一度目線を下げ、再び戻した。王子と目が合ったところで、にっこりと微笑み、


「殿下、ほかに私に質問はありますか?」


 と言った。


 これは母が父にお願いをするときによく使っている手だ。父曰く、目が合った時にドキッとして、ついついお願い事を聞いてしまうらしい。


「いや…ないかもしれない。」


 王子にもこの手は通用するようだ。


「質問がないようでしたら、私は失礼いたしますわね。」


 私はにっこりと微笑んだまま、やや早口で言い、お辞儀をして立ち去ろうとした。


「いや、待て!」


 テラスの出口までもう少しというところで王子に声をかけられ止められる。あともう少しだったのに。


 しばらくして、王子は自分の中で話すことをまとめたらしい。きっと私をにらみつけて、私を指さす。人に指をさすのはマナー違反だと思うが、早く話を終わらせたいので、細かいことを指摘したりしない。


「単刀直入に聞く!そなたは聖女になりたいと思っているのか?」


 私が聖女になりたいと思っているか?もちろん答えはNOだ。聖女になりたくないと思っている。

 しかし、前にもこのような状況があったと思うが、この世界で「聖女になんかなりたくない。」という発言は危険だ。それを王子に言えるわけがないではないか。


「もちろん。聖女になりたいと思っております。」


 私はにっこりと微笑み、答えた。王子はボソッと「やはりな。」と言う。まぁ、おそらくここにいる令嬢100人に同じ質問をしたら、全員同じ答えが返ってくると思うが。


 王子はそのままテラスに設置されているベンチに腰をかけて、きっと私を睨む。


「だが、そなたは聖女にはなれないぞ!」


 私は思わず目をぱちくりとさせてしまう。

 王子の発言は私にとっては朗報なのだが、決定事項なのだろうか?

 

「お前は聖女にはなれない。マリージェイが聖女になるんだ。」


 これは信ぴょう性が増した。先ほどセレスとマリージェイの聖女の適性について話したところだ。 


「だが、おばあ様はお前をひどく気に入っていて、結局お前と俺は婚約するんだ。そのあと、お前は聖女になれなかったショックから、マリージェイをいじめる。」


「えっと…殿下??」


 なにやら雲行きが怪しい。私は聖女にならないのに王子と結婚するの?聖女になれなかったことがショック?しかもマリージェイをいじめる? ありえない。


「マリージェイの心はどんどん病んでいく。俺や第2王子、エドモンドやセレス…ほかのキャラクターがどんなに優しく接しても心を開いてくれず、やがて聖女の力を失ってしまう。」


 王子は私を無視して話を続ける。だんだん独り言のようになってきて、ちょっと怖い。

 キャラクターとか表現してるところなんかも狂気を感じる。それに、エドモンドはともかくとして、セレスがマリージェイに優しくするっていうのがどうもピンとこない。二人に面識があっただろうか。


「聖女を失った世界は崩壊していく。」


 すごい妄想だと思いつつも、この話の結末がどうなるか少しだけ気になっている自分がいる。


「殿下、聖女の力を失ったマリージェイ様はどうなるのですか?」


「マリージェイは…やがてマリージェイは闇に飲み込まれる。そうなったら最後だ。」


 闇とか…ちょっと痛いかも。


「でも、マリージェイ様が聖女の力を失ったのであれば、当然別の聖女を選出いたしますわよね?これまでもそうしてきたように。」


「マリージェイは自分が聖女でなくなることを恐れていた。もしばれたらみんなの優しさが聖女に対するものだと知ってしまうのが恐ろしかったんだ。生活するのもやっとな貧しい平民の生活に戻ることも嫌だった。」


 つまり、マリージェイは聖女の力を失ったことをひた隠しにするのか。良い結果が待っているとは言えない判断だな。でも、マリージェイが…その、闇に?飲み込まれるというのは少し突飛すぎる気がする。


「えっと、殿下。マリージェイ様が闇に飲み込まれるという設定は少し飛躍しすぎではないでしょうか?そもそも闇という存在が不明確すぎます。聖女の力を失われたマリージェイ様がどのように闇に飲み込まれてしまうのでしょうか?」


 私が質問すると、王子は目が見開き、私に迫ってきた。手を伸ばせば届く距離だ。


「すべての元凶はお前だ!お前がマリージェイに嫉妬したことから始まるんだ。お前は公爵家と王子の婚約者という地位を利用し、マリージェイを陥れる。最後には闇の者を国に手引きして国を滅ぼそうとするんだぞ!だからお前は……お前は悪役令嬢だ!」


 悪役令嬢って……何それ。


 妄想にしてもひどすぎではないだろうか。私が国を滅ぼすなんて、そんなことするわけがない。そもそも闇の者ってなんだ。物語も対して面白そうじゃないし、いつまでも妄想王子に付き合ってはいられない。


「殿下。いくら殿下が作られた物語だとしても、いくら殿下が私のことをお嫌いであったとしても、私のことを国を滅ぼす悪役令嬢だとおっしゃるなんてあんまりです。私とても傷つきました。」


「俺が作った物語?いや、これはこの世界のストーリーで……」


 私はさっと片手をあげて王子の発言を止める。公爵令嬢が王子に対する態度ではないが、今回はイレギュラーだろう。王子の態度はあんまりだ。


「殿下。私、失礼いたします。正直いまは殿下のお顔など見たくありませんもの。」 


 私はさっとお辞儀をして、王子の声を無視してテラスを出た。



 私が悪役令嬢?


 あまりにもひどい暴言だと思う。一国の王子がこんな妄想王子だとは思わなかった。





 私は一人憤慨しながらテラスを出たところで、父と母が一緒にいるところを見つけた。二人も私を見つけてにっこりと微笑んで、手招きしている。私はいら立つ気持ちを落ち着けて、ゆっくりと二人のもとに向かう。


「レティシア!社交界デビューおめでとう!」


「ありがとうございます。お父様。」


 私はにっこりと微笑む。


「レティシア。こちらはカールセン侯爵とご子息のミハイル様だ。」


 少しお年を召している白髪交じりの髭を生やした男性がカールセン侯爵。穏やかで優しそうな印象の方だ。その息子ミハイルも好青年な印象。


 私は二人と挨拶を交わす。


「ミハイル。レティシア嬢をダンスにお誘いしたらどうだ?よろしいでしょうか、シャンデール公爵。」


 カールセン侯爵がミハイルと父に声をかける。父はレティシアさえ良ければと私のほうを向いてにっこりと微笑む。


 私もこの好青年とダンスすることを嫌とは思わない。むしろ社交界デビューの日に誰ともダンスを踊らなかった令嬢と陰口を言われることがないように、誰でもいい…というのは相手に失礼だが、ダンスは踊っておきたいところだ。


「ミハイル様がお誘いくださるなら、喜んでお受けいたしますわ。」


 私はミハイルに向けて、「誘ってください。」という意味を込めてにっこりと微笑む。ミハイルもにっこりと微笑み返してくれた。


「レティシア様。私と踊っていただけますか?」


「喜んでお受けいたしますわ。」


 私とミハイルは次のワルツを踊った。

 ミハイルのリードはとても上手で踊りやすかった。ダンス中は聖女の試験を頑張ってください。とか、ミハイルの仕事は父親であるカールセン侯爵の補佐である。とか、たわいもない話をした。別段話が弾んだかと言われれば、そうではないが、沈黙とかはなく実に当たり障りのない会話だったと思う。


 ダンスが終わった後も、何人かにダンスに誘われて踊った。

 そこそこに疲れて、王子との会話を除けば実に楽しい社交界デビューの一日となった。


お前は悪役令嬢だ!


ようやくあらすじのところにたどり着きました。

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