大切なもの (京視点)
軽く叡智高校の校舎の構造についてご説明させて頂こうかと思います。
叡智高校には理系クラスと文系クラスの2クラスがありますが、理系と文系で教室棟が分かれています。
それぞれの棟は隣接していますが、棟が別なので理系と文系は基本的には関わりがありません。
棟にはそれぞれに職員室があり、理系棟の職員室には理系のクラスを担当する先生が、文系棟の職員室には文系のクラスを担当する先生がいます。
なお、理系用の国語の先生、文系用の国語の先生と、同じ科目でも、理系と文系で違う先生が担当することが多いです。
理系棟とは文字通り、理系クラスのある教室棟のことです
実験室なども完備されており、理系のための棟です。
文系棟も同様に、文系のための棟となっています。
事は昼休みに起きた
いつも通り、京は親友の優生と机を向かい合わせにして一緒にお昼を食べていたところ。
優生「なぁ、ニュース見たか?
今年のノーベル生理学・医学賞」
京「ん?いや、見てないな
俺あんまニュースとか見ないし…」
優生「なんだよ…今年の発見はすごいんだぞ?
体内の酸素濃度が低いときに細胞内で起きる現象を分子レベルで解明したらしい…!」
京「今年はすごいって、お前それ毎年言ってるだろ。
それに生物学の用語並べられても俺にはよく分からん」
優生「うーんそうだな、簡単に言うと、酸素が足りなくなった時に、どうやって体がそれを改善するのかを解明したんだ。
これを解明したことで、貧血を治す薬を作れるようになったり、ガンの治療なんかにも応用できるんだぜ?
すごいだろ」
京「どうしてお前が得意げなのかはよく分からんが、それは確かにすごい事だな」
優生「だろぉ?
あー、早く俺も博士号とって研究に打ち込みたいぜ…」
京「はは…気が早すぎるよ…
俺らまだ高2だぞ…」
気さくに話をする京と優生、この2人は中学からの同級生で、昔からよくお互いに自分の好きなものを語り合っていた。
優生が生物学の話をよくするので、それを聞いている京は生物学に関してもそれなりの知識は身についている。
優生「あ、そういえば京、お前って放課後の特別授業?だっけか、受けてるんだろ?」
京「ブハッッ」
優生の口から予想外のワードが飛び出したので、京は思わず口に含んでいたお茶を吹き出した
優生「アッハッハッw
どんだけ驚いてるんだよw」
京「ゲホッゲホッ…
どうしてそのことを知ってるんだ…」
優生「いや、うちの親父がここの校長と仲良いからさ。
そういう情報ってわりと入ってくるんだよね」
実は京は、放課後に特別授業を受けていることを家族以外には秘密にしていた。
理由は1つ
京 (ど、どうしよう…まだあの事はバレてないよな…?
とりあえずここは上手くごまかそう…)
そう、放課後に "女の子と2人っきりで" 授業を受けているなんて知られれば、噂になるに決まっている…
からではない。
京はそういった恋愛関連の事にはとことん疎いため、そこまで頭が回らないのだ。
ではなぜ秘密にする必要があるのか。
それはもちろん…
京 (どうしよう…放課後授業のサンプル学生に選ばれた理由が、"国語の成績が悪すぎるから"
だなんて知られたら…恥ずかしすぎる…!!)
実のところ、京は読書を比較的好んでおり、小説などはよく読むのだ。
そのわりに国語の成績が悪いことが本人的にすごく恥ずかしいらしい。
だからこそ、今回の件も知られたくなかったというわけだ。
ちなみに京本人は隠し通せていると思っているが、京の国語の成績が悪いことは周知の事実である。
優生「リベラルアーツ?だっけ、文系の授業も受けてるんだろ?
大変だよなぁ」
京「そ、そうなんだよ…ハハハ…」
優生「で、今日はなんの授業なんだ?」
京「今日は確か古文だったかな…」
ガラガラガラ
噂をすれば、と言ったところか
教室の扉が開く。
京と優生が何気なくそちらへ目を向けると、そこには今にも倒れそうな、マスクをした若い女性の先生が立っていた。
先生「ゲホッゲホッ……」
優生「大丈夫かあの人…
たしか文系の古文を担当してる先生だよな…
めっちゃ体調悪そうだけど…」
京「やばそうだな…」
偶然にも扉の近くに座っていた京と優生は、すぐに立ち上がって、先生の元へと駆け寄る
京「だ、大丈夫ですか?
保健室行きますか?」
優生「症状からして喉風邪っぽいけど、一回ちゃんと診てもらった方が良さそうだな」
先生「いえ…大丈夫よ…ゲホッゲホッ…ありがとう…
それより、桃李 京くんはいるかしら…?」
京「え、桃李 京なら僕ですけど…」
先生「あら、それはちょうど良かった…
実は、この通り風邪をひいてしまって…ゲホッゲホッ…
理系の古文を担当されている先生に代理をお願いしようと思ったのですが、どうやら放課後に出張があるらしく出来ないそうで…
止むを得ず、今日の放課後の授業は中止にしようかと思いまして…
ちょうどその件で理系棟に来ていたので桃李君に報告をと…」
京「そ、そうだったんですか、分かりました、ありがとうございます。」
優生「早めに医者の方に診てもらってくださいね…
無理は禁物ですから…」
先生「えぇ、ありがとう…
文乃さんにもこのことをお伝えしたら帰ろうかと…」
京「そんな状態では…
あっ、そうだ、僕が代わりに小森さんに伝えておきますよ
どうせ放課後に特別授業の教室に来ると思うので、その時伝えます」
先生「あら、本当…?
それは本当に助かるわ…ではお願いしようかしら…」
京「はい!」
---------------------数十分後-----------------------
京 (そろそろ5時間目の授業が始まるな…この問題をもう少し進めたかったけど、一旦ここで中断するか…
あ、そういえば今日は6時間目まであるんだっけ…くうぅ…早く帰って問題の続きがしたい…
いいよなぁ、文特は、今日は5時間授業らしいし…俺も今日だけ文特になり……ん?
待てよ?今日文特は5時間授業で、1時間早く終わる…
んで、俺らは5〜6時間目が実験の授業だから5時間目と6時間目の間には小森に放課後の授業が中止だってことを伝えに行く時間はない……だから……)
京 (.............)
京 (伝えに行けるの今の時間しか無いんじゃないか?!
このままだとあいつが放課後に待ちぼうけを食らう羽目になっちゃうよな… )
京はハッと時計に目をやる
京 (授業開始まであと3分…… )
京はガタッと勢いよく立ち上がると、すぐさま教室を飛び出した
向かうはもちろん、文系クラスの教室である。
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ダッダッダッダッ
文系棟の廊下を息を切らしながら走る京
あまり運動は得意ではないが、授業開始まで時間がない、精一杯急いで教室へ向かう。
京は2年文系クラスの教室の前で急停止すると、扉を勢いよく開けた。
京「はぁ…はぁ…こ…小森…!」
京が教室に入って真っ先に目に飛び込んできたものは、何故か怯えた表情で床にペタンと座り込む文乃の姿であった。
文乃「…だ…だれ……」
京は前髪が少し長めであるため、俯くとあまり顔が見えない。
今は先程までの全力疾走により、顔を下に向けて、手を両膝に置き、大きく肩で息をしているため、文乃からは京の顔が見えないのだ。
京「はぁはぁ……誰って…京だ…桃李 京…!」
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京が放課後の授業が中止になったことを説明をし終えると、文乃は素っ気なくこう言う。
文乃「……それはどうも。じゃあ私、移動教室だから。」
京「え、あ、あぁ…」
京は、あまりにも素っ気ない対応に驚きつつも、こういった所が小森らしいな、と思った。
京 (というかあいつ、何にあんなに驚いてたんだろう…)
ふと、小森が先程まで居た教室に目をやる
京 ( ん…?)
何か落ちている。
近づいてみると、それは一冊の本だった。
随分と使い古されたブックカバーがしてあるが、落とした拍子に外れてしまったのだろう、ちょうど本の表紙が見える状態になっていた。
京 (これって、昨日あいつが読んでた本だよな…)
本を拾い上げる京
京「この本って…」
次回からは過去編をお送りする予定です。
過去編 + 2〜4話で、一応出会い編が終わる予定です。
p.s.
ちょこちょこ過去に投稿したものを修正しています。読みやすくしたり、より簡潔な表現に変えたりしています。
より読者様を惹きつけられるような文章を目指している段階です…
まだまだ未熟な自分ですが、これからもよろしくお願いします。