再会は放課後に (京視点)
長かった実験も終わり、京や他のクラスメイトたちは教室へと戻ってきた。
京は実験中、本のことや文乃のことが気がかりで心ここに在らずといった感じであった。
優生「おい、京。
しっかりしろ、明日返しに行けばいいだろ?
ちゃんと謝れば許してくれるって。」
京「あぁ、わかってるけど…」
教師「よし、全員集まったな、じゃあ帰りのHR始めるぞー」
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キーンコーンカーンコーン
下校の鐘だ。
優生「おーい、京
一緒に帰ろうぜ……って、まだ落ち込んでるのか?」
京「いや…うん…」
京 (この本、本当に大切に扱われてる…
もう20年以上前の本なのに、こんなに綺麗に…
小森が昔会った”あの子”なのかは分からないけど
この本は小森にとっても大切なもののはずだ。)
優生「明日返すしかないだろ?
あ、そうだ、俺図書室で借りたい本があるんだ。
少し図書室寄ってから帰ろうぜ。」
京「……」
京は少し考えた後、立ち上がってからこう言った
京「わるい、優生。
すまんが先に図書室に行っててくれ。」
優生「え、どこ行く気だ…?」
と優生が聞く間も無く、京はカバンを持って教室を出ていってしまった。
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俺が向かった先は、文系の教室棟だった。
十中八九、小森はもう帰ってしまっているだろう。
そんなことは分かっていた。
それでも、どうしても小森がまだこの本を探しているような、そんな気がした。
気がつくと俺は、2年文系クラスの教室の前にいた。
息を飲み、教室の扉に手をかける。
ガラガラガラ
昼休みに来た時とは違い、俺はゆっくりと、落ち着いて扉を開けた。
放課後の教室に、俺のいる扉の方から夕日が差し込み、机や黒板を夕焼け色に染める。
午前中の教室の騒がしさが嘘のように、教室はひっそりとしていた。
京「いるわけ…ないよな…」
誰もいない教室に向かって、ボソッと呟いて、俺は扉にもう一度手をかけた。
ちょうどそのときだ
「何をしているの?」
突然、斜め横から声がした。
俺が驚いて振り返ると、そこにはカバンを肩にかけ、こちらを睨んでいる小森の姿があった。
目が若干潤んでいるように見える。
京「そっちこそ…どうして…」
理由は大体わかっていた。だがこの時の俺は動揺していて
思わずその理由を聞いてしまったんだ。
文乃「別に、探し物をしていただけよ。」
理由は思った通りだった。
と同時に、本当に悪いことをしてしまったという罪悪感が押し寄せてきて
俺はすぐにあの本を取り出して、小森に差し出した。
京「本当にすまん!小森!
これ、あの後にこの教室で拾って…そしたら始業のチャイムが鳴って…
急いで戻るときに、間違えて持っていちゃったんだ…」
俺は深々と頭を下げた。
そんな謝る俺に対して小森は、責めるでもなく、怒るでもなく
静かに本を受け取って、そのままその本を抱きしめた。
少し間をあけてから、小森は顔を上げ、俺に向かっていつもの冷淡な口調で返す
文乃「もういいの、見つかったから。」
そう言った小森の目には大粒の涙が浮かんでいた。
安心からの涙だろうか。
そんな泣き出しそうな小森を見て俺は思わず声をかける。
京「本当に…大丈夫だったか…?」
あぁ、そういえば
こんな光景、前も見た気がする。
そう、あれは雨の日のことだった。
赤い傘をさした”あの子”も、ちょうどこんな風に、目に大粒の涙を浮かべていた。
手にはちょうど今、小森が持っているのと同じ本を抱えていて…
文乃「何よ、何か言いたげね…」
小森が涙の浮かんだ瞳で俺を睨んでくる。
京「え、いや…今にも泣き出しそうだから…」
俺がおずおずとそう答えると、小森の頬が少し赤みを帯びる。
文乃「う、うるさいわね!
ほっといてよ…//////」
そう言って、小森は制服の袖で涙を拭う。
そういえばあの子もちょうど、そんなふうに涙を拭いながら歩いていた。
京「その本、今でも大切にしてたんだな。」
自分でも驚いた。
ポロッと、思ったことが口から出てしまったのだ。
京「あ、いや、今のは間違いで…
昔会った子に、その本が好きな子がいてさ!
その子と小森が似ていたから、それで思わず…」
突然変なことを言ってしまったため、俺は慌てて状況を説明し始めるが、俺が説明をし終える前に小森はクルッと後ろを向いてしまった。
あ、完全に変な奴って思われた…
と落ち込んだのも束の間、小森が口を開く
文乃「そ、そんな子知るわけないでしょ…?!
勘違いも程々にして頂きたいわね。」
そう言った小森は、後ろを向いていて顔こそ見えないものの
耳まで真っ赤に染まっていた。
あ、れ、、、?
京「もしかして…」
文乃「………///////」
京「やっぱりか…」
文乃「ち、違うってば…!」
京「あはは…」
俺は、そんな見え見えの嘘をつく小森の姿を見て
そして、今でも本を好きでいる”あの子”の姿を見ることができて、どこか安心したんだ。
あの子はあの日からずっと、本を好きなままでいたんだと。
昔のあの子は、好きでいることに怯えていた。
本を好きで居続けることに、悩んでいた。
そんなふうに見えた。
でも今の小森からは、そんな不安は感じられない。
そうか、好きなものに正直でいられるようになったんだな。
そんな成長した彼女にかける言葉は、もう決まっている。
「やっぱり、お前は嘘が下手だなぁ…」
俺は笑ってそう言った。
5月23日
よく晴れた日のことだった。




