始業のチャイム
京 (この本って…あの時の子が持ってた本と同じだよな…)
京は静かに本を見つめる
京 (……)
そんな時間も束の間。
静寂を破るように、始業のチャイムが鳴り響く。
キーンコーンカーンコーン
京「やばい…!ダッシュで帰らないと…!!」
京は再び走り出した。
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教師「えー、今回は
5〜6時間目を合わせて実験を行う。
じゃあさっそく、配ったプリントを見てくれ。
今回の実験は、衣服などを染色する染料の1つ、アゾ染料であるp−ヒドロキシアゾベンゼンの合成実験を行う。」
生徒A「どうして文特は5時間授業なのに、俺たちだけ6時間なんだ…」
生徒B「しょうがないさ、今日は実験だから…」
授業が着々と進む教室。
そんな最中
ガラガラガラ!
教室の扉が勢いよく開く
どこかで見た光景だが…
息を切らした京が教室に入ってくる。
授業はすでに始まっている。
京は怒られることを覚悟した。
京「すみません…はぁ、はぁ…
遅くなりました…」
が、意外にも教師からかけられたのは優しい言葉だった。
教師「ああ、京か。
優生から事情は聞いているよ。
ご苦労様、席に着いていいぞ。」
そう、教室から飛び出していく京を見た優生が事情を察して、教師に伝えておいてくれたのだった。
京「優生…ありがとう… (泣)」
京は自分の席に着きながら、前の席に座っている優生にお礼を言う。
優生「いや、そんな大したことしてないって
先生に事情を話しただけさ。
なぁそれよりさ…」
京「……?」
優生「その手に持ってる本なんだ?
行く時そんな本持ってなかったろ。」
京が自分の手の方へ目をやる
そこには、見覚えのある本がしっかりと握られていた。
京「あ…」
教室に向かうのに必死で気が付かなかった。
あの教室で拾った本を、うっかり持ってきてしまったのだ。
京 (しまった…俺たちは今日5〜6時間目が実験だから、返しに行けるのは放課後だ…
文特は今日5時間授業だし…どうする…
いやどうしようもないよな…)
京が頭を抱える様子を見て優生が察したのか、少しからかうような口調で言う
優生「お前って、1つのことに集中すると他のことに意識いかなくなるタイプだよな」
京「………ぐうの音も出ない…」
教師「よし、じゃあ実験室に移動するぞー
自分の服をアゾ染料で染めたいやつ以外は白衣着てこいよー」
京は仕方なしに、持ってきてしまった本を机の上に置き、おずおずと実験室へと向かうのだった。




