表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫の島  作者: ユキネコ
4/5

4話「ユキ」

皆の食事担当は私の仕事。


 なんてーか、誰も料理やったことないらしい。だからって私に全部任せるって、ひどいと思いませんか?


 まぁ別に気に入ってるからいいんですけど。萌えポイント上がるし。


 けど私が今直面している問題はそんなことではなく。


 「はぁ…。」


 ……サヤさんが溜息吐きながら私の料理を地面に捨ててるわけなのです。


 何コレ?これが噂の嫁いびり?


 あらユキさん?これが昼食でしたの?てっきり私、肥料かと思って床に蒔いてしまいましたわ。おほほほほ。


 …そして健気に作り直す私。サヤさんは一口食べるが、まずいと言って流しに私の料理を捨てていく。


 ……面白い。


 あ、でも止めなきゃ。私の分少なくなるのは嫌だし。多分普通に気付いてないだけなんだろうし。


 こほん。


 「サヤさんサヤさん。料理豪快に落としまくってます。それはもう、気持ちいいくらいに。」


 「…ふぇ、あ、あぁぁー!!」


 やはり気付いてない。恐るべき天然。私もうかうかしてられない。このままではキャラが被ってしまう。


 「ど、どどど、どーしよどーしよ!?あ、あわわわ…。」


 「サヤさんとりあえず落ち着いて。あんまり焦るとまた…」


 口では止めつつも私はある種の期待をしていた。そして、私の期待通り、


 「うーあぁぁぁぁ…。」


 ぱりん。べしゃ。


 「…………。」


 ブラボー。見てて惚れ惚れします。さすがドジっ娘クイーン。


 「……えっと、とりあえず起きたらどうです?」


 「……うん。」


 声を掛けるとサヤさんはゆっくり立ちあがった。


 「とりあえずここは私が片付けときますんで、サヤさんはテーブルでも拭いてきて下さい。」


 「…わかった。ユキちゃん、ごめんね?」


 サヤさんが離れていき、残された私と散乱した料理。


 ……さっきの想像じゃないけど埋めて肥料にでもしよう。


 とりあえずスコップを持ってきて穴を掘る。そして、その中に料理を埋めていく。


 うん、我ながら完璧。後は…少なくなった料理の補充ですかね?


 そんなこと思いながらも、私は作品の都合上仕方なく過去に思いを馳せるのでした、まる。


                                         φ



 「できれば、見逃してくれないかな?」


 「お断りします。一応こっちも仕事なんで。」


 シュウさんと最初に出会ったのは、施設からさほど離れていない廃ビルでした。


 逃亡した能力者を見つけ出し、可能ならば捕獲せよ。殺してもかまわない、という任務を受け、私達諜報部隊は駆り出された。


 ほどなくして私達のグループは彼を見つけ出したが、彼の実力に一人、また一人と倒れていき、残すは私一人。彼をこの廃ビルへと追い込んだ。


 「君のことは知ってる。確か施設の歴史上最高の狙撃手だってね。能力は、超遠距離まで見渡すことが出来る、だったかな?」


 「……エスパー?」


 「いや、ある意味僕も君もエスパーなのかもしれないけど。」


 「…………はっ!」


 「いや、別に僕のは心を読む能力とかじゃないから。」

 

 「…安心しました。」


 「それで話を戻すけど。見逃してくれないかな?いくら優秀なスナイパーでも、近接戦闘では僕が上だと思うよ?」


 「確かに好きなのは遠距離戦ですが、近距離戦も苦手というわけではないのでご心配なく。それと、黙って見逃すと私が怒られるんで嫌です。ということで、大人しく神妙にお縄についてください。」


 「……ごめん、それは出来ない。悪いけど、力づくでも退いてもらう。」


 「女の子に手をあげるなんて鬼畜ですね。」


 「う、そう来たか。…あー、ごめんね?でも、どうしてもやりたいことが出来たんだ。」


 そう言い、彼と私は5Mほど距離を取って対峙する。


 「……じゃ行きます。」


 私は彼に向かって疾走。そして前蹴りのモーション。と、同時に彼の左方向に向かってナイフを投げる。


 「…クッ!!」


 彼が避けようとした方向に投げた私のナイフが肩を掠める。間髪入れず私は思いっきり身体をひねり、走る勢いそのまま前蹴りを無理矢理回し蹴りに変化させて繰り出した。


 「!!!」


 彼のガードが間に合い、私の攻撃が防がれる。その私の背中に向かって、彼の右足が飛んできた。


 私は攻撃の進行方向に跳躍し攻撃を紙一重でかわす。


 そしてまた距離を取って膠着状態に戻った。彼の肩にはさっきのナイフのせいで衣服が少し破けて血が出ている。


 「……凄い。まさか僕の逃げる方向をあらかじめ予測してナイフを投げるなんてね。天才、か…。」


 「一応近接でもそれなりに応用は効くんです。まぁ、それでも動かないでいい分遠距離の方がやっぱり楽ですが。ちなみに、初めてナイフかわされました。そちらも凄い反射神経ですね。」


 私は素直に称賛した。が、それでも今の一合でまだ私に分があると見た。


 「はは。参ったな…。このままだと厳しそうだ。」


 「おとなしく捕まる気になりましたか?」


 「いや、捕まる気はないよ。本気でいかないとまずいかなーって、考えてるだけ。」


 「……女の子相手に本気を出すなんて…」


 「いや、それはもういいから。」


 「そうですか。」


 と、口では平静を装っていた私ですが、その実結構動揺してたりしてました。正直今の連続攻撃で確実に仕留められると思ってましたから。まぁしょうがないといえばしょうがないですね。上には上、ということで。


 「んー最近は割と融通が聞くんだけどなぁ…たまに暴走しちゃうしなぁ…。」


 「……考えてるとこすみませんが、そろそろやっちゃっていいですか?」


 「んー…もうちょい待って。あと十秒ほど。」


 「はい。十、九、二、一、零。それじゃ行きます。」


 私は躊躇無く疾走した。


 「ちょ、ちょっとそれは無し!ああもう、しょうがない!」


 そして、私が左手に持ったナイフを彼の胸に突き刺そうとした瞬間。彼の口が小さく動き


 -------Access.




 ……数瞬の後、私は地面にうつ伏せに転がっていました。それはもう無様に。


 「……ふぅ。ごめん。生きてるよね?」


 上の方から声が掛かる。


 「……返事が無い。ただの屍のようだ。」


 「いや、返事してるし。」


 「何したか聞いてもいいですか?」


 「んー内緒。まぁぼくの能力の一つってことで。それで…まだやる?」


 「………遠慮しときます。何か惨めなんで。」


 私は彼との力の差をひしひしと感じていた。またやっても結果が同じだと一瞬で悟りました。人間、諦めが肝心です。


 「ありがと。君も落ち込むことは無いよ。元々近距離で戦うタイプじゃないはずなのに、こんなに強いとは思わなかった。正直、君が僕を本気で殺すつもりで来られてたら、負けてたのは僕の方かもしれない。」


 …………そこまでお見通しですか。


 「……フォローどもです。微妙に気持ちが楽になったりならなかったり。」


 そう言い私は身体を捻って仰向けになった。


 「あーもう完全に負けちゃいました。あとは殺すなり犯すなり辱めるなり、ご自由にどーぞ。」


 「……普通そこは煮るなり焼くなりじゃない?」


 「実際煮たり焼いたりする人は居ないんじゃないんですか?そういった人ってその後食べるんですかね?」


 「そう言われればそうだね。えーと、それじゃ僕の好きにしていいのかな?」


 「はい。初めてなので、優しくお願いします。ぽっ。」


 「いや、多分君が考えてるようなことじゃないから。んー。そうだな…。」


 私は彼が言い出すのを黙って待つ。敗者は勝者に従う。それがルール。死ねと言われれば死ぬ覚悟は出来ていた。


 「……うん、決めた。君も、僕と一緒に逃げよう。」


 「……はぁ?」


 「君なんか面白いし。頼りにもなるし。一緒に来てくれたらもっと楽しそうだから。いい?」


 「…えっと、それは施設を裏切ってあなたの妾になれ、ということですか?」


 「……妾じゃない。仲間。それに命令じゃなく、ただ友達になってくれれば良いなって。どう?」


 「仲間……。」


 「そ、仲間。」


 「……私に反対する権利は無いですが、いいんですか?」


 「もう決めたからね。どうしても嫌ならこのまま施設に帰っても良いけど。多分こっちの方が楽しいよ?…いつか心から笑える日が来ると思う。」


 「……逃げ切れると本気で思ってるのですか?」


 無理だ。どう考えても逃げ切れるとは思えない。彼だってそれくらい分かっているはずだ。…しかし…


 「……わかりました。それならばこれからあなたと愛の逃避行と洒落込みます。」


 「うん、これからよろしく。えーと…改めて、僕はシュウって呼ばれてる。」


 「よろしくお願いします。私は先の副将軍…」


 「ユキ、だったよね?確か前に名簿で見た。」


 「……ボケまで殺された…。」


 そうして、私は仰向けになったまま彼の差し出した手を取る。


 その顔はとても穏やかな笑みを浮かべていて、私はなんとなく、この人に最後まで付いていこうと、


 そう、誓った。


                                            φ



 「……とまぁ、こんなとこですかね。」


 独り言を呟きながらもきっちりと料理完成。さすが私。


 さて、サヤさんの様子でも見に行こう。


 私はテーブルのある方へと向かった。そこには、


 「……はぁ…。」


 時々溜息を吐きながらもひたすらテーブルを磨きつづけるサヤさんの姿が。


 …………。


 「………フゥ…。」


 ………いつまで磨き続けるんだろう。ほっとけばずっと磨き続けるんじゃないだろうか。


 どうしよう。このままずっと彼女が気付くまで見ていたい…。


 ……でも、


 「サヤさんサヤさん?聞こえてますか?おーい。サヤさーん?」


 「……ん、んぇ?」


 「いつまでテーブル拭き続けるんですか?空が反射して見えるまでですか?」


 「あ、あぁ!あたし、またボーッとして…。」


 私は声を掛けた。ほっとくと、サヤさんがまた落ち込んでしまいそうなので。


 「……テーブル磨きに精を出すのも良いですが、そろそろ料理を運んでくれると私としては超ハッピー。」


 「あぅ。ごめんよぉ。今すぐやります。いや、やらせてください。」


 サヤさんはとぼとぼと戻ろうとする。


 私はその背中に無意識に声を掛けていた。


 「んい?」


 サヤさんが振り向く。その顔は申し訳なさそうな、暗い表情だった。


 ……そんな顔、見たくないです。サヤさんにはずっと笑っていて欲しい。


 だから私は、言葉を紡ぐ。願わくば、彼女の笑顔を取り戻せればと。


 「……サヤさんは、めちゃめちゃ面白いです。見ていてホント飽きません。」


 「……あたし、今バカにされてる?」


 「いえ、そんな気はちょっとしかありませんよ?」


 「ちょっとはあるんだ…。」


 むぅ、ちょっと失言だった。自分の口下手を呪う。でも、サヤさんに笑顔を取り戻して欲しくて、再度チャレンジ。


 「えーと、そんなこと言いたい訳じゃなくてですね…。私はいつも、サヤさんの明るさに何度も助けられてるんです。」


 「助ける?あたしが?」


 そう、何度も助けられた。

 

 ”笑う”というものを知らなかった私にとって、サヤさんの笑顔の何と眩しいことか。その笑顔を見ただけで、私の不安なんかはあっという間に消されてしまった。


 その他にも、色々面白い行動を取ってくれたり、一緒にカズっちの悪口を言い合ったり…全てが私にとって新鮮で、そして、楽しかった。


 「えぇ、それはもう、一人暮らしにとっての夜の半額シール並に。」


 「ごめん、その例えはいまいちよくわからない。」


 それは残念。私も実際行ったことはないですけどね。

 

 「サヤさんはよくやってくれています。私には無いものをサヤさんは持っています。ホント仲良くなれて超ラッキーって思ってます。ですから…。」


 なるべく慎重に言葉を選ぶ。そして、自然に浮かんだ『笑み』と共に、私は言った。

 

 「何も、心配するようなことなんてないんですよ?」


 「…………。」


 あれ、ノーリアクション?私、もしかしてまた変なこと言った?


 「……えー、と…サヤ、さん?」


 「……ゅ……ゅ…。」


 ゆ?湯?You?私に風呂に入れと?サヤさんすいません今回はいつも以上にわかりません。


 「ユキぢゃぁぁぁぁぁん!」


 「うぐはぁ!」


 突如サヤさんが体当たりを敢行。鳩尾にクリーンヒット。苦しみながらも私はナイスタックル、と言い掛け、


 「……うっわ。もしかして泣いてます?」


 サヤさんがめっさ泣いていた。……何で?


 やばい。私的に超やばい。まったくどーしたらいいか分かりません助けてくださいシュウ先生。


 悩んでいるうちにサヤさんの方から口を開いた。


 「ひっく、えっ、うぇっ。あた、あたし、邪魔じゃない?足手まといじゃない…?」


 落ちつけ私。頑張れ私。ここで上手いこと言えばサヤさんが泣き止むはずだ。


 と、とりあえず、できるだけ自分で思う優しい笑顔を浮かべてみる。……たぶんさっきよりもぎこちなく。


 そして、極力変なことを言わないように意識して、そしてかつ素直に私は返事をする。


 「誰も邪魔だなんて思ってませんよ。というか、私的にはむしろ居て欲しいというか、いないと困るというか……。」


 「う、うあぁぁぁぁぁぁぁん!」


 ……私も泣きたい。何で悪化するんですか。コレどーすりゃいいんですか?詰みゲーですか?


 マジ頼むんで分かる方、誰か教えてください。



 

 そんなこんなで、もう下手なこと言わずとりあえず泣き止むまで待ってみました。


 「もう、大丈夫ですか?」


 「う、うん。ありがとユキちゃん。」


 「まー私は別にいいですが。ただ…料理、冷めましたね。」


 「う、うぅ。すまんです。」


 「いえ、珍しいもの見れて良かったです。私料理温めなおしますんで、サヤさんは顔でも洗ってきてください。」


 「うん、ありがと。」


 そう言ってサヤさんは去っていった。


 …………正直、疲れました。つーか、サヤさんが何で泣いたのか未だに分かってなかったり。


 まーどうせくだらないことでしょう。例えば、私って居ても意味無い?とか。


 とにかく、元気になって良かったです。




 …シュウさん。正直あまり期待していませんでした。


 私はあの時は既に楽しいことなんて諦めてました。ましてや笑うなんて考えもしなかった。


 だからこそあの時、同じような境遇なのに楽しそうに笑うあなたが羨ましくて、憧れ、あなたを殺したくはなかった。


 どうせどちらかが死ぬなら、それは私の方がいいと。


 でも、私はあなたに誘われてからの毎日がすごく楽しいです。


 あなたが誘ってくれなければ、私はいずれどこかで一度も笑うことなく死んでいたでしょう。


 とても感謝です。抱かれてもいいです。むしろ抱いて。


 ですから……あなたがあることを隠しているのを私は知ってます。


 幸いサヤさんは気付いていないみたいですが、他の皆さんも何となく気付いてる節があります。


 ……………シュウさん。いつか、あなたの口から聞かせてもらうまで、その事については触れないでいようと思います。


 ですから…………あーいや、やっぱいいです。


 あなたの思う通りに生きてください。私はそれに従うと決めたのですから。








 ………でもサヤさんはあげませんよ?あの子は私の嫁にする予定ですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ