最近の子供たち
最近の子供たちはみな、眼鏡を掛けている。
現在時刻17時30分。夕暮れの公園。二脚あるうちの鳥の糞が付いていない方のベンチに、私はいつも座る。そして、公園で遊ぶ不思議な彼らを観察するのが私の日課だ。彼らは私のことなどまるで見えていないかのように遊び続けている。この観察を始めてから数週間になるが、彼らのスタンスは一定である。
思えば、数週間前の最初の観察時点では彼らが何をしているのか、私には全く分からなかった。というのも彼らは何もないところで急に手をばたばたさせたり苦しんで倒れたりする。そして急に立ち上がり、奇妙なポーズをして、雄たけびを上げるのだ。眼鏡を光らせながら。
かじかんだ手でコンビニ袋から缶コーヒーを取り出すと、私もようやく眼鏡をかけた。突然、辺りが夜のように暗くなる。目の前に巨大な竜巻が発生したかのような轟音が響く。雷鳴が轟く。視界が真っ白になって何も見えなくなる。
気が付くと、向こうにいた二人の子供の内の一人が、黒焦げになって地面に倒れているのが見えた。彼の周辺にあったはずの緑や遊具は焼け落ち、地面は溶けて、陽炎までできている。どうやら目の前でポーズを決めていた少年の腕から、熱を持つ光線が発射されたようだった。目の前の少年は、自身の発した光で残りの一人を見失ってしまったらしく辺りを見回している。
刹那、私の背後から物音がした。枝を踏み、葉が擦れる音。生き延びた少女が、ベンチ裏の草陰から飛び出したのだ。虚を突かれた少年は慌てて両手の指から細い光線を撃つが、少女は突進しながら、その光線を全て剣で弾いた。そのまま切りかかる少女、死に物狂いで躱す少年。意を決した少女が剣を突き立て、少年の懐に飛び込む。少年は慌てたような顔をしている。しかし次の瞬間、全ては少年の演技だったことが分かった。慌てふためいたように見えたその口から、少女の上半身目掛けて光線が発射されたのだ。再び鋭い轟音と閃光。少女は後ろへ避け飛んだが間に合わず、上半身が吹き飛んだようだ。
辺りを覆いつくすような黒煙と舞い上がる火の粉の中、下半身のみになった少女のもとへ、高笑いをする少年が歩を進める。すると、少年の後ろ手から破裂音が響いた。乾いた金属の音。すかさず少年が咆哮をあげる。掻き消える黒煙。目を凝らすと、トイレ横のゴミ箱の影から最後の一人の少年が鋭い目をして銃を構えているのが見えた。吠えながらゴミ箱に向かって光線を放つ少年。自身の熱で腕が焼け焦げている。雷鳴のような閃光。轟音。そしてそれを突き刺すほどの銃声。
狙撃手の放った弾丸は、光線を突き破り、一直線に対象を貫いた。少年の後ろで、青色の粒子のように爆発するジョージアのコーヒー缶。粉々になったコーヒー缶を見て、咆哮とともに灼熱の火炎に包まれる少年。
今回の戦闘は、あの狙撃手の少年の勝利だった。上半身が吹き飛ばされた少女と、陽炎の中黒焦げになっていた少年に、天から優しい光が降り注ぐ。神の息吹によって蘇生した彼らは、歓声をあげながら狙撃手の元に駆けよった。少しして、荘厳な音楽とともに黄昏の空中に白色の文字が現れていった。
>おめでとう!君たちは悪の怪物を倒すことに成功した!
>コンティニュー?
闘いの終わりを告げる表示を見た彼らは、私の傍で燃えている少年に声を掛ける。すると、彼の炎が瞬く間に消え去った。少年はそのまま立ち上がり、彼らに合流する。現在時刻18時00分。彼らが帰る時間である。
>GAME OVER.
彼らは眼鏡を外し、自転車に乗って帰っていった。彼らを目線で見送ると私も眼鏡を外した。地面に置かれたままの汚れたコーヒー缶を手に取り、手元のコンビニ袋に入れる。既に冷え切っているジョージアを飲み干す。私は立ち上がって、狙撃手の少年が隠れていたゴミ箱に、呑み終えたコーヒー缶を入れた。
そしていつものように、コンビニ袋を片手にぶら下げて、私は帰途についた。