72.宿での話し合い
「……それで、お前の目的っていうのは?」
「それは勿論魔王の討伐ですっ!」
両手を胸の前でグッと握る魔導人形。足がつかない椅子に座って両足をぷらんぷらんとさせているため、その姿は愛らしくも見える。
……しかし、目的はやっぱり魔王の討伐か。って事はこの魔導人形はまたセシリアを狙うって事か。
「私が造られた目的は魔王を倒すためにマスターとなり得る人と契約をし力を溜めて、魔王が現れるとマスターと共に魔王に立ち向かう事です。前にお話しましたが、魔王が7体集まると魔神が復活してしまいます。魔神が復活してしまえばこの世界は終わりです。そうなる前に止めるためにも魔王の討伐は必ず行わなくてはいけないのですっ!!」
力強く話す魔導人形に反して、俺は渋い顔をしていただろう。魔導人形の話す内容はセシリアの屋敷にこの子が襲撃した時と同じ内容だった。雰囲気が変わっても彼女の目的は魔王を倒す事。それは魔王因子とやらを持つセシリアを殺す事と同義になる。
……しかし、本当にわからないな。国を出てから何度も考えたけど、彼女は婚約破棄後に領地に戻ったが、魔王の軍勢に攻め込まれて亡くなったはず。しかも、物語の中で一度も魔王因子なんてものは出てこなかった。
……何かゲームの中で見落としていたシナリオでもあったのだろうか? 俺が1人で悩んでいたが、魔導人形の話は続いていた。
「マスターに起こしていただきましたあの夜、魔王因子を持つ者を倒そうとして、マスターに倒されてしまった事で、本来あの状態でもマスターから魔力を頂かないといけない状況だったのに、かなり消費してしまったため、苦渋の決断ですが、倒すのを後回しにしてマスターの後を追ったというわけです」
それで、最初の話に戻るってわけだな。マスターになった俺の近くにいる方が魔力の回復が早いのだろう。そして、魔力が戻り元の姿に戻ったらまた……。
「なあ、契約を解除する事は出来ないのか?」
セシリアの事を考えながら思わず呟いてしまった言葉。ハッとして顔を上げた時には既に遅かった。俺の顔を見て固まる魔導人形の姿。次第に彼女の目にみるみるうちに溜まっていく涙。そして次の瞬間
「うわぁぁぁぁんっっっ!!! ど、どうじでそんなびどいごどぉぉぉぉぉっっっ!!!」
大声を出して泣き出してしまったのだ。それも、宿中に響く声で。当然他の客に聞こえているのなら
「な、なんだ、どうしたんだジーク!?」
「どうしたのよっ!?」
と、仲間であるダレンとセイレンが部屋に入ってきたのだ。そして、泣き喚く魔導人形を見たダレンは固まり、セイレンは
「……最低」
と、呟くのだった。
◇◇◇
「……魔導人形ねぇ」
セイレンの胸の中で眠る魔導人形を見ながらダレンはポツリと呟く。セイレンは泣く魔導人形をあやしてくれて、魔導人形も落ち着いたのかそのまま眠ってしまったのだ。
その後に、魔導人形の事について話をしたのだ。彼女の事を話すのに魔王の話を欠かす事が出来ないのでその話も含めて。ただ、俺が王子だった事やセシリアの事は話していない。
魔導人形の話では魔王になり得る存在という事だったが、俺は信じていないし、彼らに話す必要は無いと思ったからだ。その話をしなくても、説明は出来たしな。
「……それじゃああの帝都にいる魔導人形も同じ目的が……」
「ダレン?」
俺の話を聞き終えたダレンは顎に手をやり1人でぶつぶつと考え始めた。邪魔するのも悪いと思ったけど、話を進めるために名前を呼ぶと、苦笑いしながら反応してくれる。
「でも、凄いわねジークは。だってこの子を起こしたって事は魔導書を読む事が出来たんでしょ? 国の宮廷魔法師でも読む事が出来ないのが殆どなのに」
事情を聞く前は俺の事を蔑んだ目で見ていたセイレンだが、事情を聞いてからは魔導書を読める事に気が付いて褒めてくれた。でも、宮廷魔法師でも読む事が出来ないってどうして知っているんだ? もう隠す気が無いとか?
……まあ、気付かなかったフリをしよう。俺も色々と話していないこともあるからな。無理に詮索はしないでおこう。そう思っていたが
「……そうか、ジークは魔導書が読めるのか。それなら」
ダレンがそう呟いてセイレンと顔を見合わせる。視線で何かの確認したのかセイレンが頷く。そしてダレンは俺の方を見て
「帝都でお前に読んでもらいたい魔導書があるんだ」
と、いうのだった。




