71.銀髪の侍女
……突然部屋へと現れた侍女服を着たおかっぱの銀髪の少女。見た目は8歳ほどで、ランドセルぐらいの大きさのある本を背負っていた。しかも、その本に俺は見覚えがあった。
その本は魔導書だった。しかも、その魔導書は……魔導人形の魔導書だ。俺が国を出る事になった原因の1つである魔導人形の。
そして、それを大事そうに背負っている目の前の少女。しかも、見た目が俺が倒した魔導人形にかなり似ている。いや、この子をそのまま大きくしたらあの魔導人形になると思わせるほど、瓜二つなのだ。
「……お前、まさかあの魔導人形か?」
「ふふっ、ようやく追いつきました。この体になるまで時間がかかってしまいましたが、マスターの魔力を追って追いかけて来たのです」
そう言って、薄いどころか無い胸を自信満々に張る魔導人形。なんだか、初めて会った時とは雰囲気が全く違うな。
彼女と対峙した時は、クールというか冷たい感じだったのに。今の彼女はそんな雰囲気が全くない。
だが、あの時の事がある。俺は見た目に惑わされずに腰に挿してある黒剣に手をかける。この狭い部屋では戦えない。宿屋にも迷惑をかけるからな。その前に出なければ。しかし
「お待ちください、マスター。私には争う意志はありません」
と、パタパタと手を振る魔導人形。ふむ、動きまで見た目通りだな。あんな事をされたが、愛らしく思えてしまう。
「どういう事だ?」
「今の私に戦えるほどの魔力は残っていません。あの時、マスターに体をあちこち貫かれて消滅寸前までイキましたから」
そう言って体をクネクネさせる魔導人形。見た目8歳がそんなクネクネしても興奮はしないが、それを他の人に見られると絶対に誤解されるからその動きやめろよ。その言い方もだ。
「機能停止を仕掛けた体を復元するのに、体内にあった魔力を殆ど使ってしまい、しかも、マスターとのリンクもかなりか細いものになって魔力の回復が難しかったため、復元するにもこの見た目が限界だったのです。機能の殆どが使えませんし」
頰をぷくぷくと膨らませて、私怒っています! と言いたげな表情を見せる魔導人形。本当に表情豊かになったよな。
しかし、前みたいに魔王殺す、と騒がないのであれば、俺も敵対するつもりはない。まあ、思うところが無いわけではないけど、今更掘り返したって意味は無いしな。
剣から手は離したが、完全に気を抜くことは出来ないため、腰に挿したままベッドに座る。部屋には椅子が1脚だけ置かれているため、そこに魔導人形を座らせる。椅子に座ってしまうと足が床に届かないため、ぷらんぷらんさせている。
「それで、何のために俺を追いかけてきたんだ?」
「1番は魔力を回復させるためですね。空気中に漂う魔力でも少しずつではありますが回復していくのですが、それだと、目的を果たす事が出来ないまま、また休眠状態にならなければいけなくなります」
「そうならないため、俺から魔力を貰うと?」
「はい。魔導書を読んだ時点で私とマスターにはパスが繋がっています。マスターの負担にならない程度でも十分に体内の魔力を回復する事が出来ます」
「他には?」
「もちろん、マスターのお世話をするためですっ!!」
どやぁ、とうっすい胸を張る魔導人形。あれ程魔王魔王と言っていた者と同じ人物なのか? 別人って言われても信じるほど雰囲気が変わったな。
……とりあえず、話を聞いてみるか。前の魔王魔王と言っていた時に比べては話が出来そうだし。何を考えているのかはわからないが、すぐにどうこうって話でもなさそうだしな。




