68.第2王子の去った後
「……そ、それは本当なの、クロエちゃん」
「私が旦那様の事で嘘をつくわけがないじゃ無いですか。悔しい事に本当なのです」
私たちの前で今にも泣きそうなのを我慢しているクロエちゃん。その後ろにはついこの前まではジークの侍女をしていたエンフィも辛そうな表情を浮かべていた。
ここに皆が集まっている理由。それは、ジークの追放についてだった。休み明け学園に来て教室に来てみればジークはいなかった。1番とは言わないけど、クラスの中でくるのが早めのジークがいないため、私たちの中で何かあったのかと話したぐらい。
そして、先生が来て一言目が、ジークの退学の話だった。先生は何事も無く話を進めて教室を出て行ってしまったため、何も聞く事が出来なかったため、学園で彼のことを1番詳しいだろうクロエちゃんに話を聞く事にした。
その話が今話してもらった話だった。クロエちゃんも又聞きのように聞いた話のようで詳しくはわかっていないらしいのだけど、バレンタイン侯爵の屋敷に入って暴れたらしい。
その話を聞いて周りは失望したような表情を浮かべていたけど、明らかにセシリア関係だ。どういう理由で向かったのかはわからないけど、それ以外にジークがバレンタイン侯爵の屋敷に向かう事なんて無いはずだから。
「私は何か理由があったのだと思うのです。ですが、その理由は誰も話してはくれなくて。陛下は忙しそうで会えずに、王妃様は旦那様を追放した日から体調を崩されて寝込んでしまい……」
その先はあまりに辛そうに口を閉ざすクロエちゃん。それなら、何も言わないまま解散となった。
ジークが去った初日や次の日ぐらいは学園で少し騒ぎになったけど、気が付けば誰もジークの話をしなくなった。まるで舞台からいなくなったかのように。
その事に私は怖くなってしまった。この世界がゲームの世界だと知っているからかもしれない。あまりにもあっさりと皆ジークの事を話さなくなったのだ。あのクロエちゃんたちも。辛そうにはしているけど、話すのはいけない事のように。
これもゲームの世界という強制力が働いているのかしら。セシリアのいじめの事もジークの話で少し無くなっていたけど、復活しているし。
……少しこの世界のことを調べてみよう。私の予想だと、ジークは必ず戻ってくる。その時のためにセシリアと少しでも接点を持って問題の日までに解決策を練らないと。
◇◇◇
「お姉様!」
「あら、メルフィーレ。今日はこっちに帰って来たの?」
私を見て走り寄ってくる可愛い可愛い道具。孤児院を出る前から、優しくして来たお陰か、1番私に懐いてくれている。
「うん、今日は色々とお姉様に報告したかったんだ!」
「ふふっ、何かしら?」
「殿下に今度夜会に誘われたの! そこで、お姉様も連れて来ていいって!」
あら、これは思っていたよりもメルフィーレの好感度が上がっているじゃ無いの。ふふっ、私がゲームの内容を教えてあげたお陰ね。
それから、学園の話も色々と面白くなって来たわね。メルフィーレは予想通り虐められ始めて、その事を殿下たちに打ち上げた。
セシリアが虐めているという噂も良い感じに広がっているようだし。
何より、第2王子が退学になって王都を出たのは良い知らせだわ。まさか、シナリオよりかなり遅くなるなんて思っても見なかったけど。
今まで良い感じに進んでたシナリオの唯一のイレギュラーだったものね。でも、そのイレギュラーも消えてくれた。後は無印のエンディングまで行くだけ。
そして、セシリアを覚醒させなきゃ。2の話はこの国は関係無いから、飛ばして3の話にしなきゃね。ふふっ……楽しくなって来たわね。お待ち下さい、魔神様。必ず復活させますので。




