表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/73

67.遅くなったシナリオ

「……以上がバレンタイン侯爵家で起きた出来事になります」


「……そうか」


 俺はアーグス将軍の報告の内容に頭を抑えることしか出来なかった。隣に立つハイネルも珍しく表情を変えていた。ハイネルはジークを買っている部分があったからな。


「バレンタイン侯爵へは?」


「既に連絡は送っています。しかし、距離があるため伝わるのは遅くても3日後でしょう」


「わかった。直ぐに侯爵家の屋敷に建築士を送るのだ。バレンタイン侯爵には来てからの連絡にはなるが、修繕を始めよ。それから、今回の事で出た怪我人全員に治療と見舞金を」


「わかりました、陛下」


「頼んだぞ、宰相。それでジークはどうなった?」


「先ほど目を覚ましたようで、王妃様が話してくれております」


「そうか。その話が終わり次第、ジークをここに連れて来るのだ。今王宮内にいる大臣全てと、セシリア嬢、グルディスも呼ぶのだ」


「グルディス殿下もですか?」


「ああ。今回の被害者であるセシリア嬢の婚約者であるグルディスも結末を知りたいだろう。連れて来るのだ」


「わかりました」


 ……はぁ、この親不孝者め。父親にこんな事を言わせるお前を恨むぞ、ジーク。……馬鹿者め。


 ◇◇◇


「……おそらく、王家からは出されるでしょう」


 目が覚めて、現状を把握する前に母上に告げられた言葉が今の言葉だった。余りにも突然過ぎて呆気にとられたが、不思議とおかしいとは思わなかった。


 いつも笑顔であった母上が無表情に近い表情が物語っている。それほどの事を俺はしたのだ。


 よく考えれば当たり前だよな。兄上の婚約者であるセシリアの家に、レイチェルさんを連れていたとはいえ、男が無断で向かった上に、屋敷で暴れたのだから。


 いくらセシリアを守るためとはいえ、元々の問題は俺が買った魔導人形にあったし。俺が自演自作したと思われても不思議じゃない。


「今は陛下が報告を聞いて話し合っているところよ。もうすぐしたらお呼びがあると思うわ。……本当に馬鹿な事をして。少しは相談してくれたらこんな事にはならなかったのに」


「……申し訳ありません、母上」


 俺は素直に頭を下げる。1から10まで全て俺が悪いのだから。そんな俺を見て無表情だった母上の顔が崩れる。今にも泣きそうな表情に変わり、それを耐えていた。


 ……本当に親不孝者だな、俺は。母上にこんな事を言わせて、こんな表情をさせるなんて。


 しばらくは無言の状況が続いている。その間に考えることはセシリアや自分の身に起こった事だった。


 まずは自分の身に起こった事。あの体の奥底から溢れてきた魔力。どうして今まで忘れていたのか。あれは今の記憶が蘇る前の俺が使っていた魔力だ。


 ただ、あの魔力も普通の魔力じゃないのはわかっている。昔の俺がどのようにしてあの魔力を身につけたのか覚えていないのだ。


 それに、同時に魔力と一緒に現れたあれはまさしく昔の俺だった。てっきり俺の記憶が戻った時に、混ざり合ったと思っていたが、そうではなかったのか。


 間違いなく昔の記憶はある。物心ついた頃からの。ただ、あの魔力の事だけはわからない。もしかしたら、それが関係しているのかもしれない。


 それに、セシリアの事もだ。魔導人形の言っていた魔王について。魔王因子を持つ者は互いに引かれ合う。もしかして、ゲームの中でセシリアが追放されてから、バレンタイン侯爵領に魔王が現れたのは、それが関係しているからなのかもしれない。


 7体の魔王に魔神。……ゲームの中で俺の知らない設定が出てき過ぎだ。もしかしたら、俺の死んだ後に……。


「ジーク」


 色々と考え込んでいたら、母上に呼ばれた。顔を上げるとどうやら呼び出しが来たようだ。呼びに来たのはアーグス将軍と、その部下たちだった。


 アーグス将軍は何ともないような雰囲気だったが、他の部下たちは俺を警戒する。まあ、暴れられたら困るからだろう。


 アーグス将軍は立ち上がった俺を見たまま立ち止まる。ジッと確かめるように俺を見た後、部屋を出て行く。何か言いたそうだったけど、おそらく問題無いか確かめたのだろう。あの人はなんだか気が付いているようだったし。


 左右後ろに兵士に立たれて、前はアーグス将軍に先導されながら俺は王宮の中を歩く。……この中を歩くのも最後になるのか。


 しばらく王宮内を歩き玉座の間へと連れて来られた俺は、暴れないようにと後ろで手を縛られる。今ここで逆らっても意味が無いのでされるがままだ。


 少し強めに引っ張られて玉座の間へと入る。地味に痛い。玉座の間には父上は勿論、先に入っていた母上に、宰相、大臣たちに兄上とセシリアもいた。


 兄上は俺をゴミを見るかのような目で見てくるが、セシリアは心配そうな目で見ていた。それだけでも俺は嬉しい。


 俺は兵士たちに玉座の間の中心辺りまで連れていかれて無理矢理座らさせる。側にアーグス将軍が立っているのはこれも暴れた時用なのだろう。


「……ジークよ。何故ここにこのように連れて来られたかわかっているな?」


「はい。勿論です陛下」


 俺は静かに頭を下げる。辺りの大臣がやはり変わってなかったな、とかなんとか言う声がちらほらと聞こえてくる。それに反論したい気待ちはあったが黙ったまま頭を下げ続ける。父上も黙っており、しばらく沈黙が続いたが


「このまま黙っていても辛いだけだな。ジークよ。そなたはグルディスの婚約者であるセシリア嬢のいるバレンタイン侯爵家に無断で立ち入り、そなたが買った魔導人形と争ったと聞く。魔導人形がそなたの制御下から離れた際に、我々に相談していればこのような事にはならなかった。

 周りから見れば、自分の兄の婚約者の家に魔導人形を使って押し入ったと思われても仕方がないだろう。その上、暴れて屋敷を半壊させたと聞く。その事に間違いはないか?」


「はい、間違いありません」


「……そうか。残念だ。ジーク、お前は王家より追放する。これから、アルフォールの家名を名乗る事は許さんし、王都の地を踏む事も許さん。国から追い出されないのが温情だと思え」


「はっ」


 俺は何も言う事なく頭を下げ続ける。父上は何も言う事なく俺を出すように指示を出し、再び兵士に掴まれて立ち上がる。その時チラッと見えたのが、父上の辛そうな顔と、母上の今にも泣きそうな顔、そして、俺を見下す兄上に、手で顔を覆うセシリアだった。


 俺はそのまま引っ張られて馬車に乗せられる。そして、そのまま馬車は走り出す。王都の門まで止まる事なく走り続けた。クロエや皆に挨拶をしたかったが、仕方ないよな。落ち着いたら手紙を書くか。


 そんな事を考えていると、馬車が止まる。王都の門まで辿り着いたようだ。俺は兵士に引っ張られて馬車を降りる。


 そこで縛っていた手を解かれ自由になった。このまま一文無しでどうしたものかと考えていたところに、アーグス将軍も馬車から降りてきた。別の馬車に乗っていたようだ。


 俺の前まで来たアーグス将軍は、手に持っていた袋と一振りの剣を俺に渡してきた。


「それは陛下からの最後の手向けです。これを受け取り王都を出ればあなたはただの平民になります」


 そう言い渡された袋を見ると、入っていたのはお金と非常食だった。それから剣は黒剣だった。気が付けばアーグス将軍たちは門を潜り戻っていた。


 俺は再度手元の物を見て、王宮のある方角に向けて頭を下げる。


 そして頭をあげた俺は歩き出す。遅れてだがゲームの舞台からシナリオ通り降りる事になってしまったが、これからは裏方としてこの世界の謎について調べていこう。


 彼女を……セシリアを助けるために。

次の話は出ていた後の周りの話を書いて、新章を書いていきたいと思います。

少し間が空くかもしれませんが、完結はしませんのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ