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66.戦いの行方

「……ジーク様」


 後ろから心配そうなセシリアの声が聞こえるが、俺はそれに答える事なく魔導人形を見ながら構えていた。体の奥底から溢れてくる魔力を身に纏い治癒力を高めていく。


 ただ、体の奥底から一気に溢れてくる魔力は、蛇口の壊れた水道のように止まることなく溢れ続ける。


 ……そして、溢れた魔力がまるで意志を持っているかのように動き出し、俺の体を更に包み込む。俺はそれに抗う事が出来ずに、体の自由を奪われていった。そして


『俺に返しやがれ』


 そんな声を最後に俺の意識は途絶えていった。


 ◇◇◇


「……ジーク様」


 私は目の前に立つジーク様の名前を呼びます。私を守るために傷だらけになりながらも私の前に立ってくれるジーク様。その姿を、申し訳ない気持ちになりながらも、思ってはいけないことと分かりながらも嬉しく思ってしまう。


 だけど、次の瞬間そんな考えは吹き飛んでしまった。ジーク様の体からかなりの量の魔力が溢れ出し、部屋の中を包み込んだから。しかも、気のせいかも知れないけど、ジーク様の雰囲気が変わったように感じる。


 溢れでた重たく密度の濃い魔力を見に纏ったジーク様は、自身の体を確かめるように動かしてから、目の前の魔導人形と呼ばれた女性を見る。そして、次の瞬間……目の前が爆発したのだ。


 私はその風圧に吹き飛ばされてしまう。上も下もわからないまま吹き飛ばされたのだけど、痛みは余りなかった。理由は


「大丈夫かい、セシリア嬢!!」


 私を抱えるようにレイチェル様が受け止めてくれたから。片手にはルナが抱えられていた。よかったぁ。


「どうなってるんだい、これは。捕らえるための魔法が消えたと思って来てみたら、殿下が暴れているなんて」


 私たちは爆発した方を見ると、私の部屋は半壊していて、大きな穴が開いていた。そこから、見えた景色では、ジーク殿下が魔導人形と戦っている姿だった。


 魔導人形の左腕は無くなっており、右腕だけで受けていた……と思うのだけど、私には速過ぎてよくわからなかった。なんて速さなの?


「……誰だ、あいつは?」


 そんなジーク様たちを見ていると、後ろでぽつりと呟く声。声の主はレイチェル様だったけど、彼女の言葉に疑問を持ってしまう。


 レイチェル様は、私が初めてジーク様と出会った日より前から、彼と共にいたはず。それなのに、彼女はまるで初めて見たような事を言うのだ。


「レイチェル様?」


「……ああ、すまないね。あまりにもいつもの殿下と違い過ぎてね。だけど、あれは明らかにいつもと様子が違う」


 レイチェル様はそう呟く。確かに今まで出会った時とは全く雰囲気が違う。何というか……怖く感じてしまう。


 そんな事を考えていたら、魔導人形は両足を切り落とされて、地面に倒れていた。その魔導人形の胸に、ジーク様は迷う事なく剣を振り下ろして刺してしまった。


 その剣を刺した魔導人形をジッと見つめるジーク様。全く動かないけどどうかしたのかしら? わけもわからずにどうしようかと迷っていると


「これはどういう事ですか、ジーク殿下?」


 という声と共にガシャガシャと音が聞こえてきた。音のした方を見るとそこには、兵士たちを連れたアーグス将軍がいた。


 兵士たちは、胸に剣を突き刺されている魔導人形や大きな穴が空いた私たちの屋敷を見て驚きが隠せないようで、その中でジッと睨み合うジーク様とアーグス将軍。


「……その魔力。4年前に階段から落ちた日から感じませんでしたが、これで確定しました。どちらが本物ですか?」


 アーグス将軍は、ジーク様にそんな事を尋ねながら剣を抜き構える。一体何を言っているのかわからなかったけど、ジーク様はわかるようで


「俺は俺だよ。変な事を聞くなよ!」


 そう言いながら魔力を爆発させたジーク様の背中から、2本の尻尾のようなものが魔力で作られて、それらがアーグス将軍へと襲い掛かる。


 後ろの兵士たちはジーク様の突然の行動に驚いていますが、アーグス将軍は慌てる事なく迫る尻尾を剣で弾く。そこから、ジーク様とアーグス将軍の戦いが始まってしまった。


 途轍もなく速い攻防に、私も兵士たちもどうする事も出来なかった。


「おらっ!」


「その魔力、その力。あの時と同じですな。グラディス殿下に負けたあの時と。ただ手に入れた力に溺れたあの時と」


「っ! あの時の事を話すんじゃあねえよっ!!」


 私ではわからない話をする2人。ただ、噂では聞いたことがある。ジーク殿下はグルディス殿下の才能に嫉妬して堕落的になったと。もしかしたらその原因となった事を話しているのかもしれない。


 その間にもぶつかり合う2人。ジーク様はその間も魔力を放出して纏っていく。2尾だった尻尾が3尾に増えて、手は鋭い爪を纏わせていた。


 私はその姿が怖かった。私の記憶の中にあるジーク様は、笑っていて一生懸命で、そして私を見てくれていた。


 気が付けば私は大きく空いた穴から飛び降りていた。後ろでレイチェル様とルナの声が聞こえるけど、魔法で体を一瞬浮かせる。


 着地した時にドンっと衝撃があって足がジーンと痛むけど、怪我はしなかった。少しホッとしながらも私は2人の方へと走る。


 2人は打ち合い続けていたけど、次第にジーク様が押され始めたのがわかる。そして


「そろそろ止まってもらいますよ。雷光一閃」


 アーグス将軍の剣が光ったと思った瞬間、バチッと大きな音が響いた。そして、吹き飛んでいくジーク様。


 ジーク様が倒れた後はシーンとする皆。アーグス将軍は剣をしまうと私に気がついて近づいてきた。


「お怪我はありませんか、セシリア様」


「え、ええ、無いです。それよりもジーク様が!」


「手加減はしました。しばらく目を覚まさないでしょう。お前たち、ジーク様を縛って王宮へ連れて行く」


 アーグス将軍の指示に兵士たちが動き出す。私はジーク様が心配になり倒れた場所へ行こうとした瞬間、吹き飛ばされる兵士たち。その向こうには気を失ったと思ったジーク様が立っていたのだ。そして私をジロっと見て……向かって来る。


 アーグス将軍は屋敷の方へと向かおうとしていたため、私から少し距離が離れており、兵士たちも離れていた。


「お嬢様!!」


 屋敷からルナの声が聞こえてくるけど、ジーク様は既に目の前に。だけど、私は不思議と不安や恐怖は無かった。理由はわからないけど。


 私の予想は正しかったのか、3尾の尻尾と顔目掛けて振り下ろしてくる右腕が目の前で止まる。大丈夫とわかっていても、目の前に迫るのを見るとドキドキするわね。


「……ちっ……くそがぁっ!! ……くそはお前だよ。セシリアを傷つけ……ちっ、やっと出てこれたのに……絶対に守るっ!」


 ジーク様は私に突き出してきた右腕を左腕で掴んでその場に膝をついた。何かに耐えるように苦しそうに。そして、ジーク様の魔力が霧散してその場で倒れてしまった。


 私は心配になり近づこうとしたけど、後ろから腕を掴まれる。振り返るとレイチェル様が真剣な顔で私の腕を掴んでいた。


 そして、私を庇うようにアーグス将軍が立ち、兵士たちがジーク様を縛っていった。私はその姿を見ている事しか出来なかった。

次回最終話


……


…………


……………………第1章の

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