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64.屋敷への訪問者

「……ふぅ」


「何が書かれていたのですか、お嬢様?」


「ルナ? いつも通りの事よ。殿下との関係や学園での立場の事をつらつらと書かれているだけだわ」


 私は今日送られてきたお父様からの手紙をヒラヒラと振る。いつもの手紙と同じだとわかった私の専属の侍女ルナは、少し困ったような表情を浮かべていた。


「閣下からの手紙をそう雑に扱うものではありませんよ、お嬢様」


 気にしていたのは私が手紙を雑にした事だった。まあ、手紙の内容もわかっているから何も言わないだけのようだしね。


「しかし、殿下の事は書かないのですね?」


「……書けるわけがないでしょう。私の魅力不足なのを言っているのと同じだもの。私がもっと努力すれば良いだけだわ」


 私はルナの言葉に首を振る。ルナはそんな私の姿を見てはぁと溜息を吐いた。いつもの事だから慣れたけど。


「あの平民の事も黙っておくのですか?」


「ええ、話す必要がないもの」


 彼女の事をお父様に話すつもりはない。殿下も同じクラスメイトとして接しているのだろうし、もし本当に好意があるのなら側室にするはず。彼女がいようがいなかろうが、私のするべき事は、将来の王妃として殿下を支えられるようになるだけ。……ただそれだけ。


「……はぁ、そんな辛そうな顔をして、学園ではよくあんな無表情でいられますよね? まあ、家だから表に出せるのでしょうけど」


「……べ、別に辛そうな顔なんてしてないわ」


「何年、私がお嬢様と共にいると思っているのですか。お嬢様のわずかな変化も見逃しませんよ?」


 そう言いながら覗き込んでくるルナ。私はそんな事を言ってくる彼女に顔を見られるのが嫌で顔を逸らす。


「ジーク殿下とクロエ様はかなり仲が良いと聞きますね。クラスで友達も作って学園生活を順調に過ごしているようです」


「……急に何よ?」


「お嬢様の理想の関係はあの2人のような関係でしょう。それにあの方がもう少し真面目になるのが早かったら……」


「それ以上は言わせないわ、ルナ。その先を言えば、私も問題にしないといけなくなるから。ともかく、彼女の事は手紙には書かないわ」


「……わかりました」


 私の有無言わせない態度を感じたのか、ルナは素直に頭を下げてくる。私はそれを見てからお父様に返す手紙に視線を落とす。まだ何も書かれていない白紙。いざ筆を取って書こうとしたその時


「……目標発見……魔王因子確認……」


 と、知らない女性の声が聞こえて来た。私もルナも声のした方を見ると、声のした方は窓からで、そこには裸の銀髪の女性が立っていた。


 すぐ様ルナが私の前に守るように立つけど、次の瞬間にはルナが消えてしまった。そう思ったと同時に大きな音が部屋に響く。音のした方を見れば、投げられて壁にぶつかったルナの姿があった。


 私は直ぐにでもルナの側に行こうとしたけど、腕を掴まれて床に押さえつけられた。体に痛みが走る。そのせいで勝手に涙が溢れてくる。


「お、お嬢様!!」


 ルナは立ち上がろうとするけど、足を怪我したのか立てずに、こちらに向けて手を向けてくる。そして、魔法を撃とうとするけど


「……えっ? ど、どうして魔法が使えないの!?」


 ルナは魔法が使えずに戸惑っていた。私も使おうとしても、集まった魔力が何かに邪魔されたように霧散していく。


「魔力拡散領域展開……目標を処理します」


 わけがわからないまま体に走る痛みが強くなっていく。ルナが必死に手を伸ばしてこちらに来ようとする姿が目に入る。そして


「させるか、このクソポンコツ人形!!」


 知っている声が窓から聞こえて来て、私の上に乗っていた重みと痛みがなくなった。そして、急に視界が変わる。


 思いっきり引っ張り上げられたようで、体が少し痛む。だけど、次の瞬間、体に温かい感覚が私を包んでくれた。


「……ごめんな……本当にごめん。俺のせいで、君に辛い思いをさせてしまった」


 顔を上げると、そこには物凄く辛そうな表情を浮かべるジーク殿下の顔があった。そして、この温もりはジーク殿下に抱えられている感覚だった。


「おい、ポンコツ人形、今すぐに行動を停止しろ。マスター命令だぞ?」


「……マスターの命令を拒否。最優先事項である魔王因子を持つ者を最優先に処理しなければいけません」


 そう言って私たちの方を見てくる女性。さっきから何を言っているのかわからないけど、彼女は私を狙っているのはわかる。それに、『魔王因子』って?


「その魔王因子ってのはなんなんだよ! さっきからそればかり言って」


「マスターからの問いに回答。魔王因子とは魔神により選ばれた者が持つ力の元のことです。この因子を持つものは魔神の尖兵として魔王になる事が確定しています」


 ジーク殿下も私と同じ疑問があって尋ねた結果が、今の彼女の回答だった。私もジーク殿下もその言葉を聞いて何も言えなかった。


 ……私は魔王になるの?

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