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63.向かった先は

「ああ、もうっ! 何だってんだよ!?」


 俺は慌てて黒剣とコートを掴んで部屋から出る。どうして魔導人形が動き出したのかはわからないが、明らかに目的を持っていたのはわかった。


 運が良いのか悪いのかはわからないが、俺と魔導人形に魔力の繋がりを感じるおかげで、どの方向に行ったのがわかるため後を追える。


 俺は王宮内を走っているため、侍女や文官、兵士たちから怪訝そうな顔で見られるが、それを気にすることなく庭へと出る。


「何やっているんだ、殿下?」


 魔導人形の気配を探っていると、呆れた様子で声をかけてくるレイチェルさんがやって来た。走っている俺を見かけたのか後を追いかけて来てくれたようだ。これはラッキーだ。


「レイチェルさん、ワケは走りながら話すからついて来て!」


「ちょっ、待て……全く、仕方ない奴だ」


 レイチェルさんの答えを聞かずに走り出した俺に呆れながらもついて来てくれるレイチェルさん。感謝をしながらも、魔導人形の気配を追う。


 魔導人形は、王宮を出て迷い無く貴族街の方へと向かっているようだ。しかも理由はわからないが、進む速度が上がっている。まるで、目的地まで最短の距離を知っているかのように。


「殿下、そろそろどこに向かっているのか教えてくれても良いのでは?」


 後ろから不機嫌そうに言ってくるレイチェルさん。そうだ、何をしに言っているのか話しておかないと止められてしまう。


 魔導人形の気配を追いながらも、レイチェルさんに事情を説明していく。物凄くジトっと睨んでくるが許して欲しい。俺だって動くとは思わなかったんだよ。


「……また変な物を買って。良く王妃様たちが許したな?」


「……まだ、話してない」


「……あーあ、知ーらないっと」


 そう言って黙って後をついてくるレイチェルさん。す、すっかりと忘れていた!! 母上に買ったことを話していない!!


 だだだ、だ、大丈夫、大丈夫だ。ちゃんと連れて帰って説明すれば問題ないはず。うん、大丈夫だ。そのためには早く捕まえて帰らないと。


「……と、レイチェルさん、あれだ!」


 母上にどう話そうか考えていると、まだ少し遠くではあるが魔導人形の背中が見えた。同時に綺麗な背中やお尻も見えたが、気にしないようにする。


「はぁ? 素っ裸じゃないか。殿下……」


「ち、違うって! 確かに着せるのを忘れていたが、あの格好は元々だ! 俺がやったわけじゃない!!」


 魔導人形の後ろ姿を見て、またしても疑いの目で俺を見てくるレイチェルさん。そう言いたい気持ちは物凄くわかるけど、今はそれよりも魔導人形が先だ。


 魔導人形は屋根の上を静かに走っており、何処かを真っ直ぐと目指していた。途中で屋根上を走っていたから速度が速くなったのか。


 それでも、この辺りの地理を知らなければ、そんな事も出来ないはずなのだがと考えながらも、俺はオーバードライブとオーバーソウルを発動。魔導人形目掛けて一気に加速する。


 何か言いたそうだったレイチェルさんも、加速した俺を見て、自身も強化魔法を使い加速する。俺もレイチェルさんも魔導人形の後を追うように屋根へと跳び乗り、一気に魔導人形へと近づく。


 魔導人形は、こちらを見ないまま左手だけ向けて来て、そして、レイチェルさんに魔法を放ち始めた。レイチェルさんは舌打ちをしながらも、迫る魔法を背負う大剣を引き抜いて切り裂いていく。


 しかし、レイチェルさんが使っている大剣は実戦用のものではなく、訓練用のものである。俺のために変えずに来てくれたのが、今は仇となってしまっていた。


「やめろ!」


 少しでもレイチェルさんに魔導人形の意識が向いているうちに、俺は近づいて魔導人形の魔法を放っていない方の右手を掴む。少し強引だがこのまま引き倒そうと思ったら


「マスターより敵対意志あり。正当防衛」


 と、魔導人形が言うと、俺が掴んでいた右手を円を描くように回転させて、いつの間にか俺の右手を掴んでいた。そして、勢い良く振り上げられる魔導人形の右手。当然、その右手に俺は掴まれているわけで


「は?」


 その力に引っ張られるように俺の体は抵抗をする暇も無く引っ張られて……宙を舞った。見た目からは想像も出来ないほどの力に、なすすべも無く振り上げられた俺は、そのまま


 ズドォン!!


 と、屋根に叩きつけられた。オーバーソウルとオーバードライブをしているから、全身に痛みが走るだけで済んでいるが、生身だったら骨が折れているところだ。


「殿下! 手を離せ、人形!!」


 レイチェルさんが魔導人形に向かって大剣を振る。魔導人形は軽く跳んで大剣を避け俺たちから距離を取る。


「……優先順位再確認……マスターの対処……優先順位下位、地図の把握……中位、魔王因子所有者の討伐……上位」


 魔導人形は、俺たちと何処かをチラチラと見比べながら何かを言って再び動き出した。なんだよ、魔王因子って?


 訳も分からないまま、俺もレイチェルさんも再び魔導人形の後を追いかける。しかし、魔導人形は、今度は追いつかないように速度を上げやがった。まだ速くなるのかよ!


 しばらく後を追うが追いつく事が出来ずに、少しずつ離されてくる俺たち。しかし、しばらく走ると魔導人形はとある屋敷の敷地の中へと入った。俺はその屋敷を見て固まってしまった。レイチェルさんも驚きの声を上げる。


 ……くそっ、なんでこんな時に限ってここなんだよ……。そして、魔導人形の言っていた言葉『魔王因子』という謎の言葉が頭を過る。


 だが、ここで固まってもいられない。魔導人形は既にこの敷地の中へと入ったんだ。速く後を追わないと。俺もレイチェルさんも何も言わないまま、目の前の屋敷……バレンタイン侯爵家の屋敷へと向かっていくのだった。

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