58.特徴的な2人
「きゃぁっ!」
「ここまでですね」
カランカランと地面に転がる槍の音。同時に尻餅をついた褐色金髪の少女、リグレットの婚約者で、剣のハーデンベルツ家、槍のバーション家と対をなして言われるほどの家の生まれである、ミゾルデが顔を上げると、喉元に白い剣が突きつけられた。
喉元に突きつけられる剣先を見て、頬を膨らませるミゾルデ。ただ、困った事にブレザーにスカートの姿で地面に尻餅をついているため……その……ねぇ。
「ううー、また負けたぁー! ルーちんほんと強すぎ! 何なのあれ!? 後ろに目でもついてるんじゃないの!?」
「ミゾルデ姉様の気配がわかりやす過ぎるのです。それに、攻撃に強弱をつけるのは良い事ですが、慣れていないせいか力を入れ過ぎてバランスを崩しています。それなら、前の方が良かったですね」
そんなミゾルデに手を差し出す髪も目も肌も白い少女、リグレットの妹であるというルーティア・ハーデンベルツ。その彼女の手を取ってミゾルデは立ち上がる。
「うー、前は単調だから強弱をつけるべきって言ったのにー!」
「言いましたが、まだ慣れていないのにする技ではないです。体がついて行けてません」
ルーティアって子、笑顔で手を差し伸べてミゾルデを立たせているが、言っている事は中々鋭い事を言っている。それに、あの動き……あれ? ひょっとしてリグレットより強くね?
俺はチラッと夫人の隣に立つリグレットを見ると、リグレットは悔しそうに表情を歪めていた。あー、この離れに近づくときに嫌そうな顔をしていたのはこれも原因ってわけか。昔の俺が兄上に嫉妬していた逆バージョンってわけだ。
そう考えると少し親近感が湧いてしまった。才能ある妹に抜かされてしまって……お前も苦労しているんだな。
俺が温かい目で見ている事に気が付いたリグレットは、自分がどういう風に見られているのかも気が付き物凄く嫌そうな顔をする。
「あっ、お義母様とリグ様だぁー! それに、あっ、王子様だ!」
俺が温かい目でリグレットを見ていると、そんな声が聞こえて来た。そして走って来るミゾルデ。ギャルっぽい見た目に反してとんでもない元気っ子だな。見ていて自然と笑顔になるな。
そしてその後ろを鞘に戻した剣を杖のようにして地面を叩いたりしながらやって来た。まるで白杖を使うかのように。
そんな2人が並ぶと、2人とも貴族の令嬢としての挨拶をする。ルーティアは見た目通りだが、ミゾルデが綺麗にするのは何だか不思議に思えてしまう。まあ、そこは伯爵令嬢としての教養の賜物か。
「お初にお目にかかります、ジークレント殿下。ハーデンベルツ家長女、ルーティア・ハーデンベルツと申します」
「お初ですー! 私はバーション伯爵家の長女で、リグ様の婚約者のミゾルデ・バーションでーすー! よろしくねー」
……か、軽い。ミゾルデ軽すぎるぞ、それは。俺だから良いものの兄上だったら確実にキレてるぞ。夫人ははぁ、と溜息を吐きながら注意しに行こうとするが、まあ、俺には良いだろう。他の人には注意してくれれば。
「初めまして。ジークレント・ヴァン・アルフォールだ。これからハーデンベルツ夫人に師事する事になった。よろしく頼む」
俺がそう言いながら手を差し出すと、ルーティアは微笑みながら握手をしてくれて、ミゾルデは元気にブンブン手を振りながら握手をしてくれた。そして、リグレットはそんな事は聞いていないぞ! と言いたげな表情を浮かべていた。
「うわぁー! それじゃあ、これからは王子様とも戦えるって事っ!? ヤバっ、超楽しみー!!」
そして、何故かミゾルデが一番喜んでくれた。今すぐにでもやりたそうに目を輝かせている。そ、そんなに戦いたいのだろうか?
「ふふ、慌てなくてもミゾルデにも相手してもらいます。勿論リグレット、あなたもですよ?」
「……しかし、私は」
「また負けるのが嫌なら別に構いません。知らない女の尻でも追いかけていなさい。バーション伯爵には私から謝っておきますから」
うわぁ、ハーデンベルツ夫人凄い煽り方するなぁ。こんな言い方されたらはいなんて言えないぞ。少なくとも俺は無理だな。リグレットも嫌々そうながらも頷いた。
そんなハーデンベルツ夫人の怖い一面を見ていると、俺の事をジーっと見て来るルーティア。俺がその視線に気が付きルーティアを見ると
「殿下は不思議な魔力の流れをしていますね。2つの魔力が混ざり合うように体の中を流れています」
と、言われた。その事にドキッとしてしまった俺。その2つの魔力っていうのに心当たりがあったからだ。不思議そうに俺を見て来るルーティア。この子は一体……。




