52.クラス対抗戦(2)
「行きます! 氷剣弾!」
魔剣を解放したリグレット。本気になった奴が初めにやってきたのは、氷で作り出した剣を放って来た事だった。
8本の氷の剣がさっきまで真っ直ぐ突っ込んで来たのが嘘のように、それぞれが四方へと散らばり、バラバラの速度で飛んでくる。途轍もなく込められている魔力。これは素の状態では受け切れないな。
「モードエアリアル」
だから、俺もこの黒剣を解放する。黒剣を中心に吹き荒れる風。風に氷の冷気が乗って辺りを冷やしていくが、そのまま剣に風を纏わせる。剣を目にした台風のように風を纏わせ、剣を構える。そして、俺目掛けて飛んでくる氷の剣を逸らさせる。
真正面から受け止める必要は無い。風を纏わせた黒剣を振るい、飛んでくる氷の剣の先に風をぶつけて逸らすだけで十分逸れる。
タイミングを合わせて剣を振るだけで左右へと逸れる氷の剣。言うのは簡単だが、思ったよりタイミングが難しいな。
「ちっ、何がおかしい!」
そして、何故か俺を見てキレるリグレット。どうやら俺は、この難易度高めの逸らし方に思わず笑みを浮かべていたようだ。キレながら剣を顔目掛けて振ってくるリグレット。
俺はギリギリで剣を避ける。前髪が数本切られてパラパラと舞う。しかし、それに集中している暇は無かった。その数秒後に剣が通った箇所がパキパキと凍って、刃となり飛んで来たのだ。
俺は咄嗟に黒剣を盾に防ぐが、重心が後ろに行っているためこけそうになる。左足を半歩下げ踏ん張るが、そこにリグレットの剣が右上から斜めに振り下ろされる。
しゃがんで剣を避けるが、直ぐに切り返して横振りが迫る。俺は少しかっこ悪いが転がるように剣を避ける。同時に風を地面にぶつけてリグレットを怯ませる。
俺もリグレットも強化魔法は使っているが、自力の差が現れ、どうしても奴の方が動きが速い。レイチェルさんとの修行のおかげで経験則やカンから避けているが、このままだと追い込まれてしまうな。
そう思いながらリグレットから距離を取ると、辺りから色々な声が聞こえてくる。かっこ悪いやらダサいやら、必死過ぎやら色々だ。
かっこ悪いやらダサいはわからないでも無いが、必死過ぎとはどう言う事だろうか。自力の差で攻められているとは言え、まだまだレイチェルさんとの修行に比べたら温いものだ。
更に迫って剣を振るうリグレットの剣を、どれもギリギリで避ける。次第に剣は避けれるが、飛んでくる氷の刃が掠るようになって来た。
辺りからは嘲笑や同情など様々な感情が含まれた視線が俺に集まる。その中で俺が勝つと思って真剣な目で見てくれる人たちもいる。
クロエにエンフィ、エレネたち参加組の4人に、フレック先生。そして、セシリアだった。
クロエたちやエレネたちには事前にこういう風に戦う事は伝えていたため、不安そうではあるが落ち着いている。
どうして、初めから本気を出さないかというと、素の状態で、現状攻略対象とどれだけの差があるか確認したかったからだ。
これからセシリアを死なせないようにするために、何度も攻略対象たちとぶつかる事は確実だろう。それに、将来魔王が現れた時に矢面に立つのは攻略対象とヒロインだ。
そのため、攻略対象たちの実力をある程度知っておかないと今後の対応を考えられないため、実力を図るために魔法を使わずに戦っていたのだ。
結果は、思ったより差が無かった事だ。これが、今までのままだったら、一撃で俺はやられていただろう。まだ、予定の日まで日はあるため、攻略対象も成長するだろうが、不安になる程の差では無い。俺が怠けなければだが。
近接では攻略対象の中で1、2を争うというリグレットと戦えるのだ。十分過ぎる結果だ。現段階で満足は全く出来ないが、これ以上傷付く必要も無い。セシリアに不安に思わせたく無いし。
そう考えていると、リグレットの魔力が高まる。向こうも終わらせる気になったのだろう。リグレットは突きの構えをし、その周りに同じように切っ先を俺に向けた氷の剣が舞う。先ほどのような少ない数ではなく、2、30本はあるんじゃ無いだろうか。
「これで終わりです!」
周りに舞う氷の剣と共に迫ってくるリグレット。俺はその場から動くことなく魔法を発動する。
「オーバードライブ、オーバーソウル」
2つの魔法を使い、自身の体を強化した俺は、オーバーソウルで更に強化した風を纏う黒剣を振るい、リグレットの周囲を舞う氷の剣を吹き飛ばす。
1人残り戸惑うリグレットに俺は迫り剣を振るう。剣がリグレットに触れた瞬間、風を爆発させ、リグレットを吹き飛ばす。
風の爆発した音が消えるとシーンとする周り。リグレットは吹き飛ばされたまま起き上がる事は無かった。気を失っているようだ。倒れたリグレットを確認しに行ったコレット先生は
「リグレット・ハーデンベルツは気を失ったため、これ以上の戦闘の継続は不可能とし、勝者Dクラス、ジークレント・ヴァン・アルフォール!」
と、宣言してくれたのだった。その事に歓声を上げるDクラスのみんなに、同じように喜んでくれるクロエを、少し周りの目を気にしながら宥めるエンフィ。そして、小さいながらも拍手をしてくれるセシリア。
最後に兄上の方を見ると、周りの歓声とは真逆に忌々しそうに俺を睨んでいた。……これも、俺がストーリーを無視している影響かね? 俺は何も言わずに鞘に剣を戻してみんなの元に戻るのだった。




