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44.許せない問題

「次は移動教室か」


 俺は机の中にある教材から次の授業に必要な教材を準備する。この辺はゲームのせいか前世に似ている。製紙術が前世と変わらないくらい発達しているため、教科書があるくらいだからな。


「次の授業は錬金術かぁ〜。エモンド先生よね。はぁ、寝ちゃいそう」


 その俺の後ろで愚痴るのはエレネだ。エレネ曰く、前世の高校の歴史学の先生に似ているのだとか。その先生は教科書を読むだけの上、ごにょごにょと話すため、聞こえない上に眠くなる授業だったと言う。


 錬金術を教えてくれるエモンド先生は、今年で89歳になるご高齢の男性の先生で、色々と教えてくれるのだが、耳が遠くて入歯をしているせいか、時折聞き取りにくい時があるのだ。それが、似ているのだとか。


「ま、まあ、今日は実験とかもするって言っていましたので、大丈夫だと思いますよ、多分」


 自信なさげに言うマイル。今日の実験は確か石から人形を作る実験だったよな。少し興味がある。前世の手のひらを合わせる錬金術師のように出来るとは言えないが、それに近い事は出来そうだからな。


「私パチンと指パッチンで火が出したい!」


 俺の心を読んでか読まずかそんな事を言うエレネ……そうだった、彼女も俺と同じ前世持ちだったな。それなら知っていてもおかしくないか。でも、指パッチンで火を出すのもカッコいいな。そんな事出来るのだろうか?

 

「ははっ、何ですかそれ。それなら、魔法で発動するのと変わらないじゃないですか」


 マイルの言葉に俺もエレネも固まってしまった。言われてみればそうだな。ここは前世のように夢見ていた魔法が使える世界。普通に手から火が出せるじゃないか。まあ、俺は火種レベルの火しか出せないが。


「何を話しているのだ。早く行かないと始業になるぞ?」


 指パッチンで火を出そうと、自分の手に魔力の込めたインクで魔法陣を手の甲に書こうとしているエレネを見ていると、ユータスが俺たちを呼びに来た。おっと、そういえば元々の目的は次の授業の準備だった。隣にはユーリエもいる。


 俺たちはすぐに授業の準備を終えて教室を出る。これなら余裕で間に合うな。みんなと話しながら向かっていると


「……ジーク様」


 と、俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。声のする方へと見ると、そこには1週間前にエレネの実家である教会で出会ったセシリアと、その教会の出身でエレネのお供をしているミーコちゃんがいた。


 何故、ミーコちゃんがいるのかわからないが、ミーコちゃんは目を赤く腫らしていた。それに凄く辛そうな表情を浮かべるセシリア。一体何が?


「……どうしたんだ、2人とも? 何かあったのか?」


 俺が尋ねるとより辛そうな表情を浮かべる2人。これは何かあったようだ。


 それから、ユーリエたちと別れてセシリアから話を聞こうとすると、セシリアはエレネも、と言う。訳がわからないが、取り敢えず俺とエレネはセシリアに続いて歩く。


 やって来たのは相談室だ。表向きは教師と学生が将来の事や今後の事で相談出来るように作られた部屋だが、本来の使い方は、あまり周りに知られたくない話や聞かれたくない話などをする場所で、防音がしっかりとしている。


 そこに入って、俺の隣にエレネ、向かいにセシリア、セシリアの隣にミーコちゃんが座る。


「それで、何があったんだ? 放課後じゃなくて今話さないといけないほど急ぎなんだろ?」


「……申し訳ございません。本当は巻き込みたくなかったのですが」


 そう言ってセシリアは一通の手紙を俺に渡して来た。見ていいか尋ねてから手紙を取り出して読む。


「これは……」


 俺は手紙を読み終えてから隣に座るエレネに渡す。エレネはどうしてここにいるかわからないまま、手紙も読んでいいのかと慌てたけど、彼女は読まないといけない。関係無い訳じゃないからな。


「……うそ」


 手渡された手紙を戸惑いながらも読み進めて行くエレネは、そこに書かれていた内容に驚きが隠せないようだった。俺だってそうだ。驚いている……だが、それ以上に怒りがあった。


「……この手紙はミーコの元に今朝届きました。多分、私があの教会に何度か通ったのを見られたのだと思います。それに、私の元にミーコがいる事も」


「……それで、教会の人たちを人質に取って金の要求か」


 セシリアたちの元に送られて来た手紙の内容は、教会の人たちを人質に取った。返して欲しかったら金を用意しろというものだった。前世の刑事ドラマのような事が実際に起こってしまった。


 兵士や親に話せば捕らえた人間は殺すとも書いてある。しかも、指定した場所は逃げやすいようにかわざわざ王都の外にある森を指定してある。


「……申し訳ございません。私、他に頼れる人がいなくて」


「……ジーク」


 俺に頭を下げるセシリアと隣で辛そうにするエレネ。これはセシリアだけの問題じゃない。おそらく、この前俺たちが行ったところも見られたのだろう。貴族と関わりのある教会だから狙われた筈だ。


「セシリア、頭を上げるんだ。取り敢えずセシリアたちは今からでも授業に出るんだ。放課後にもう一度集まろう」


「ジ、ジーク様はどうされるのですか?」


「俺か? 俺は今から……父上のところへ行ってくる」


「で、ですが、兵が動けば教会の皆が……」


「大丈夫だよ。兵は動かさない。ちょっと父上にお願いするだけだから。だから、放課後まで待っていていてくれ」


 俺の言葉に渋々といった風だが頷いてくれたセシリア。さて、俺は王城まで戻りますか……お願いしたら、前借りさせてくれるよね?

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