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19.誕生会

「……」


「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ほら、私の手を握って下さい」


 会場の扉の前に立つと、大きな扉とその向こうから聞こえてくる声に俺はつい肩張ってしまう。それに気付いてくれた母上がにこにこと笑みを浮かべながら手を差し伸べてくれるのだが、ここで甘えてはいけないと、俺は首を横に振って深呼吸をする。


 そんな俺を見て、母上がぷくぅっと頬を膨らませて少し拗ねる。頬を膨らませる姿は可愛らしいのだが、流石にみんなが見ているところに手を繋いで行くのは恥ずかし過ぎる。


「さあ、行きましょう母上」


「……もう、仕方ないですね。わかりました。行きますよ」


 母上がそう言って兵士に目を向けると、兵士が中へと入る。そして、宰相の声が聞こえて来た。そして開かれる扉。


 母上が歩き出したのを見て俺も遅れないように隣に続く。部屋の中に入った瞬間、様々な視線に晒される。その中で多いのが俺を蔑んだ視線だった。まあ、今までの事を考えれば当然か。


 ただ、中には俺の雰囲気の変わりように気付いた者もいるようで、興味深そうに見ていた。みんなの視線が1番集まる場所に俺と母上が辿り着くと全員が礼をする。母上の指示で顔を上げさせると


「皆さん、本日は陛下と私の大切な息子たち、グルディスとジークの誕生会に参加して下さり有難うございますね。早いものでこの子達も9歳になり、それぞれが自ら進んで国のための勉学を励んでくれています。

 皆さんにはそんなこの子達をこれからも支えて貰えたらと思いますわ。ジーク」


 母上に促されて一歩前に出る。また緊張して来たけど、前世の会議で発表する程ではない。もう一度深呼吸をして全体を見ながら


「皆様、本日は私と兄上の誕生会に有難う。これからも国の為に勉学に励み兄上を助けるつもりだ。そんな私にこれからも色々と教えて欲しい」


 俺の言葉にざわつく会場。俺はセシリアを助けるために動くから王位なんて必要ない。ただ、動きやすいためにある程度の力などは持っておかないといけないから、他の貴族とは知り合いになりたいな。


 そして、その後すぐに父上とお祖父様たちが入って来る。お祖父様たちがいる事に少し驚きの声が上がるが、それも直ぐに収まる。なんていったって本日の主役が入って来るのだから。


「……私の挨拶もここまでにしておこう。それでは残る今日の主役、グルディス、そしてその婚約者に入って来てもらおう」


 またしてもざわつきが起こる。さっきよりも大きく。婚約の話は上の爵位の人にしか話していないから大半の貴族は知らなかったのだろう。


 部屋へと2人並んで入ってくる兄上とセシリア。兄上は白一色の儀礼服を着ており、貴族の令嬢たちが黄色い歓声をあげる。子供でも女の子って事か。


 その隣を歩くセシリアは水色を基調とした可愛らしいドレスを着ており、隣を歩く兄上と羨ましいほど似合っていた。


 ただ、2人の表情が無表情過ぎるのはどうしてなのだ? 兄上がああいう雰囲気なのはいつもの事なのでわかるが、どうしてセシリアも? 何かあったのか?


 2人の雰囲気に不思議に思いながらも、2人の挨拶は進んでいく。ただ、余りにも淡々としていたため、呆気なく終わってしまった。まわりの貴族たちも少し不思議そうには見えたようだが、まだ子供だからと気にした様子はない。


 気が付けば挨拶は終わり、今度は貴族たちからの挨拶が始まった。兄上とセシリアはそれぞれお祝いの言葉を貰いながら来る貴族と挨拶を交わす。


 それが終わるとようやく自由になる。兄上とセシリアは離れる事が出来ないが、俺は自由だ。会場の中を歩き回っている。貴族たちも頭は下げる事はあっても、自ら話しかけてくる事はない。俺と関わりたくないのだろう。


 まあ、俺も自由に食事が出来るからいいのだけど。べ、別に寂しくないんだからな! そんなしょうもない事を考えていると、子供たちが集まる場所を見つけた。


 ただ、様子がおかしい。1人の少女をほかの少年少女たちが囲んでいた。金髪に緑色が混じった髪を綺麗に纏めており、翡翠色に黄色の花があしらわれたドレスを着ていた。


 ただ、周りの子たちと違って耳が少し尖っていた。それに纏っている魔力もなんだか違う雰囲気がある。もしかして


「あなた、エルフとのハーフらしいですわね? 森に住む野蛮な一族の」


「や、野蛮なんかじゃないです! お母様も、お祖母様もお祖父様もみんな自然を愛する心優しい人たちです!」


「でも、森から出て来ないんだろ? 父上がエルフは田舎者だって言っていたぞ!?」


 ……ああ、そういう事か。彼女はエルフと人間のハーフってわけか。エルフはあまり森から出る事は無いが、森に迷った人間を助けたりしてくれる種族だと聞く。そこで彼女の父親はエルフの母親と出会ったのだろう。


 ハーフエルフの少女は気を強く言い返すけど、流石に多勢に無勢。次第に押されて声が小さくなって行く。流石に可哀想だな。


「何をやっているんだい、君たち?」


 と、少女を守るように間に入ると、全員が黙り込む。流石俺の悪名。こういう時は効果が絶大だ。悲しいけど。何も言わなくなった少女たちを横目に、俺はハーフエルフの少女の手を掴んで外に出る。このまま彼女がここにいたら可哀想だし……おっ、レイチェルさんとメルティアだ。


 レイチェルさんが着ているのは髪に合わせたかのような真っ赤なスリットの入った刺激的なドレスだった。貴族のおっさんたちがチラチラと見るけど、レイチェルさんに睨まれてすごすごと退散している。


 居心地悪そうなレイチェルさんも連れて行こうか。

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