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第9話 謁見(前編)

今回は前編後編の構成になります。



 静寂(せいじゃく)というのがある。それは人にとっては心地よい穏やかさを感じる者もいれば、静寂は嵐の前ぶれとし緊張する者もいる。

 この男にとっては、普段は静寂はのんびり過ごせるゆえに心地よいものだと思っていたが、今回は状況が違った。どちらかと言えば後者の方だった。

 広間の奥に鎮座する者の威光は恐ろしさと(たくま)しさを感じさせる。その眼光に(にら)まれただけで震えあがりそうだった。


「さて……話をしようか」

 鎮座する者—――アルカディア王は重い口を開き言った。その言葉からは文字通りの重みを感じ、まさしく支配する者という感じだ。

 そしてその気迫に(おのの)き、震えている男が一人いた。

 英雄(予定)のフウマだ。

 この国の王に客人として呼ばれ、それを利用して自分が英雄になることを告げ、この世界での地位を確立しようとしたが考えが甘かった。

 王と対面したのはいいものの、王の鋭い威光に腰が引け縮こまってしまった。何を話そうか考えた所で頭が真っ白になり、声がでない。そんな状態だった。

 普段はあっけらかんとしてて楽観的なフウマでもこの空気には耐えられなかった。やる時はやる男であったが、どうにもこの場には慣れなかった。

 紹介の為に隣にいたガーランドもこれには困り果てていた。

 そして棒立ちのまま、数秒が過ぎた。周囲からすれば数秒だが、フウマにはそれが数分に感じられた。

 あまりに棒立ちだったので、痺れを切らしたのか王が再び口を開いた。


「そう固くなることもない。そなたは我が客人。気楽にしてくれて構わないぞ」

 王は先とは違い穏やかな口調で語り掛ける。

 フウマからみた印象では、髪は所々に白髪が生えてはいるが凛とした態度のせいかそれ程年老いているようには見えない。そればかりか、その(たたず)まいは畏敬(いけい)の念すら感じさせる。流石は王と言ったところだった。

 王の言葉に対し、フウマは何か答えなくてはと思いとりあえず何故呼ばれたのか聞くことにした。


「あの……なぜ私はこの場に呼ばれたのでしょうか?」

 多少言葉に詰まった気もするが、かなり懇切丁寧(こんせつていねい)に発言したはずだとフウマは自分で思う。

 その礼儀正しき固い感じに、王は少しばかり呆れた顔をしたがフウマはそれに気づかない。少しばかり間を持たせたところで、王は再びその思い口を開いた。


「そなたは英雄になる者……なのだろう?異世界の戦士よ。ならばその者を我が客人として迎え入れるのは当然のことだ」

 王はさも当然のように言う。だが、この発言に対しこの場にいたガーランドや、アベル以外の全員が驚いた。

 アベルは表面上は驚いてはいなかったが、それでも信じられないという顔をしている。ガーランドはこのことを知っていたのか、目を閉じ受け入れるかのような顔をしている。

 この場にいた衛兵や兵士達は王の言葉の意味が理解できないのか、口々にどういう意味だとか、罪人が英雄なのか?と言った話をしている。

 だが、一番驚いたのはフウマだった。英雄になるという話も、異世界から来たという話も、誰にも話していないのに王が知っているのは不思議だった。


「なぜそれを……?貴方はいったい……」

 自然と声に出てしまった。だが、王はすぐにはそれに答えない。

 時間にしてほんの数秒の時間が流れる。この間にフウマは色々と考えていた。

 なぜ一国の王が自分の正体を知っているのか、なぜ英雄になることを知っているのか。聞きたいことは山積みだった。

 そしてその数秒の沈黙を破るかのように王が語る。


「そなたのことに関してだが、お告げがあった。異界より戦士が来ると。伝説の剣を(たずさ)え、この世界を救う者ありと」

 王はその出来事を神妙(しんみょう)な顔つきで話す。一見すれば信じられないような話だが、いまここでそれを笑う者はいない。

 フウマはその事に疑問を持った。


「お告げ?それだけで俺が英雄になる者ってわかるのか?……って、あ…………」

 いつもの調子で話してしまいハッとする。流石にこれにはガーランドも驚き慌てふためいたが、王は気にもせずといった感じで口元を緩ませている。

「うむ。それがそなたの本性か。なに。気にすることは無い。そなたは客人と言っただろう?ならば気負いせずにいればよいのだ」

 王は先ほどとは違い優し気に話す。ガーランドから聞いていた印象よりも違い少し驚くが、これにはガーランドも驚きだった。

 だが王はそんなことは気にせず話を続ける。


「そもそも今回は、単に私がそなたと話がしたいだけなのだ。つまらぬ腹の探り合いは無しにして普通に話そうではないか。そなたもその方がいいだろう?フウマよ」

 口元を緩ませ、笑って話す王を見てフウマは溜息をつく。

 そして頭をガシガシと掻きながら呟くように

「はぁ……調子狂うなぁ」

 と言った。

 

 それはフウマから離れている者には聞こえなかったが、一応近くにいたガーランドには聞こえたようで小さく頷くような動作をし、あきれ顔で「同感じゃ……」と言った。

 フウマはそれを聞き、ばれないように心の中で苦笑する。もう最初の険悪そうなムードは無く、ガチガチに固まっていた身体も軽く感じられた。

 そんなフウマの様子を見て、王は安心したかのように穏やかな顔つきになる。

 そして一息ついた所で、再びその顔は支配する者の顔つきになる。

 その顔つきからは威厳(いげん)を感じ、その佇まいに畏怖(いふ)すらするが、先ほどとは打って変わりフウマは毅然(きぜん)と向かい合う。

 それを見て王は軽く口元に笑みを浮かべそして語る。

「さて……改めて話をしようか」

王様との謁見いかがでしたでしょうか(まだ終わってない)

いきなり国のトップと言うことで最初は威厳たっぷりに書きました。フウマも震える程に。

厳しさと穏やかさの両面を持つ王様で、普段は厳しい場面ばかり見せているので、穏やかな一面を見たガーランドもこれは驚きを隠せていませんでしたね。 

それよりもこの状況にすぐ対応というか慣れてしまうフウマさん。なぜそんなに慣れられるのか……この先で語れたらいいなと思ってます。


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