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第8話 王の間へ

「城ってのは初めて入ったが、何て言うか言葉がでないな……」

 そんな事しか言えない程圧倒的光景だった。

 長い廊下に敷き詰められた赤い絨毯(じゅうたん)。壁には装飾が(ほどこ)され、天井には元の世界で言うシャンデリアみたいなのがぶら下がっている。


「そうかの?城というのは王の住まう、いわば家じゃ。確かに少し派手な気もするが、支配者としての力を見せるにはこれほど分かりやすいものはあるまい」

 

 そう言うのはこの国の王に仕える老練(ろうれん)な騎士ガーランド。その(たたず)まいからは只者ではない雰囲気を漂わせるが、フウマにとっては話してみると割と気の合うじいさんと言った感じである。

 城の内装にあっけにとられつつ、フウマとガーランドは歩を進める。

 辺りをキョロキョロと見渡しながら進むと、数人の兵士に出会った。恐らく、見回りの衛兵だろう。

 最初は険悪な目で見られるかとフウマは思い身構えたが、そんなことは無かった。

 むしろ逆に敬礼され、「ようこそ我らが城へ!」とでも言うかのように歓迎される始末。これには流石に驚きだった。


「客人の扱いとは言え、さっきまで罪人だったんだぞ?扱いの変わりようが凄くないか?」

「まあ……表向きには王の客人じゃからのう。邪険にはできまい」

 白く短い髭を撫でながらガーランドは答える。

「だが、油断はせぬことじゃ。お主を本気で罪人と思っておる者もいる。全員が全員、お主を受け入れているわけではないのだ」

「例えば?」

「姫の信奉者たちとか……じゃな。噂ではお主が姫をかどわかしていると」

「かどわかすって……あんなお姫様をかどわかせるものか!」

 

 周囲の自分の風評に呆れるフウマ。姫と出会った時の事を思い出してみたが、かどわかした記憶など一度もない。

 そもそもいくら美女とは言え、いきなり出会ってすぐナンパするような男になり下がったつもりは無かった。しかもあの状況下でそんなことできる勇気も持ち合わせてはいなかった。

 それにそもそもフウマはあのお転婆(てんば)姫にここに連れてこられた身だ。フウマ自身は何もしていない。

 だが、それを今ここでガーランドに言っても無駄だろう。逆に一国の姫に対し、文句など垂れていたら打ち首になる可能性だってある。

 どうしようもない状況に深く溜息をつく。

「(これから先が前途多難(ぜんとたなん)すぎるだろ……)」

 内心ひどく疲れるフウマだった。

 

 そうこうしているうちに、王のいる部屋の前に着いた。他の部屋への扉よりも一回り大きく、まさにここに王様がいますよ、と示すかのような扉だった。

「ここが王の間じゃ」

 いつにもなく厳格な表情でガーランドは言う。

「よいか?ここから先はお主と王の話じゃ。いくら儂とはいえども助け船は出せぬ。くれぐれも王の機嫌を損ねぬようにな」

「分かってるよ。その辺りは上手くやる」

 不安なガーランドに対し、陽気な感じで答えるフウマ。その感じにガーランドはさらに不安になる。

「本当に大丈夫じゃろうな?」

 再三聞き直す。だが、フウマは笑って

「心配性だな。まあ打ち首になったらあんたに介錯を頼もうかな」

 などと言う始末。 


 そんな様子に呆れかえるガーランドであったが、フウマの手が震えているのを見て考えが変わる。

 要するに怖いのだ。フウマは表面上は陽気な態度を取ってはいるが、その実は不安と恐怖しかない。罪人として扱われる覚悟をしていた所に、王の客人として扱われることになったのだ。むしろ王に狼藉(ろうぜき)を働けば即死刑になるかもしれない。死のリスクは罪人でいた頃よりも上がったと言えるだろう。

 

 だが、ガーランドはそれに気づいたにも関わらず助けをするつもりはなかった。

 確かにフウマは面白い男ではあるが、だからと言って王よりもフウマを優先するつもりはない。ましてやこれはフウマ自身の問題なのだ。本人がこの状況を切り抜けられなければこれから先、生きていけるかはわからない。だからこそガーランド自身は手を出さず、フウマに自力で切り抜けて欲しかった。

 

 そしてそれはフウマ自身も分かっていた事だった。英雄になると決めたにも関わらず、罪人からの始まりとなってしまった。英雄として活動するには、自分の知名度と信頼性を上げなければならない。もし、このままであれば、人知れずの英雄として過ごすことになるかもしれない(生きていられればだが……)。または罪人として汚名を着るか。どちらにしても、良い未来が待っているとは思えない。

 人々から認められてこその英雄であるなら、この機会は絶好のチャンスでもあった。少なくとも王に認められれば、この国では英雄として受け入れられるかもしれない。

 英雄になるか否か。認められるか死ぬかの選択だった。だからこそ、この謁見は非常に重要なものだった。

 

 フウマは自分の胸に手を当てて考えた。

「(認められるには自分の価値を示さなければならない。ただ口で英雄になると言っても、認められないだろう。ここが正念場だ。ここで失敗すれば死ぬかもしれないし、運よく生きられても前の世界と何も変わらない退屈な生活に逆戻りだ)」

 

 フウマは自分の鼓動が早くなるのを感じた。こんなのは人生初めてだし、元々あまり目立たない役柄だった故に、緊張は凄まじいものだった。だが、やると決めた以上途中で放り出すこともできなかった。女神との約束という理由もあったが、フウマ自身物事を途中で投げ出すのが嫌いだった。ましてや自分でやると決めたことなら尚更だ。

 

 フウマは胸に手を当てつつ大きく深呼吸をした。幾分か気持ちは落ち着くが、鼓動の速さは変わらない。

「ま、これぐらいの緊張感はあった方がいいか」

 笑って語るフウマ。そして気を引き締めガーランドを見る。

 その様子にガーランドは落ち着かせようと口を開きかけたが、フウマの決意を決めた顔を見てやめた。

 そしてただ一言、「行けるか?」と聞いた。それにフウマは頷く。今ここで今後を考えても仕方ない。やれるだけのことはやるつもりだった。

 そして決意を胸に、王のいる部屋への扉に手をかけた。


今回もまだ王様出てこず……展開が遅くて申し訳ないです。

フウマがようやく状況に慣れ、今後についても覚悟を持って挑めるようになってきましたね。元々こんな性格の持ち主だったのです(やる時はやる男)

まあ今までの状況では持ち前の気楽さがだせなかったのもありますね

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