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第7話 罪人の終わり

 アベルが去ってからどれくらいの時が経っただろうか。既に数時間は経っていると思われたが、外の様子も確認できないので、今が何時ぐらいなのかも分からない。

 しかも牢に閉じ込められてから起きたことと言えば、アベルが来たことぐらいである。特に拷問(ごうもん)聴取(ちょうしゅ)もされず、見張りの兵士に何を企んでるのか聞いても何も答えない。


「なんで何もしないんだ?このまま(おり)に閉じ込めて見世物にでもしようってのか?」

 皮肉交じり冗談を言うが、誰も笑ってはくれない。罪人として扱われ、閉じ込められたのにも関わらず何もされない。あまりに不自然だった。

 「まさかこのまま放置して置くつもりか?暇すぎて死んじまうぞ……」

 何も起きず、何もすることもできないのでとりあえず横になる。しかし石の床は意外と冷たいものですぐに起き上がった。手枷(てかせ)があるおかげで随分と動きづらい。

 何か暇を潰せるものでもないか考えあぐねていると、足音が聞こえてきた。ガシャンガシャンとする足音で、鎧を着た兵士が来たのだと思った。

 

 またアベルが訪問したのかと思って、足音のする方へ顔を向けるとそこには若い騎士ではなく老練(ろうれん)な騎士が立っていた。

「調子はどうかの?フウマ殿」

 そこには気さくに話しかけてくるガーランドがいた。

 

 遊びに来たとでも言いそうなガーランドを見て、警戒していたフウマはその調子に戸惑いすっかり気が抜けてしまった。

「ここの者たちは随分と馴れ馴れしいな。この国には罪人には優しくしましょうって決まりでもあるのか?」

 ついふと疑問に思ったことを口にしてしまった。しまったと思い恐る恐るガーランドの顔を伺うが、向こうは気にもしてない様子で豪快に笑った。

「はっはっは!それだけ軽口を叩けるなら大丈夫そうじゃな。元気そうで何よりじゃ」

 牢屋越しに笑っているガーランドを見て溜息をつく。

「皮肉なつもりで言ったんだがな……。まあ気にしてないなら良いんだが」

 少しばかり冷や冷やしたが、ガーランドは特に気にするつもりはないらしい。「構わない」と言って、笑みを作る。


「(こう言ってはなんだが……笑い顔は少し不気味だな)」

 流石にこれは失礼だと思い心のうちに留めておく。

「さて、フウマよ。お主と談義したいところではあるが、そうはいかないのだ」

 笑いを止め、再び厳格そうな顔つきになったガーランド。その言葉から察するに、これから何かが起こるのだろう。

 

 ある程度心の準備はしつつ、何があるのかフウマは聞いてみた。

「牢屋で談義ってのもあれなんだがな。それで?何かあるのか?」

「うむ。王がお主と話しをしたいと仰ってな。喜ぶがいい。牢から出られるぞ」

「……。……は?」

 あまりのことに素っ頓狂(すっとんきょう)な声で返事をする。ついには自分の頭がおかしくなったのかと思って、一度自分の頭を殴ろうとするが手枷が邪魔でできなかった。

 

 とりあえず冷静になろうと思い、一度深呼吸をして落ち着く。そして改めてガーランドに向き直り…

「まてまてまて!王との謁見(えっけん)?どうしてそうなった!?そもそも俺は罪人なんだろ?なのにどうして何もされないんだ!?」

「落ち着くのじゃフウマよ。冷静になるどころか一層慌てておるぞ!」

 冷静になったつもりが、全くなれていなかった。そんな様子に逆に慌ててしまうガーランドだった。

 

 しばらくしてフウマは一旦落ち着き、話を聞くことにした。

 聞いた話によれば、この国の王様がフウマに会って話をしたいらしい。だが、罪人が王と会うのは色々と問題なので客人としてもてなすという。

「……いやなんでだよ!?神様もびっくりな程に話が飛躍しているぞ!」

 流石に突っ込まずにはいられなかった。

 その気持ちはガーランドも同じなようで、「儂にもわからぬ」としか答えられなかった。


「とりあえずは…じゃ、お主は何もされないことは確かじゃ」

「まあ客人として扱われるならそうだろうな。はぁぁぁぁ……なんでこんなことに」

 恐らく人生最大の溜息をつくフウマ。あまりの急展開に脳の処理が追い付かない。だが、そんなフウマの様子には気づかないようでガーランドは話を続ける。

「実はこの一計を案じたのは姫様での。姫様の報告と、お主から預かった剣……それを見て王は驚愕(きょうがく)しておった」

「一国の王が驚愕とは。それまたすごい話だな」

「王は聡明(そうめい)で、勇猛果敢なお方じゃ。この国が今無事でいられるのも王の命令によるところが大きい。ゆえにあの王がうろたえる等と……にわかには信じられん」

 

 首を振り目の前の現実を受け入れられないとでも言うようなガーランド。いくら老練な騎士とは言え、忠誠を誓い名君として威勢を振るってきた王がうろたえるのは驚きなのだろう。

 そんな様子のガーランドを見て、大体の察しをつけてみる。

「んでそのうろたえる原因が俺か。だから会って話を聞けと?そうすれば剣の謎や俺についても分かると思ったのか」

 ガーランドが何を言いたいのか理解し、先に話を進める。

 そんなフウマを見てガーランドは目を丸くする。

「ほほう。そこまで理解してくれてるとは。出会った当初はただのひ弱な男だと思ったが、儂の思い違いだったか?」

「まああの時は状況が状況だったしな。自分でも状況の整理がついてなくて、慌てることしかできなかったから」

 

 この世界に来た時の事を思い出し、しみじみとする。つい先ほどの事だったはずなのにもう何年も前の事のように思えた。

「ここに来て牢に入れられた時はどうなるかと思ったが、逆に良かったかもな。何もされなかったからこそ、落ち着いて考えるだけの時間はたっぷりあった」

 あくまでも前向きに物事を捉えるフウマに、がガーランドは感心する。

「なるほど。それが本来のお主という訳か。随分と前向きなことじゃな」

「前向きってのはいいことだぜ。今になってああしとけば良かったとかって後悔するくらいなら、先の事を俺は考えるね。まあ、聖域では命の危険ゆえに慌ててたが……あんな経験をしたらもう並大抵のことでは驚かないな」

「先ほど王と謁見すると言ったら大慌てだったではないか」

「当たり前だ。怪しいと言われて牢に入れられたのにいきなり王様に会うんだぞ?平民が何もしてないのにいきなり王様になるようなもんだ。話が飛躍しすぎなんだよ」

「確かに……そうじゃな」

 頷きながら話すフウマにつられて、ガーランドも頷く。そのまま目が合う。二人はそのまま吹き出してしまった。

 

 罪人とガーランドがいきなり笑い出したことで、見張りの兵士は面食らった。

 そんな周囲のこと等お構いなしに笑いあう二人。

「ハハハハ…お主は面白い奴じゃの。お主とは話をしていても飽きない」

 ガーランドは素直に称賛の言葉を述べる。

「そうだろう。相手を飽きさせないように話すのはサラリーマンの特技だぜ」

 ついつい褒められたことに浮かれた声を出す。そんなフウマの言葉にガーランドは疑問に思う。

「さらりー?」

 聞きなれない言葉にガーランドは聞き返す。フウマは「しまった」と思った。ここの世界の人間が、サラリーマンなんてものを知っているはずがない。

 

 とりあえず話を変えるために慌てて本題に話を戻す。

「ま、まあそれは置いといて王様と謁見(えっけん)するんだろ?待たせたらいけないんじゃないか?」

「おおそうじゃったな。お主と話をもう少ししていたいが、王を待たせてはいかん。この談義はまた時間がある時にしよう」

 ガーランドは名残惜しそうに話しつつ懐から鍵を出す。そのまま牢の扉を開け、出るように促す。

「客人として迎えられはするが失礼のないようにな。もし王に疑わしい行いをすれば、再び牢獄に逆戻りじゃぞ」

 気を付けるのじゃと注意を(うなが)し、フウマの顔を見る。それに対しフウマは笑って

「わかってるよ。目上の人間に対して失礼のない様にするのは絶対だ。まあヘマはしないさ」

 そしてガーランドと共に、王のいる部屋まで向かう。

 この時、英雄が罪人から客人となった。

「(まだまだ道のりは遠いが、ここが人生の転換期だ。失敗しないようにしないとな)」

 フウマはそう心に誓った。


投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

今回は牢から出す所までです。

厳格そうなガーランドさんは意外とフウマと気が合います

この国の人たちはみんな見た目より優しいのかもしれません


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