第6話 地下牢
改行しました。
アルカディア城地下にある地下牢。ここにフウマは閉じ込められていた。
地下牢とだけあり、周囲は薄暗く、床は石のせいか冷たい。しかも、どこからかネズミが出てくるので衛生的にも最悪な場所だった。
そんな中、フウマは両手を手枷で繋がれ、閉じ込められていた。
「なんでこんなことになったのやら」
フウマは溜息を吐きながらそう言う。
「神社で祈ったら女神さまに異世界に連れてこられ、英雄になると決めたにも関わらず行き着いた先は牢屋。惨めなのを通り越して滑稽だな…」
だが、牢屋に入れられるのは仕方がないとも思っていた。自分がいた場所は聖域と呼ばれ、この世界、レヴェリエを守護する女神様が住む地とされているという。
そんな場所に見ず知らずの男がいれば、この世界に住む者なら怪しさしかないだろう。
たが、フウマには気になることがもう一つあった。
「聖域と呼ばれ、女神が守護する地だろ?なんであんなに荒れ果てているんだ?」
「それは魔物の襲撃を受けたからだ」
一人疑問に思っていると、それに答える声が出てきた。どこかで聞いたことある声だ。少し野太いが若々しい声。
「ああ…あんたか、アベル」
「罪人に呼び捨てにされる謂れはない」
アベルと呼ばれた青年は顔をしかめる。この青年は、この王国の騎士団の団長と呼ばれる地位にいるものである。
「それは悪かった。何せ牢に入るのは初めてなんだ。状況も分からないままこんなんじゃ不安で仕方がない」
フウマは大げさに肩を落とす。
「そんな中に見知った顔があれば、少しは不安も和らぐってものさ」
「いつから私と貴様はそんな中になったのだ…」
アベルは呆れたように言う。
しかしそれも仕方のないことだった。フウマにとっては見知らぬ土地で幽閉され、最悪命の危険が迫っている状況とも言える。そんな状況下で、投獄を勧めた本人とは言え、名前も姿も知っているものなら安心できる。
「話す気にはなったのか?」
「話すも何も、あれが俺に起こった全てだよ。それ以上の事を問われても何もいえないんだが」
「気が付いたら聖域にいて、それは女神様に呼ばれたのが原因だと?誰がそんな与太話を信じるというのだ」
ごもっともだと思った。いきなり知らない世界から女神さまに連れてこられたなど言う妄言を信じる者はいない。
「それに貴様が持っていた剣…あれをどこで手に入れた?あの場所で何をしていた?目的はなんだ!」
段々と声を荒げて問いてくるアベル。その様子はまるで信じられないものにでもあって、それを否定するようにも見えた。
「落ち着いてくれ。こっちだって分からないことだらけなんだ。そんなに聞かれても答えられないぞ」
興奮したアベルをなだめるように落ち着いた声で話す。
実際にフウマに答えられることはない。もし答えたとしても信じられないだろうが…。
「(まあ全てを話した訳じゃないけどな。だが信じてもらえるとは思えないし、俺自身知らないことが多すぎる。今のうちに知れることは知らないと)」
興奮するアベルに対し、フウマは落ち着いていた。むしろこの状況を利用して情報を得ようと思ったぐらいだ。
「(色々なことがありすぎて、いちいち驚いていられなくなったのかもしれないな。それにまあ逆境の時こそ落ち着くべきだな。仕事でそれは培えたし)」
少しばかり、元の世界を思い出し懐かしむ。まだこの異世界に来たばかりというのにもう遠い昔のことのように思えた。
物思いにふけっていると、アベルは一息ついた。目を閉じ瞑想するかのように静かになる。
その様子を見て、しばし二人とも無言でいたが、ふとアベルが今度は落ち着いた声で語り掛けてきた。
「すまぬ。こちらも切迫した状況でな。落ち着いてもいられんのだ。もし何か思い出したり、知っていることがあれば話してほしい」
急に優しくなったアベルに対し、フウマはポカーンとする。
「(こいつさっきはあんなに声を荒げてたのにこの変わり様……よくわからん)」
内心呆れたようにするフウマだが、それは表に出さない。また興奮されても面倒だからだ。
「分かった。なにかあれば話すさ。とりあえずここから出してくれないか?」
「それは駄目だ。完全な罪人と決まったわけではないが、それでも貴様は怪しい。牢に入れておくに越したことはない」
さりげなく話したつもりだが、相手はのってきてはくれなかった。
「冗談のわからない奴め」
皮肉交じりにフウマは言うと
「もっとマシな冗談を言うことだな。ではまたな」
そう言い踵を返してどこかへ言ってしまった。その口元は、先ほどとは違い緩んでいたのにフウマは気づかなかった。
地下牢での話になります。
アベルさんは厳しい人ですが、本当は優しい人でもある……という風にしたかったんですがあまり上手くいかないものです。
すぐに興奮するのは、フウマよりも歳が下の為、少しばかり若輩者感を出したかったってのがあります。