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第4話 異世界のお姫様

改行して読みやすくしてあります

「お前は一体何者だ?どうやってここにきた?」

 ぐっと剣を突き立てられ質問される。顔は兜で見えないが、その様子からして相当警戒されているのが読めた。

「どうした?答えられないのか?」

 急かすように問いかけてくる。しかし、この質問に答えるのは難儀であった。


「(この世界の住人じゃないですって言って許してもらえるのか?女神さまに呼ばれたとか信じてもらえるのだろうか……)」

 一抹の不安が頭を過る。こんな状況下でそのようなことを言って信じてもらえるのか、最悪切り捨てられる可能性だってあるのだ。迂闊に答えることが出来なかった。

 

 何と答えようか考えあぐねていると、騎士は痺れを切らしたのか馬から降りこちらへ迫ってきた。

「この場で貴様の首を切り落としてもいいんだぞ?死人に口なしというやつだ」

 首に剣を向けながら言う。自分はこのまま黙っていても殺されてしまうだけと思い、何でもいいから訳を話そうとした、その時だった。騎士が入ってきた壁穴から、他にも数名の騎士が入ってきた。


「姫様!こちらにおられましたか。探しましたぞ!」

 新たに来た騎士はそう言い、兜を外した。それは厳格そうなじいさんで、歳からくる見た目の割に、老練の戦士とも言える覇気が感じられた。

「すまぬ、ガーランド。この聖域に魔物が立ち入ってるのが見えてな。この蛮行を許すわけにはいくまい?」

 

 姫と呼ばれた騎士はそう答え、兜を外した。その兜の下には、先ほど出会った女神レヴェリエにも劣らぬほどの美しい顔があった。金色の長い髪に、透き通るかのような碧い瞳。端整な顔立ちからも感じられる高貴さには見惚れるほどであった。

「だからと言って、護衛も無しに行かれるのは危険でございます。姫様の身に何か起これば私は……」

「だからすまないと言っているだろう。心配性だなガーランドは」

 とても心配そうにするガーランドに、姫は笑って話している。どうやら結構おてんばな姫様らしい。


「姫様この者は?」

 ガーランドと呼ばれた老騎士が姫に問いかける。先ほどまで身内話をしていたが、どうやらそれも終わり話の矛先がこちらにきたようだ。

「うむ。最初は魔物に襲われていたものだと思って助けたが、どうも妙でな。身なりは見たことなくどこから来たのかも話さぬ。それに……」

 そこまで言いかけて姫はじっとこちらを見てくる。いや、じっと見ているのは自身ではなく、右手に握られた剣だった。

 

 じーっと見つめてくるお姫様に困惑した自分だったが、状況は何も変わっていない。むしろ人が増えてこちらにとって不利になっていた。

「お主……名はなんと申すのじゃ?」

 姫の圧力に負けそうな自分を見かねてか、ガーランドと呼ばれた老騎士が質問してきた。

 自分はまごつきながらも自己紹介をすることにした。

「俺は……その……フウマと言うものです」

 何を思ったのか咄嗟にその名が出た。まあこの世界で元々の名前を言っても違和感しかなさそうだったからいいが。

 

名を聞いた者たちは皆怪訝そうな顔をした。

「フウマ?珍しい名だな」

 後ろで聞いていた姫が不思議そうに答える。どうやらこちらでも珍しい名だったようだ。

「(これで風間丈吉(かざま じょうきち)ですなんて言ったらもっと珍しがられるんだろうな)」

 心の中で苦笑していると、先ほどの老騎士が再び語り掛けてきた。

「ふむ、お主はフウマと言うのか」

 穏やかな声で老騎士は答える。

「ワシの名はガーランドじゃ。歳は取っておるがの、こう見えてもまだまだ若いものには負けぬものよ」

 そう言った瞬間ガーランドの雰囲気が変わる。その様子は戦いの素人である自分にも分かるほどの強い闘気である。周りの兵士もガーランドの放つ闘気に当てられ、緊張しているようだった。その緊張を破ったのは姫だった。


「やめるのだガーランド。兵が委縮してしまっているではないか」

 そっけなく言う姫にガーランドはハッとした。

「これは姫様申し訳ありませぬ」

 こちらを向いていたガーランドは即座に姫の方に向き直り、膝をつき謝罪する。その様からは先ほどの覇気は感じられず、姫に忠義を貫く忠誠心高き者だった。

 ガーランドの様子を見たのち、姫はこちらを睨みつける。そのままこちらに近づき、髪をなびかせながら言った。


「フウマよ。何故この場所にいた?」

「何故と言われましても……自分自身も分かりかねます」

 平然とそう言うと、姫の眉間にしわが寄るのが見える。

 何故この場所にいるのかと問われ、神様に呼ばれて来ましたなんて言えるはずもない。ましてや、相手は見たことない服装に、聞いたこともない名を持つ者だ。信じてくれるはずがない。


「(とりあえず、なんとか間違えた発言をしないようにしないとな)」

 心の中で頷きながらも、視線は姫から外さない。この場で少しでも不穏な動きを見せれば即刻切り捨てられそうな雰囲気だったからだ。

 

 どうしようか迷っていると、聖堂が揺れだした。いや……よく見ると聖堂ではなく地面が揺れていた。異世界でも地震は起きるのかと思いつつ、身を屈める。しかしそれは地震なんてものではなかった。もっと別のものが原因なのだ。それを知らないフウマ達は、皆ただの地震だと思いそこまで警戒はしていなかった。それが異変だと気づくのにそう時間はかからなかった。

 地震が起きて数秒後に、新たに馬に乗った騎士が聖堂に入ってきた。とても慌てた様子であり、その様から緊急事態であることが分かる。


「どうした?」

 即座に姫が問う。

「緊急です!炎龍(レッドドラゴン)を確認!こちらに向かって来ております!」

「なに!?炎龍だと!なぜそんな大物がここに……」

 炎龍……その言葉を聞いた姫は驚愕した。姫だけではない。その場にいた全員が驚いたのだ。ただ一人を除いて……

「あのー、誠に申し訳ございませんがどうしてそんなに慌ててるんでしょう?」

 

 フウマのその発言に、その場にいた者たちは皆驚いた。炎龍と聞けばこの世界に住む者ならば、その恐ろしさが十分に分かるものである。しかし、フウマはこの世界出身ではなく、ついさっき来たばかりである。分からないのも無理ない。

 このフウマの素っ頓狂な質問に、度肝を抜かれたらしく暫し放心状態になった。しかし、再び地鳴りがして皆ハッと我に返る。ツカツカと姫はフウマに近寄ると胸倉を掴み、ジロリと睨んでくる。

「貴様、炎龍を知らぬとは。例え辺境の地に住んでいたとしても、炎龍の名を聞けば震える程だ。それを知らぬというのか」

 

 震える声で訴えてくる姫。しかし、フウマにとっては何も知らぬこと。アニメやゲームで似たような名は聞いたことあるが、実際にそれが恐ろしいかどうかは身をもって知った者しかわからないこと。その恐怖を味わったことのないフウマに理解しろというのが無理な話である。

 そうこうしている内にも揺れは強くなっていく。その揺れから危険がすぐそこまで迫っていると判断したガーランドは、姫に訴えかける。

「姫様。このままここで問答をしていても時間の無駄でしょう。炎龍が近くにいるというのなら、なおのことです。ここは一度城に帰還するのがよろしいかと…」

 辛辣な顔でガーランドは言う。それ程までに炎龍の存在は危険だと……遠回しに言ったのである。

 姫はそれを聞き一瞬不服そうな顔をしたが、すぐに納得しフウマを離す。そして兵に向かって命令した。


「これより我らはこの場より撤退する!炎龍に気取られぬよう慎重に行動し、迅速に動け!」

 姫の命令を聞きガーランド含めた全員の兵士が準備を進める。

「フウマ。貴様の言い分は城で聞いてやろう。共に来い」

 馬に乗った姫は、フウマを睨みつつ手を差し伸べる。訳が分からないフウマはとりあえずその手を取る。

「よっ…と」

「うわっ!?」

 すると姫は馬に乗ったままフウマを引っ張り上げた。華奢な体からは想像できない力だった。そのままフウマと共に馬に乗ると、兵の方に向き直り宣言した。

「撤退するぞ!」

 

 そう言い一足先に駆ける姫。それに続くように兵士たちがついてくる。風を切る速さで駆けていき、先ほどいた聖堂はもう小さくなっていた。

 これほどの素早い撤退に驚きはしたが、フウマにはもっと驚くことがあった。この世界に来た当初は美しい草原に、木々が生い茂りまるで楽園かのような落ち着きさがあったが、今は全てが荒廃し、木々は枯れ、美しい大地とは言えなかった。

「(一体何が起こればこうなるんだ?)」

「どうした?ボーっとしていると振り落とされるぞ。私はそれでも構わないがな」

「それは……困るな。訳も話さぬまま死ぬのは困る」

「ならしっかり掴まっていることだな。先は長いぞ」

 そう言われフウマは姫にギュッと掴まる。その時遠巻きに、炎を纏った龍が見えた。とても大きく、その足で全てを消し去ることのできる者。その灼熱のブレスは生きとし生ける者を灰塵へ帰さんとする。その咆哮を聞きし者は、走馬燈を浮かべるという。龍の中の龍。炎龍の姿であった。

 その姿を見たフウマは背筋が凍った。何よりもその姿に恐怖したのだ。そして思う。あの龍に人間は勝てるのか?…と。


第四話になります。

やっと本格的に異世界って感じがしてきました。

お姫様の性格に悩んだ結果男勝りな感じに……

これはこれで有りだと思っています(笑)

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