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オカズの三品目「神殿騎士シャムール お品書き」

『お仕事お疲れ様~』

「まさか、夢魔に労われる日が来るとは。人生とは試練の連続ですね」

『いやー、それほどでも』

「褒めてませんとかベタな指摘をすると思いましたか?」


 意外にも夢魔は聖務の最中は特に茶々も入れずに

お昼の鐘を静かに待つという殊勝な様子が見受けられました。

少しは私達の生活の崇高さというのが感じられたのかしら?

まぁ、内心どうであれ、滞りなく進んだ事は良しとします。

食堂での昼を終えたところで私は約束の場所へと向かいます。

あ、宗教的な意味がある約束ではありませんよ?


『それにしてもお昼は少なかったね?

あのお兄さんと逢うのがやっぱりご飯の量にも関係が?』

「勿論です。あまり、入れるのはよくありません。

 それに私は、食事は朝食沢山、夕食は少量を心掛けています」

『聖職者ってなんでストイックなんだろう?』

「ストイックじゃなければ、務まらないからです」


 そう、聖処女とはある意味人類における鍛錬、精進の終着点です。

その身を捧ぐに値する清らかな肉体、研ぎ澄まされた精神。

削りに削りきった鋭利さが人類最後の守り刀として脅威へと突き刺さる。


具体的に言うと思春期前の小娘を規則キツキツで

相互監視の施設に放り込んで選別し、もうこの道しか無いと

ひたすらに思考を先鋭化させた後に後戻り出来ない誓約と

人類の命運を委ねられる。

人間一人が背負うには明らかに重過ぎるソレを受け止めて、

一人決死隊にさせる訳です。ナチュラルにおかしい!

選ばれるのも選ぶのももうどうしようもないのです。

ソレくらいの勢いが無いと救済とか出来ませんよね。


「平凡と生きる事で満足出来ない者が武芸を極めたり

芸術を極めたり、学問を極める様に神の理を極めるのです」

『なるほど』

「無論、平凡が悪いとか劣っている訳ではありません。

 その生活の中でも極められる事もあるでしょうし

また、相応の幸せを求める事も大切なことです」


歯の浮くような絵空事ではありますが、それでも人が道を挫かぬ様に

支える言の葉の数々でもあります。嘘だろうが理想だろうが

それで人が道を踏み外さずに、落ち込み膝を折る人間に

手を差し伸べる機会がどれだけ尊いモノか。私自身の経験もありますがね。


『聖処女様は達観してるねぇ~』

「聖典と偉人の言葉を引用しているだけです。

私は知を知り得ているだけで、智を会得しているとは思えません」

『それって違うの?』

「勿論です。故に私は鍛錬を続けるのです」


 夢魔は意外と勤勉な様ですね。私の影響とは思いません。

主神ノース様の理の偉大さもありますがそれだけで夢魔がなびくなら

もっと魔族連中もノース様の理が広まっているでしょう。

だから、私はもっと努めて、勉めて、務めを、勤めねばなりませんね。

この夢魔の心がほんの少しでもノース様の理を理解出来るなら

それもまた、私が高見へと一つ足を進められたということ。

決意とは裏腹、問答を繰り返しながら歩いていると目的の場所に辿り着きます。


『此処に用事があるの?』

「ええ、シャムールが待っていますから」

『コレ、アレだよね。外からでも声は聞こえているし』

「流石に察しが付きますか」


 そう言って重い扉を開けば、其処は怒号と熱気と汗の匂いと土煙

打ち合う木剣や棒の音、石を持ち上げては唸る声に走り込み土蹴る音。

男達、そして少数の女達が、声を鳴り響かせる其処に私は足を踏み入れます。

食堂の時同様、皆が一度手を止めて大きく頭を下げた後

各々の務めを再開していきます。うむ、今日も元気があって実に結構。

挨拶が出来ぬのは駄目です。声を張りましょう、声を。


「神殿騎士達の稽古場です」

『わー、闘技場みたい』

「闘技場を見たことがあるのですか?」

『ちょっとだけねー。良い娯楽だよー』

「後で話を聞かせない。今は黙っていなさい」

『はーい♪』


 なるほど、夢魔だけあってそれはそういう所の警備も難なく

突破出来るということですか。まぁ、娯楽施設に警備を置くのは

難しいでしょうし、冷静に考えれば屈強な闘士が居る場所へ

魔の者が襲撃する事もないでしょう。本当にこの夢魔は

私のところといい、網目をくぐって来ますね。恐ろしいことです。


 ま、そんなことは良いのです。私はそれよりも目当ての男を。

奥の部屋でウォーミングアップしながらも私を待って居てくれています。

何やら夢魔がニヤついておりますね。くっ、実体があったら

適当に腹に一撃食らわせて上げますがそういう訳にもいきませんわね。


「聖処女マグダリア、お待ちしておりました」

「いえ、コチラもワガママに付き合って頂きありがとうございます」

「はははっ、コチラも聖処女様が居ぬと皆、緩んでしまいますからな。

 良い気付けになります」

「結構、では準備しますのでもう暫くお待ちを」


 にこやかに笑うシャムール。ふむ、私も初めて見た時は

随分と辛気臭い男ではあったのですが多少見れる様になりましたね。

コレもやはりノース様の理あってからこそ。

元々は別所属の騎士とは聞いておりましたがまぁ大聖堂には

曰く付きの人物も多い閑職との噂もあります。

ただ、過去に何があったにせよ、言い訳にはなりません。

日々努め、愛し、救い合う者にこそ、その理が窮地を救うのです。

さて、そんな訳で今日も頑張りましょう。


『聖処女マグダリア、聞いていいかな?』

「質問を許可します。どうぞ」

『なんで脱ぎ始めてるの?』

「あの格好では服が破れるでしょう?」

『いや、そうじゃなくてね』


 さて、法衣も脱ぎ終わりました。さらしもきちんと締め直していますし

装飾も外し終わりましたね。後は事前の運動をしなければなりません。

若い頃は取り敢えず、見敵必殺ですぐに飛びかかっていました。

今思い返せば、恥ずかしい限りですね。

きちんと体を解さないといざという時に望む動きが出来ないモノ。

聖飛竜秘伝の〘レディオ・タイソー〙と言う柔軟運動があるのですが

アレが案外良いのですよね。鍛錬にはなりませんが

体中の筋を伸ばすには中々良い運動です。それも終えました、さて!

修練場の試合用にて対峙する、私とシャムール。

久しぶりのお楽しみタイムです♪


「おまたせしました。そちらも準備はよろしくて」

「いえ、淑女の身支度を待つのも騎士の勤めです。

どうぞ、何時でも大丈夫ですよ」

「ではお願いしますね。〘フル・ポテンシャル・バースト〙!」

「よろしくお願い致します!」


 私は鉄の棒、シャムールは刃を潰した鉄剣を構えます。

〘フル・ポテンシャル・バースト〙は身体の限界を引き出す

[身体強化]の奇跡スキル。本来は軍団単位で使えるので

周りの観客たちも効果を受けて沸き立っています。

まずは先駆け一発! 大きく振りかぶった鉄の棒が

シャムールの脳天へと振り下ろされますが当然、鉄剣で防がれます。

鉄剣より若干棒の方がリーチは長いとはいえ、流石の反応。

まぁ、これくらいで終わってしまってはつまらないです。


「良かった。寝ぼけては居ない様ですわね」

「はははっ、初見の頃とは違います故!」

「あら、お恥ずかしい話を!」

「恥ずかしいのは私も一緒ですよ!」


 防がれ、弾き返された鉄の棒はそのまま大きく振るわれた剣に

私お体は浮き返され、みぞおちに蹴りが叩き込まれます。

しかしそうは行かせませんわ? 膝裏を蹴り上げ、追撃する足

ぐらついたシャムールの体は僅かにぶれたのは……フェイクですわね!?

そのまま、体をひねっては横薙ぎの一閃を私に叩き込んできます。


「スキル〘信仰は鋼の如く〙! そうはいきませんよ?」

「でしょうね!」


 薙ぐ鉄剣の斬撃を受け止めれば鉄の棒はひしゃげる事なく

私諸共を吹き飛ばそうとします。寸前に地面へと突き刺した事により

ごぃぃーっんっという金属のぶつかる音だけが試合場へと響かせる。

鉄の棒に付与した奇跡スキル〘信仰は鋼の如く〙は

物体や身体の強度を増すスキルで本来は防御力を高める為のものです。

この程度では私の信仰も鉄の棒も曲げることなど叶いません。


『猿みたいな動きをするね、聖処女マグダリア』


 突き刺した棒を軸に片手で逆立ちとなり、私の両かかとを

そのまま、シャムールの両肩へと叩きつける。流石に防具もあるとは言え

思わず剣を下へと下げた刹那、両足を相手の首へと絡みつけ

視界を覆う様に腕で締め上げます。体の重さと勢いと共に

シャムールの首を狩る様に引き倒していきます。

締め付けられた首に掛かる負荷でその体をよろめかせる。


「ぐぬぅっ! まだ……まだ!!」

「当然、始まったばかりです!」


 シャムールはそのまま、足を地面から離し、倒れ込む様に後ろへと飛ぶ。

姿勢や体勢の不利などもありますが……あら、ちゃんと足を掴んで

私が逃げられない様になってますわね。其処は抜け目が無い事で。

そのまま、地面へと私の背中は叩き付けられますが

このくらいで根を上げる程柔ではありませんわ?


『あ、うん。ツッコミとか疑問とかあるけど、言う間が無いだけだからね!』 

「なら、観客席にでも居なさい!」

「今なんと?」

「ああ、天使に言伝をしただけです。気になさらず!」

「承知!」


 叩き付けられた背中ですがこの程度では痛くはありませんが

流石に力が緩みますわね。足を離せばと同時に起き上がり

振り向き様の横薙ぎの一閃はまともなモノなら胴が両断されているでしょう。

そのまま、両腕を地面へと着いて後ろへと飛び上がりそれを避けます。

さて、無手になってしまいましたが、それもそれ。

膝を大きく屈めてはそのまま、跳躍し顔へと殴り掛かるが

それを見越していたのでしょう。装備していた額当てで

自らわたしの腕へと頭突きをしては迎え撃ちます。

この反応速度はやはり素晴らしいですわね。

大きく弾かれたと同時に私の腹部へと左腕の拳が打ち込まれます。

その威力で吹き飛ばされる私の体ですが

寸前で突き刺していた鉄の棒を掴みその場へと踏みとどまります。


「そこで足を使わないの?」

「マグダリア様、無茶を言わないで下さい。

 この重さでそこまで軽々しく動けません」

「あら、泣き言で救える命があるのかしら?」

「……っ! 精進致します!」

「結構! 武具と動きのバランスはもう少し考えるべきね!」


 そして、私の体を突き殺しに来る鉄剣を上から棒で叩き付けます。

嗚呼、楽しい。本当に楽しい! やはり、運動は楽しいですわ。


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