オカズの一品目「神殿侍女サキ 味見」
私は部屋に現れた夢魔をしばらく部屋に置くことにしました。
どっちにしろ、私は聖務以外では殆どやる事もなく
鍛錬も秘術の習得も既に終わっています。単独でもその気になれば
小国の軍隊ぐらいは潰せるとの事らしいのですが興味がありません。
あくまで私は救世の儀を執り行う為の依代に過ぎないのですから。
「……ふむ。こんなものでしょうか」
「なんだか服が重くてちかちかして落ち着かないなぁ」
さて、そんな訳ですがこの夢魔、姿を消せる事は消せるのですが
魔力やらでは普通に検知されるらしく、私も気合を入れれば
例え姿を消していても捕らえる事が出来ました。
下位神官は兎も角、此処は聖徒のど真ん中にある大聖堂。
上級神官クラスともなれば、すぐに見つかってしまうでしょう。
「仕方ないでしょう。偽装が必要です。
偽りは本意ではありませんが私はお前を生かすと決めました。
なのでさくっと滅ぼされるのは目覚めが悪いです」
「僕が夢魔だからって死んだ後は夢には出ないよ?」
「そういう事ではありません」
そういう訳で私のお古着である〈セイクリッド・ローブ〉を
着させています。これは体に一時的に[聖属性]の加護を与える
装備であり、私がまだ聖属性が体に染み入ってない間に着ていたものです。
今は肉体改造も終わり、体も[聖属性]になっていたのですが
思い出の品という事でとっておいた物を引っ張り出したのです。
「しかし、エロいね。こんな清純そうなローブの下は
ドスケベなネグリジェとか大分ギャップじゃない?」
「っ~~~~/// 静かに! 今、サキを呼びます」
そう、この白い幼児用誂えたローブの下にこの淫らな夢魔は
それはもう肢体はスケスケに見えてしまういやらしい下着を着ているのです。
くっ、なんだか妙に薄い寝間着だと思ったら下着だったんですね。
一応、腰元位までは覆っていたのでてっきりそういうデザインのモノかと
思っていました。下着……下着だけで寝床に……っ!!!
いけません。興奮し過ぎました。くっ、流石夢魔。
そう言って私は机の上にあるベルを鳴らす。ベルと言っても
りんりんしゃんしゃんとやかましい音ではなく、コーンっと水瓶を
叩く様な低い音が特定の人物の耳へと入る仕組みです。
〈コーリング・ベル〉というのですがなんとも便利ですね。
こうも広い大聖堂で一々使いを呼ばせに行ったり
大きな声を出さなくていいのですから。
「マグダリア様。おまたせ……むっ、何奴!?」
「サキ。用向きはこの子の事です。新しく天界より小間使いの天使が
来たのですが、服も何も持ってないそうなのです。
今は私のお古を着させています」
扉を開けて現れたのは神殿侍女のサキ。
私が物心を付いた頃から身の回りの世話をしてくれている
もはや幼馴染とも言っていい存在です。やや癖の強い金髪に
肢体は日々の雑務に追われた間に引き締まり胸元はまるで
経産婦の様に放漫でそれはもうビッグバストな持ち主です。
白を貴重としたエプロンドレスと法衣を足したかの様なデザインの
仕事着で現れた彼女は開口一番拳を構えます。
「ええ、そんな通達は受けておりませんが?」
「事態は急を要するとの事。私のお古で良いのでこの子に
ローブを仕立て直してくれるかしら?
お古の〈セイクリッド・ローブ〉は全部使っていいわ」
「む、それはなんとでもなりますが、天使様ですか」
サキは夢魔を見つめます。彼女は特に秘術の心得は無く
護身用の格闘術を習っている以外は普通の女性です。
当初は侍女見習い兼私の話し相手として充てがわれたのですが
彼女もすっかり一人前となり、日々まめまめしく私の世話をしてくれます。
実際に変に気を使ったり、後は勘付かれるとまずいと言う
大人な事情なのですが、それもまたこんなところで悪用されるとは。
まぁ、その分気兼ねが無くていいのですけど。
『どもー』
「む、何か言ってますがアタシには聞こえませんね」
「まだ、人語を理解していないのかも知れません。
私には〘霊話〙で話しています」
「なるほど。っと、では採寸させていただきますね」
そういって一度サキは部屋を出ると裁縫箱を持ってきて
夢魔の服の上からサイズを測り始める。夢魔の性別はよく解らないが
こう、ぺったんこの胸元とかお尻のぷりっとした感じとかが
メジャーで調べられると中々破廉恥な趣ですね。くっ、流石夢魔です!
ちなみに当初からなのですが〘霊話〙という秘術や魔術の共通で
魂に呼び掛け合う会話術があり、この夢魔は最初から
それで会話をしています。これの便利な点は口に出さずに
頭の中で相手を指定して念じるだけで会話が通じます。
一応言語は理解しているそうなのですが変に口走って
ボロが出ると面倒なので私にしか〘霊話〙で会話出来ないと言う
設定にしました。うん、これで尋問などされない限り
私と夢魔との会話は誰にも聞かれる事はありません。
「ふむふむ。っとこれでだいたい大丈夫ですね」
『あ、袖は長めにお願いー』
「袖は長い方がいいそうです。暗器でも仕込むのかも知れません」
『え、普通に可愛いじゃん?』
「解りましたー。ま、明日には1着終わらせますよ。
一週間もあれば全部やっておきますので」
「忙しい中すいません。お願いします」
む、そんなくだらない理由の要望を応えてしまいました。
しかし、会話中の変更は難しいのでこのくらいは良しとしましょう。
これからは少し間を置いてから翻訳なりはしないといけませんね。
サキは私のお古の〈セイクリッド・ローブ〉を数着抱えては
部屋を後にします。これでこの子の服の事は大丈夫でしょう。
流石に寝床に下着……あんなスッケスケな下着で居られても困ります。
「うーんっとサキだっけ? あのメイドさん」
「そうです。いい子でしょ?」
「かなりエロいよね?」
「……何ですって!?」
「ふふ、だってエロいじゃん~気付かなかった?」
夢魔はしたり顔で唇を歪めて、さも当然のごとく言い放つ。
どういうこと!? サキは小さい頃から一緒に居た
私の無二の友人でもあり、信頼のおける数少ない人だと言うのに
それをまるで夜な夜な男を誘う淫売であの豊満な胸も
男共に日々揉まれているからでかくなったなんて
考えもしてなかったというのに、どういうことなんですか!
私は思わず言葉を荒げてしまいます。そして、私が怒っているのに
夢魔はローブを脱いで、さっきの下着姿に戻ります!
くっ、怒っているから視線が逸らせないじゃないですか!
「どういうことです! 詳しく話しなさい!」
そして、私はこの日この言葉から豊穣の業を知るのです。
オカズの二品目「神殿侍女サキ 実食」に続く