8 触り合い。
午前の授業をこなして、ランチを済ませて、待ち合わせの図書室Bに向かう。そうすれば、フィロザ様が待っていた。
「行こう、シェリエル嬢」
「ええ、フィロザ様」
差し出された手を取って、重ねる。温かい。
目を閉じれば、また宝石のような輝きの魔力を感じる。
転ばないように眺めるのは、すぐにやめてちゃんと目を開いて歩く。今日はあることをしたい。
ディアモンドの塔に到着した。純白の毛に覆われたドラゴンは、丸くなって眠っている。
「こんにちは、ディアモンド」
小さな声で挨拶をすると、サファイアの瞳を開いた。
「こんにちは、だって」と、フィロザ様は通訳してくれる。
「私、またお願いがあるの。フィロザ様」
「なんでも言って」
「一緒にディアモンドに凭れて少し眠りたいの」
勇気を振り絞って、お昼寝に誘った。
魔王子とちょっとした惰眠したい。
「よし、そうしよう」
フィロザ様は無邪気に笑って、私をまた巻き込んでディアモンドに倒れ込んだ。
もふっと純白のもふもふに包まれた。でも今回はフィロザ様の上。前回よりも濃厚な密着。きゃあ、これで眠れるだろうか。
顔を両手で押さえていたら、頭をなでなでされた。
魔王子の胸の上で惰眠を貪るなんて、ちょっと無理。
そんなフィロザ様を見ていると、ツノが目に留まった。
「……フィロザ様、触れてもいいかしら?」
「ツノかい? 構わないよ」
視線を辿ってツノに触りたいと気が付いてくれたフィロザ様は、承諾してくれる。密着したまま、右手を伸ばす。赤黒い色で、頭を包むように捻れている。
「痛くない?」
「感じない。触れられている感じもあまりない」
「そうなの……」
「不思議かい?」
「ええ」
クルクルと指でなぞっていく。
「ちょっとだけくすぐったいかな」とちょっぴり笑った。
とんがり耳もなぞってみる。耳たぶには黒い石の耳飾り。それから左肩から下ろしている束ねた髪を掬った。深い青色の長い髪。ツヤツヤしていて、どこか冷たくて気持ちが良い。
そんなフィロザ様の髪を撫でていれば、彼も私の髪を撫でる。触り合い。
お昼寝をしようと思ったのに、なんだろうこの状況。
「……」
思い付きで、その髪に口付けをした。
髪に口付けは、思慕。男性から女性にすることが常識だから、同じ意味になるだろうか。それでも想いを込めて口付けをした。
フィロザ様の反応は、驚き。それから私の頭を押さえたかと思えば、唇を重ねた。ついばむように何度も何度も、私の唇に吸い付く。熱いキス。
「ん……」
長い。私は目をギュッと閉じて、その熱いキスが終わることをじっと待った。頭を押さえつけられたままだもの。待つしかない。このとろけそうなキスの時間を堪能する。
「これで足りたかい?」
やっと離れたかと思えば、そんなことをフィロザ様が問う。何のことかわからないけれど、その。
「……はい」
夢心地で答える。
「眠ろうか」
優しく微笑んでは、私の頭を肩に凭れさせた。
結局、フィロザ様の胸の上。ドキドキと胸が高鳴っている今、眠れる気がしない。そう思ったのに頭を撫でられていると、穏やかな気分になっていく。毛布のようにディアモンドの尻尾がかけられて、温かい。
トクントクン、と規則正しいフィロザ様の鼓動を子守唄のように聴き、瞼を閉じた。そうすれば、サファイアの光に包めれる。疎らに宝石の輝きを感じて、そっと息をつく。
至福のまどろみに浸った。
短編として続編であげればよかったと今更思っています。
でも、
また甘い話を思いついたら書きますね!
20170816